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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と腐った聖人》
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五話

 でも話をしないとかこのまま眠ってしまうと、きっとアンは列車を下りる頃にはとても期限が悪くなる。間違いない。コイツとは長い付き合いではないがあまりにもわかりやすい性格だ。頬を膨らませてまともな話もしてくれなくなるだろう。


 汽笛が鳴って列車が動き出した。身体に伝わる振動は、いかにも列車に乗っているという感じがして嫌いじゃない。


 お菓子の袋を片手に食っちゃ飲んでしているファスとは引き換えに、アンは窓際の席で外を見つめていた。頬杖をついて、なんとも気だるそうである。これがスタンスであるのは言うまでもない。


「そんなこと言っておいて、実は隣の席になったのが嬉しくて仕方がないんじゃないか?」


 と、顔を覗き込もうとしてみる。


「なに言ってんのよ気持ち悪い。喜ぶわけないでしょ」


 割りと本気で嫌そうな顔をしてやがる。でもこっちを向いたってことは、実はそこまでイヤだと思っていないということだ。本当にイヤならばそもそも目を合わせようともしないだろう。会話だって繋がらないようにもっとテキトーな感じになる。

「いいっていいって、恥ずかしい気持ちは誰にでもあるよな。自分の主人が好きだなんてそう簡単には言えないよな」

「勝手に妄想しないでよ気持ち悪い。個人的には魔導書の状態でも良かったっての」

「あ、じゃあ戻る?」

「ここまで来ておいて戻るはないでしょうが。こうやって景色を見る機会もないし、今日だけはこのままでいてあげるわ」

「なんでお前はとんでもない高い場所から俺を見下ろしてんだよ」

「私とアナタの関係性を知らしめるにはいいかなと思って」

「いやいや俺が主人なんだって。魔導書の主人。わかる? それとも言葉わからない?」

「言葉くらいわかるわ! アンタこそ私を下に見すぎなのよ!」


 ちょっと起こると「アナタ」から「アンタ」になるのも面白い。心情が非常にわかりやすい。


「別に下には見てないぞ」


 ずいっと近づいて目と目を合わせる。


「な、なによ」


 アンの頬がみるみるうちに紅潮していく。ルルのような愛玩姓はないけれど、これはこれで暇を持て余さなくても済む。


「お前のことは信頼してる。それに可愛いとも思ってる。あまり怒らないで、たまには俺の話もちゃんと聞いてくれよ」


 目が泳ぎ始めた。口を開けたり閉めたりして、思考が言葉になって出てこないんだろう。


 頬が染まるとかいうレベルじゃなく、もう顔面が真っ赤になってしまった。


 顔に触れて頬を撫でてみる。そうすると口を強めに閉じて動かなくなった。面白すぎてしばらくこうしているのもいいかもしれない。


「これ、魔導書で遊ぶのもそれくらいにしておけ」


 と、背中側から声が聞こえてきた。


 仕方がないとアンから手を離して後ろを振り向く。


「遊ぶなんて言い方が悪いぞ。俺は自分の魔導書とコミュニケーションをとっていただけだ。こうすると喜ぶんだよアンは」

「よ、よろこんでないわよ!」


 アンの言葉は完全にスルーの方向でいいだろう。


「ワシの主人がヌシでなくて本当によかった。レアは非常に大人な少女じゃからな」

「俺が主人になれば飽きることなんてないのに」

「ヌシが飽きなくてもこっちが疲れる。ワシは普通が一番だ。そう考えると、過干渉のないレアはワシにぴったり」


 なんて言ってはいるが、通路を挟んだ向こうから「ファスー、お菓子食べますかー?」とレアに言われ、躊躇なく「いるのだ」と食べさせてもらっているのはどうなのか。


「個人的にはこういうのも必要だと思うんだがな」

「コミュニケーション的な意味でか?」

「ああ。魔法少女の性格もわかるし信頼関係も築ける。まさにウィンウィン」

「それで信頼関係が築けるなら楽なもんだわな。やらないよりはましだとは思うが。つまり一緒に寝るのもその延長線上だと」

「それは違う。あれはヤツらが勝手に布団に潜り込んでくるだけだ。俺の意思ではない」

「なるほどのぅ。で、その信頼関係が強さに直結するとヌシは考えているわけだな?」

「当然だ。戦闘においての連携にも信頼は必要だ。なによりも命を預けられないし、戦闘中に命を預けてもらえない。昔メーメに聞いたことがある。死ぬのは怖いか、と。メーメは言ったよ。「魔法少女、魔導書であっても滅びは恐怖しか感じない」と。だから命を預け合う関係がなきゃ、いざという時に足が竦んじまうだろうが」

「信頼関係があっても足は竦むよ。人間だって魔導書だってそうだ。怖いと思った時に他人のことにかまってはいられないのだ。メームルファーズが怖いと言っていて、ヌシはそれを看過し続けるのか? いざという時に恐怖を感じる魔導書を放置するのか?」


 まあ、確かに言いたいことはわかる。本当に怖いと思ったら、手も足も動かなくなってしまうかもしれない。自分の身可愛さで逃げてしまう可能性だって少なくない。


「そのための契約だろ。魔導書が滅びれば魔操師も死ぬ。魔操師が死んでも魔導書は滅びないが、だからこそ自分の身を守るために魔導書からの信頼を得るんだ。違うか?」

「うむ、非常に正しい。まあ、それがわかっているのならばいいさ。遊んでいるだけでないとわかっただけでワシは満足した」

「お前を満足させるために会話をしていたわけではないが……」

「そう言うな。ワシはそこそこ楽しいぞ、ヌシとの会話はな。芯があるようでないようで。何事にも興味があるようでないようで。吹いたら飛んでいってしまいそうな雰囲気があるにも関わらず、妙に人との繋がりを大切にしたがる。ヌシは、非常に面白い」

「なんだよそれ、俺の人間性を疑われてるみたいじゃねーか」

「そういうわけではないが……そうだな、これからもレアのことを大事にしてやってくれ」

「どういうことなんだよ? どうしてそうなった」

「疑っていないということだ。ヌシにレアの背中を任せる。ワシが主人を助けて欲しいと言っているのだ。それは、ヌシを信頼しているということにならんかね?」

「わかりづれーよ。だが言われんでもレアのことは守る。逆に俺はレアに守ってもらうわけだが」

「その時はワシも尽力しようぞ。ヌシとレアなら間違いなくレアを取るがな」

「それは構わん。というかそうしてくれないと困る。俺には優秀な魔導書が四つもあるからな」

「それもそうだな」

 ファスが「くあー」っと大きなあくびをした。食べて飲んで、そのせいで眠くなったのかもしれない。

「目的地まではまだ時間がある。そのまま寝ろよ」

「そうさせてもらうか」


 なんて言いながらアイマスクを取り出す。どこで手に入れたんだよそれ、というのは突っ込まなかった。


 ファスが寝てしまったのでやることがなくなった。俺も少しばかり仮眠を取るか。


「私のこと忘れてるんじゃないでしょうね!」


 という声が聞こえてきたような気がしたが、目を閉じたら急に眠気がやってきた。別に無視しようとしたわけではない。単純に眠くなったのだ。そうだ、そうに違いない。

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