四話
目を覚ました。昨日は全員でよくわからない水をがぶ飲みしてどんちゃん騒ぎだった。宿の主人がコップの中身を教えないものだからよくわからないが、よくかららないまま騒いで、よくわからないまま眠ってしまった。
「クソ重い……」
魔法少女たちだけならまだよかった。ロリの集団ならばまだ軽いからだ。しかしエルメロード姉妹は半数が普通の大人と相違ない。だから乗っかられたりすれば割りと重いし、腕や脚を掴まれると剥がすのに苦労する。
そして苦労の末、なんとかベッドから抜け出した。
ベッドの横に立って人数を数える。
「一人足りないか」
顔を洗い、歯磨きを済ませ、着替えてからコートを羽織った。
一度宿からでて、宿の庭へと向かった。広い広い、芝生が敷かれた庭だ。
この町はスルヴァンのように雪国ではない。確かに寒いが、あまり雪は降らないんだそうだ。
庭の中央では、レアが小鳥に餌を与えていた。芝生の上で上品に座り、手のひらにパンくずを乗せていた。小鳥たちがパンくずをついばむのを、彼女は優しそうな眼差しで見ていた。
その空間だけ、この世のものではないように見えた。とても清らかで、別の世界に迷い込んでしまったかとさえ錯覚する。いや違う。彼女の存在が、自分が知っているレアという少女とは違うのではと思ってしまったのだ。
パンを食べ終わったであろう小鳥は、もう食べ物もないのにレアの肩に乗っていた。彼女の周りで戯れ、まるで彼女のペットであるかのようだ。彼女にはきっと、そういう才能があるのだろう。人に、動物に好かれる才能だ。話をし、話を聞く才能だ。
「あら、どうしたのですかロウ」
「いや、朝起きたらお前がいなかったからな」
「さすがにその、重くて」
「気持ちはわかる。俺もそうだった」
「あ、ダメですよ? 女の子に重いとか言っては」
「おまっ、ふざけんなよ。お前が先に言い出したんだろうが」
「私は女の子なのでいいのですよ」
フフッと、彼女が淑やかに微笑んだ。
「ほら、おいきなさい」
彼女がそう言うと、小鳥たちが一斉に飛び立っていった。彼女の言葉を理解しているような、そんな感じだった。
「よいしょ」っと立ち上がり、俺の前まで歩いてきた。
「そろそろ朝食ですかね」
「そうだな」
「もしかして、お迎えに来てくれたんですか?」
「別にそういうわけではないが。いなかったから気になっただけだ」
「んふふー」
「なんだよその気持ち悪い笑い方。さっきの上品なのはどこにいったんだ」
「いやあ、口では言わないけど迎えに来てくれたんだなーと」
「違うつってんだろ……」
「いいえ、違いませんよ。アナタは私を迎えに来てくれる。いつでもどこでも。きっとアナタは私の騎士様なのですね」
「そんな大層なもんじゃない。俺はお前を助けるためにスルヴァン城に行ったわけじゃないし、今の状況だってお前を助けようとして助けたわけじゃないんだ。所詮結果的にこうなっただけさ」
「それでもアナタは近くにいてくれます。こうやって迎えに来てくれます。そして私を助けようとしてくれます。それでいいのです」
「お前がそれでよけりゃなんでもいいさ。ほら行くぞ。お前の姉と妹を起こしに行かないとな」
「そうですね」
と、レアが手を出してきた。
「なんだよその手」
「こういう時くらい、独り占めしても文句は言われませんよね?」
「独り占めってどういうことだよ」
右手で拳を作り、額を三度叩く。そして、素早く彼女の手を握った。
「あら、乱暴だこと」
「うるせーよ、文句言うな」
こうして、彼女の手を引いて部屋に戻ることになった。
部屋までにこにことしていて、正直なにを考えてるのかわからなかった。しかし、会話は普通にできた。
ファスがあまり出て来たがらないだとか、姉妹ができて嬉しいだとか、人としてようやくスタートラインに立っただとか。それはそれは楽しそうに語るのだ。
たぶん、コイツは俺に好意を抱いているんだろう。けれどそれは恋愛感情とかそういうのじゃない。コイツが目覚めた時に俺と出会ったからで、俺がコイツを助けたからだ。他のシスターズもそう。
もしも彼女たちがそれを恋愛感情だと勘違いしているのならば、俺はどこかで正してやらなきゃならない。
俺は誰かに好かれるような人間ではないから。誰かのためになにかをして生きているわけではないから。勇者でも、英雄でもないのだから。自分のため、自分の目的を成すために生きている。それを、いつか教えてやらなきゃいけないのだ。
部屋に戻ると魔法少女もシスターズも起きていた。
しかも「なに二人で出かけてるのよ!」とか「若いから仕方ないのね」とか「私も起こしてよー!」など、この大人数でいろいろ言われた。朝からとんでもない騒ぎになってしまった。
結局全員を沈めるのに三十分くらいかかってしまった。
この人数だから部屋で食事をすることもできず、昨日と同じく宿の食堂で朝食をとった。大所帯だけあって、なんというか周りの目がとてもつもなく痛い。特に男が俺だけなので、周囲から「どういう集団?」「スケコマシ……?」「家族、には見えないけど」なんて言われているっぽい。さすがにスケコマシだけはやめていただきたい。
朝食をとってすぐに宿を出た。魔導列車の時間が迫っていたからだ。
幸いと言ってよかったのは、駅まで徒歩五分という立地条件の良さだ。
駅についてすぐ、思わず見上げてしまった。駅そのものが結構な大きさだったからだ。魔導列車は大きいので当然と言えば当然なのだが、お世辞にもこの町は大きいとは言えない。この町にこんな駅があると、もう駅がメインなのか町がメインなのかまったくわからない。
切符はじいさんが持ってきたらしい。俺がレアと外にいる時に部屋に来て置いていったみたいだ。この長距離、この人数の指定席の切符とかかなり高かっただろうな。
席をジャンケンで決めて、それぞれが車両に乗り込んだ。
列車は三人がけのイスが左右に設置されている大型の車両だ。ちなみに魔法少女たちの分の切符もあったので、彼女たちは外に出しっぱなし。
で、俺の左右はと言うと――。
「よろしくな、ロウ」
「なんで私がアナタの隣なんかに……」
右がファス、左がアン。なんというか、あまりにも取り合わせが微妙すぎて反応に困る。これならメーメとレアに挟まれた方が楽だったぞ。




