三話
だが、俺はこの時忘れていたのだ。
この女たちが「エメローラのクローン」であることを。
昼食を食うにもなにをするのにも「これはなに? あれはなに?」と訊いてくる。魔法少女たちも「どうしてこうなってるの? 私たちはこうなるために生まれてきたのかしら?」ともみくちゃにされていた。
風呂に入る時なんかも「なんでロウは一緒に入らないの? 一緒に入りましょうよ」と、ほぼ全員で手を引いてくる。単体で見れば俺の方が力は強い。でも十人以上に手を引っ張られたら、どうやったって勝ち目はない。
「んで、結局こうなるわけか……」
湯船につかりながらそう言った。周囲は裸の女だらけ。
どうして混浴がある宿を選んでしまったのか。いや、俺が選んだわけではない。あのじいさんがすべての原因だ。
「苦労してるみたいね」
「そう言いながらくっつくんじゃない」
メーメが上目遣いでこっちを見た。肌は密着し、本当は魔導書なんだということすら忘れる。
「それにだ、苦労してんのは見てればわかるだろうが。なんでもかんでも質問しやがって」
「それはエメローラの本質というやつなんでしょうね」
「本質? 元々のエメローラの大きな部分ってことか?」
「そういうことよ。レアだって、初めて出会った時はそうだったじゃない。知識を吸収したいという欲求はないのよ。ただ知りたいだけ。ただ、疑問を持っただけ。でもその代わりに吸収力が高いのはアナタも知ってるはずよ」
「まあ、な。レアに魔導術を教えた時も思った。彼女たちは魔導術に関しての適正がずば抜けて高い。それだけじゃなく探究心もある。頭もいい」
「おまけに美人。もう、ロウも男なのね」
「今関係ねーだろ……」
「そう言いながらも彼女たちの裸を目で追っているわ」
「そんなことはない」
「ここだって男らしくなってるじゃない」
「股間を触るな」
湯船の中でメーメの手を払い除けた。
しかし、これほどまでに大小様々な女体があれば目で追うのも仕方がないというものだ。
まあ、ロリは見慣れているわけだが。
「今日は誰とお楽しみなのかしらね」
「普通に寝るわ。なんで俺がケダモノみたいな言われ方されにゃならんのだ」
「これだけたくさんの女の子に好かれているのに手を出さないの? 男の名折れじゃない」
「アイツらは俺に興味があるだけだ。あれは異性としての感情じゃない。そうだな、親子や兄妹に向けるような感情に近いはずだ」
「私はそうは思わないけどね」
「そう言いながら股間を触るな。色欲魔神かお前は」
「私はいつでも準備できてるのに」
「ロリに興味はないが」
そろそろ熱くなってきたな。
そう思って湯船から上がると、目の前に十四人の女が仁王立ちしていた。
「なんだよ、お前ら」
嫌な予感がした。
「そら! みんなかかれー!」
マイアが指示を出すと、他の十三人が一斉に襲いかかってきた。
「おいやめろ! なにすんだよ!」
気づけばシャワーの前に座らされていた。数人で頭を洗い始めたかと思ったら、他の数人で身体を洗い始めた。
「男の人の身体って筋肉質なんだねー」
とウェズが言う。
「あらあら、もうこんなになっちゃって」
とアトリアが言った。
誰かの手が顔まで伸びてきて、顔面まで泡まみれだ。
「はい、立ってくださいね」
エルナトの指示に従って立ち上がった。もうどうにでもなれ、としか思えなかった。
こうして、俺は彼女たちにされるがままに泡まみれになり、風呂から上がることには無駄にピカピカになっていた。
夕食もやけに賑やかだった。アレが好きだのアレが嫌いだの、個性に溢れすぎて困ったものだ。
だが、少し見ていてもよくわかる。比較的身長が高い方のやつは面倒見がいい。そして身長が低い方のやつは非常に子供っぽい。作られた順番かなにかなのか、こうしてみると姉妹みたいだ。
「そういや、まだ姓を決めてなかったな」
「姓、ですか?」
お茶を注いでいたレアがそう言った。
「ああ。そうだな……」
これはわかりやすいのがいい。彼女たちがエメローラであり、エメローラではないというのがわかる姓。
「よく聞けお前ら。お前らの姓はエルメロード、これでいこう。それとお前ら十四人は姉妹ってことにする。エルナトを長女として次女アトリア、三女アルマ、四女ミザール、五女シャウラ、六女シリウス、七女マイア、八女カノ、九女レア、十女ナオス、十一女メラク、十二女ウェズ、十三女ミラだ。これも異論は認めないからな。今日からお前らはエルメロード姉妹だ」
少し大きめの声でそう言って、俺はまた食事に戻った。
一瞬だけ静まり返った室内だが、すぐにまた騒がしくなった。聞こえてくる声色からすると、割りと受け入れているみたいだな。
「よかったですねロウ」
「聞き分けが良くて助かるよ。これで何人かに反発されたら厄介だ。お前もエルメロード姉妹ってとこには賛成なのか?」
「もちろん。いいじゃないですか。クローンたち、っていう括りからだいぶ遠ざかりました。私たちはきっと、これから一人の人間として生きていかれるでしょう」
「そりゃお前ら次第だよ」
「そう、かもしれませんね」
フフッと笑って、レアもまた食事に戻っていった。
いろいろあったが、今こうやってコイツらが笑っていられるなら、俺の苦労も悪いものじゃなかったのかもしれない。




