二話
買い物から帰ってきて、ビニール袋を机の上に置いた。
「なんですか、これ」
早速ビニール袋の中を漁りながらエメローラが言う。
「名札とその他もろもろだ」
「名札、ですか?」
「よく考えろ? お前も含めてエメローラが十四人もいるんだぞ? 全員を全員エメローラって言うわけにもいかんだろ」
「それで名札って、どういうことですか?」
「これから俺がお前らに名前をつける。異論は認めない。エメローラって名前がどれだけ気に入っていようともだ。いいか?」
全員の顔を見ながら言った。十四人から反発されれば、いくら俺でも精神的にキツイ。だから言うか言うまいかは迷った。
けれど結果的にはこれで良かったらしい。というかなんでみんな目を輝かせてこちらを見ているのか。
次の瞬間、エメローラの集団が口々にいろいろ言い始めた。
「ワタクシの名前は?」
「わたしもはやく名前ほしい!」
「綺麗で高貴な名前がいいわ」
「私はまあ、どうでもいいけど」
「うふふっ、楽しみだわー」
「ボクにも似合う名前、お願いね!」
もう好き放題だ。コイツらはエメローラっていう名前に執着がないのだろうか。
いや、ないんだろうな。エメローラのクローンとして生まれ、そう言われてきた。だから、違う誰かになりたいのかもしれない。
エメローラとしてではなく、ちゃんとした「誰か」に。
名札に名前を書いて、小道具と一緒にテーブルに順番に並べていった。
そして「お前はこれ、お前はこれ」と指差して指示を出す。が、誰一人としてテーブルから名札と小道具を取りはしなかった。
「おい、なんで取らないんだよ。ちゃんと指示は出したろ」
「アナタね、女心がわかってないんじゃない?」
メーメがそう言って紅茶を一口飲んだ。
「は? お前はそもそも女かどうかも怪しいじゃねーか」
強烈なボディブローがぶっささる。
「ごおおお……いったいなんなんだよ……」
「この部屋でわかってないのはアナタだけよ。ね?」
メーメはエメローラたちだけではなく、他の魔法少女たちの顔を一人ずつ見ていった。全員なんだか照れくさそうに笑っていた。
「あのですねロウ。皆、ちゃんと名前を呼んで、ロウに名札を付けて欲しいんですよ。その小道具も」
エメローラが隣で言う。
なるほど、そういうことか。よくわからないところでなんでこんなよくわからないハーレムが出来上がっているんだ。
「わかった、もうわかったよ」
名札と小道具を持って立ち上がる。左から順番に名札を付けていく。
「お前はスピカ」
非常に大人しそう。頭には花の髪飾り。
「ミザール」
目つきが鋭くちょっと高飛車そう。腕にはブレスレット。
「ミラ」
背が低く、人の後ろに隠れてしまいそう。頭にカチューシャ。
「マイア」
少し肌の色が濃くて快活そう。太陽チャームがついたヘアピン。
「シリウス」
口数が少なく、若干冷たそうな感じ。翼が描かれたイヤーカフ。
「シャウラ」
一番背が高く、それでいて気弱そう。首にハート型のネックレス。
「アトリア」
年上の風格があり、いつも誘っているような目をしている。腰にチェーンのベルト。
「カノ」
お淑やかで行儀がいい。赤い球がついたカンザシ。
「エルナト」
皆を束ねる清楚な雰囲気。胸に蝶を模したブローチ。
「ウェズ」
元気いっぱいで太陽みたいに明るい。長い髪の毛をまとめるシュシュ。
「アルマ」
包み込むような優しさを持っている。耳にしずく型のイヤリング。
「メラク」
ニヤリと笑いながらイタズラをする。大きな黄色いリボン。
「ナオス」
無表情でなにを考えてるかわからない。小指にピンキーリング。
そして最後にこの名前を口にする。
「レア」
彼女は立ち上がり、目を閉じた。
いつも敬語で、きっとこれからも直らないだろう。明るく優しく、慈しむ心を忘れない。そんな彼女にはスカーフを。おそらく、この十四人の中で一番お姫様らしいのはレアだろうと思ったからだ。
「最初に言ったが気に入らなくても一切聞かないからな。まあ、もし気に入らなかったらヴェルにでも――」
言いかけた時にはもう遅く、俺は元エメローラたちの群れに襲われていた。抱きつかれ、もみくちゃにされた。
喜んでくれているのはありがたいのだが、もう少しやり方というのを考えて欲しいものだ。
たまにはこういうのも悪くはないか。そう思いながらも甘んじて受け入れてしまうから、魔法少女たちにも好き勝手されるんだろうな。
彼女たちをベッドやらイスやらに座らせて、一度落ち着かせる。これからの話をしなきゃいけないからだ。
ヴェルの家まで、魔導列車を使っても三日はかかるだろう。その間、俺はこの人数の面倒をみなきゃならない。しかしだ、コイツらには教養がない。一般常識や知識という物に欠けているのだ。
エメローラだった頃の記憶はあるらしいのだが、人格がバラバラであるように、ひとりひとり無駄に個性がある。それは記憶も例外でなく、半分の元エメローラが知っていることを半分が覚えていないということもままあるようだ。
俺一人ではきっと無理なので、そこは魔法少女に上手くやってもらうしかない。一応レアならば上手くやってくれそうだ、コイツはコイツで常識がない。特にお姫様だった頃の記憶が強すぎて「一般常識」という意味でいけばあてにならない。
元エメローラに言えることは、実はあまりないのだ。
「いいか、俺や魔法少女の言うことを聞くように。好奇心が先行しても、なにか見つけた場合にはかならず俺たちに声をかけろ」
そう言う他なかった。割りと真面目な話なので、俺も真剣な顔で話をした。彼女たちも察したかのように、神妙な面持ちで頷いていた。




