一話
スルヴァンの町には人がいなくなった。城にも、町にも、どこにもいなくなった。元々小国、元々町もほとんど持たない国だった。王国が滅んでから、近隣の都市や町をまとめて「スルヴァン共和国」になった。名前こそスルヴァンの名を冠する共和国だが、実際国を統括する大統領は別の都市にいる。世の中も難しいものだ。
泊まるところもなくなった俺たちは、警察にすべてを任せて商業都市アーファスへとやってきた。というか、じいさんに無理矢理連れてこさせられた。
アーファスでもそこそこいい宿、しかも一番大きい部屋に泊まることになった。
それは、いいんだが……。
「おいじいさん、こりゃどういうことだよ」
「どういうって、見ればわかるだろ?」
「見ればわかるよ。わかるけど理由がわからん。なんで俺たちが泊まる部屋に生き残ったクローンたちがいるのかってことだよ」
ソファーにはメーメとエメローラに挟まれた俺。テーブルを挟んだ向かい側にじいさん。そして俺の後ろには、ファーブニルの攻撃から生き残ったエメローラのクローンたち、総勢十三人がいた。もうエメローラばっかりで意味がわからない。一人ひとり特徴がないわけじゃないが、名前が一緒なのでどう呼んでいいかわからない。
クローンたちの中には、なぜかルル、アン、タルト、そしてファスが混じっていた。
「ブルックはこれからワシと一緒にワシの研究室へ行く。しかしヤツの目的はあくまで研究。クローンたちは必要ないというわけだ。必要になったら呼び寄せるだろうがな」
「必要ないって、物じゃねーんだぞ」
「しかしクローンだ」
「その言い方は良くねーな。それともなにか? こいつらを利用して、また妙な研究をさせようってわけじゃねーよな?」
「だったらどうする?」
「させるわけねーだろ。こいつらだって生きてる。生まれ方は人と違うだろうけど、ちゃんと体もあって命もある。血の通った生物として二本足で立ってんだよ」
「ふむふむ。お前がそう言うなら仕方ない。一つだけ、その子たちが今後研究材料にならない方法を教えてやろう」
「もったいぶらないで早く言えよ」
「お前が所有者になることだ」
「じいさん、もうろくしてんじゃねーよな?」
「失礼だな、しとらんわ。彼女たちに人権を適用させるには少しばかり時間がかかる。それまでは物として扱わざるを得ない。しかしお前はそれが嫌だという。ならばお前が所有者になって守ってやればいい」
「おまっ……くそっ。もうなに言ってもダメなんだろ? わかったよ。こいつらが人間として認められるまでは俺が所有者になる。これでいいんだな?」
「素直でよろしい」
「よろしいじゃねーよ、半分脅迫みたいなもんだぞ。で、まだ培養液の中にいたクローンはどうなるんだ?」
「それはこちらでちゃんと運び出す。あの子たちにはまだブルックが必要だからな」
「研究材料にはさせねーからな」
「わかっているよ。それでだ。人権が発生するまでの間、ある人物が彼女たちを引き受けてくれると言った。お前はその人に彼女たちを引き渡す。これが今回の任務だ」
「任務って言い方どうなんだよ」
「任務だ。ちゃんと給金も発生する。そうでなくては養えないだろう?」
「養う? 誰をだよ」
「彼女たちだよ」
じいさんが俺の背中より向こうを指差した。
「衣食住は保証するが、そのためには金が必要だ。しかもこれだけの人数。お前はしばらくワシの犬ってわけだ」
「なにもかも思い通りじゃねーか。くそ腹立つ」
「そう言うな。これから魔導列車に乗ってウエストレギオンのエルクストへ。そこからトーリエを経由して――」
「おいおいおい待て待て待て。それってもしかして」
「この子たちを引き受けるのはツーヴェル様だよ」
「あんのクソ女……」
「慈悲深いお方じゃないか。その子たちに延命用の魔導石を一人一つずつ与えて、なおかつ自分の家で生活させるっていうんだから」
「なに考えてんのかわかったもんじゃねーな。まあいい、俺はツーヴェルにこいつらを渡す。とりあえずはそれでいいんだな?」
「ああ、後は追って知らせる。それじゃあワシはもう出るからな。一泊してから出るといい」
「わかったよ。こっちはこっちで上手くやる。またな」
「うむ、それじゃあの」
そう言ってじいさんが部屋から出ていった。
「でさ、なんでお前は俺の腕にしがみついてるわけ?」
右腕をぎゅっと抱き込むエメローラにそう言った。
「こうしているの心が落ち着くのです。離れているとなんだか胸が苦しくて……」
後ろに視線を向ける。十三人のエメローラたちがキラキラした目でこっちを見ていた。
本当はもっとたくさんいたのだが、ファーブニルにほとんどやられてしまった。不甲斐なさで頭を抱えたくなる。
しかし、こんなことをしている場合ではない。
「俺はちょっと出かけてくる。お前らはここで大人しくしていろ」
「お供します」
「いいから! お前もここにいるの!」
「では私が」
「メーメも留守番だ! 俺だけでいく。一時間程度で戻るから仲良く雑談でもしててくれ。おい、お前らも連れてかないからな、目をキラキラさせるんじゃない」
二人を振り払って無理矢理部屋から出た。人数だけでも二十人だぞ。一つの部屋に二十人。さすがに生きが詰まりそうだ。
「さて、行くか」
頭を掻きながら歩き出した。向かう先は雑貨屋。いろいろ考えることは多そうだ。




