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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と不死の皇女》
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二十三話〈リターン:ロウファン〉

「ロウ、これ以上数が増えるとさすがにマズイわ」

「なにがマズイんだ」

「私の影にも限界がある。エメローラたちを拘束するので手一杯よ」

「わかった、それならそっちに集中してくれ。こっちはこっちでなんとかする」


 エメローラを強制解除に送り込んだあと、町の住民たちが一斉に襲いかかってきた。爺さんも婆さんも、ここの住民は皆戦闘員だった。しかも結構な手練れ。負けることはないが、ここまで数が多いと多勢に無勢だ。俺も魔法少女たちも限界が近い。


「さて、どうするかね、正義のヒーローさん」


 そう言ったのは宿屋の主人だった。今回の黒幕で、ブルックや警官を指揮していた男。次々と住民が攻撃してきて近付くこともできない。その間にこっちは消耗していくばかり。じいさんが来てくれれば解決するんだろうが、あの人はきっと来ないだろう。


「今ならまだ間に合う。私と手を組まないか?」

「手を組んでなにするってんだ。それに、アンタに勧誘されるほど有能な魔操師じゃないと思うがね」

「いくつもの魔導書と契約しているだけで充分有能だ。キミにも野心があるんだろう? その野心のためにも、私に協力した方がいいと思うがね」

「俺の目的を知ってるのか」

「勇者ヘリオードの殺害、だろ? わかっているさ。キミのことは調べた」

「アンタ、何者なんだよ」

「さあ、それは今言うことじゃない。キミがこちらに来るというなら別の話だがね。こうしている間にも、着々と計画が進行している。首を縦に振らなければ、キミはここで死ぬ」

「計画がなんなのかってのも、教えちゃくれないんだろうな」

「教えなくてもじきにわかるさ。ほら、地響きのようなものが聞こえてきているだろう?」

 確かにゴゴゴゴっという音が聞こえてきている。それに若干の横揺れ。

「地震……?」

「違うな。ファーブニルだよ」

「ファーブニル? あれは空想上の生き物だ。巨大なドラゴンで、現存するドラゴンとは比にならない大きさと強さだ」

「本当かどうかはキミの目で確認するといい」


 一際大きな地震がきて、すぐに収まった。かと思えば鳥の羽ばたきのような音。いや、鳥のとは比較にならないほどに重圧感があって大きな音だった。


 月明かりに照らされて、なにかがこちらに向かってきた。そのシルエットはドラゴンそのもの。だが体も翼もかなり大きい。


「あの湖はな、ファーブニルを封印していたんだよ。氷を固めていた鍵がエメローラだ」

「んな馬鹿な。あんなデカイドラゴンがいたのなら、町なんて一瞬で壊滅しててもおかしくない」

「スルヴァンの家系は強大な魔力を持っている。そして魔獣を縛るための手段もある。ファーブニルを封印しておくなど問題ない。ただ、ちょっとした事件が起きた。湖を封印していたはずの王が殺されてしまったのだ。だからエメローラを鍵にした。エメローラはまだ若く、封印の儀を継承されたわけじゃないからな」

「それをなんでアンタが知ってんだよ。信じるとでも思ったか?」

「私の一族がファーブニルの守り手だからだよ。スルヴァンへの忠誠を誓った、歴史の証人だ」

「ファーブニルの守り手がファーブニルを解き放つのか。一体なにを考えてんだよ」

「我々は鍵の量産に成功した。そしてその技術を利用して、ファーブニルも量産する。ファーブニルを操れる、強力な魔力を持つ皇女もたくさん造れる。我々の目的は、もう果たされたも同然なんだよ」

「エメローラを、エメローラたちを物みたいに言うんじゃねーよ」

「物だよ。鍵だ。駒だ」

「その発想が気に食わない。やっぱり俺はアンタらとは一緒に行かれない。俺はアンタらと一緒にはならない」

「クローンに対していやに感情的になるな」

「例えクローンだろうがなんだろうが、一人の人間として生まれたんだ。この世で命を与えられたんだ。一人ひとり自我があるんだ」

「いやに執心してるな。惚れたか?」

「惚れようが惚れまいが関係ないね。俺はアンタらのやり方にムカついただけだ」

「だが話はここで終わりだ。残念だよ、同じ志を持っているというのにね」

 羽ばたく音が大きくなって風が巻き起こった。

「ではな、若いの」


 宿屋の主人は数歩後ろに下がり、闇の中へと消えていった。


 代わりに、上空からファーブニルが降りてきた。住民たちを吹き飛ばし、踏みつけ、それでも気にした様子がない。


「アイツを制御する人間がいないってことか……」


 このままだと俺たちもヤバイ。住民たちの攻撃はおさまったが、逆に面倒なヤツと戦わなきゃならなくなりそうだ。


 ファーブニルが吠えた。耳をつんざく咆哮は、耳を塞いでも手をすり抜けてくる。周囲に火を吐き、周囲の住民を焼き殺した。


 住民には苦労させられたし、面倒な相手だなとも思った。それでも死ぬことはない。


「あの野郎……!」


 住民がどういう思考で計画とやらに加担していたのかも知らないし、操られてたのかもわからない。それでも、生きていたんだ。


 俺はヘリオードを殺したいだけだ。それなのになぜこんな気持ちにならなきゃならない。なぜ、敵だったヤツらに対して感傷を抱いてるんだ。


「やーやー、困ってるみたいだね」


 そこに現れたのはブルックだった。


「まだ生きてたんだな。とりあえずどっか行っててくれ。ファーブニルをなんとかしなきゃならない」

「そう言うなよ兄弟」

「兄弟になった覚えはない」

「エメローラのクローンたちを退かせる、と言ったら?」

「急に虫がいいじゃねーかよ。なんか取り引きでもしようってか?」

「宿屋の主人、確かにボクの雇い主だ。しかしその雇い主はどっかにいっちゃったんだよね。雇い主がいない今、雇い主に忠誠を誓う必要もないだろ?」

「じゃあなにか、俺に雇い主になれってか? 俺はお前にやるだけの金はない」

「この場で金なんかあっても仕方ないじゃないか。ボクが求めるのは命だ。それと安全な場所。あのドラゴンを倒した後で、安全な場所で暮らせるようにして欲しい」

「それが交換条件か」

「ああそうだ。できるかい?」

 コイツを信用するべきかどうか。考えている時間はない。

「わかった。無事にコイツを倒したらお前に居場所を提供しよう」

「あてはあるのかい?」

「これでも魔女と知り合いだ。アイツらになんとかしてもらう。それに俺をここまで連れてきたじいさんもいるしな」

「おーけー、契約書なんて書いてる暇はないね。ボクはキミを信用する。キミはボクを信用してくれるかい?」

「信用するしかないだろ。さっさとエメローラたちを退かせろ」

「わかったよ」


 ブルックがポケットから長細い笛を取り出した。それを一息吹いて「もういいよ」と言った。


「メーメ! エメローラたちを離せ! それからみんなでファーブニルを撃退する!」


 渋々といった感じで影を仕舞ったメーメ。影の拘束がなくなったエメローラたちは大人しく、敵意も感じられなかった。


「なにをしたの?」

「ちょっとした取り引きだ。クローンたちはもう襲ってこない。その代わりと言っちゃなんだが、俺たちはコイツの相手をする」

「これはまた、面倒くさそうな相手ね」

「倒せると思うか?」

「できないことはない、という感じかしら」

「どうすれば倒せる?」

「こういう相手は総じて目が弱点よ。一度両目を攻撃して失明させ、その後心臓か脳のどちらかを破壊する。これしかないわね」

「心臓と脳の壊し方が問題だが、とにかく目を攻撃するしかなさそうだな。全員ファーブニルの目に向かって攻撃! ブルックはクローンたちを使役してこっちのエメローラを守らせろ! 連携は各自に任せる!」


 そう言ってから、ファーブニルに向かって駆けていく。ファーブニルは炎を吐き、町の住人たちを燃やしていた。その大きな足で踏み殺していた。

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