二十話
〈試練開始〉
「じゃあ私からだな。最初は完全に運だからな。そうすると、セオリーとしていけば、Dが9」
「申し訳ありませんが違いますね」
「残念だ」
ルノレアンファスがカードを一枚引く。迷っている素振りを見せながら、Cの3を捨てて、引いたカードをそこに入れた。
ルノレアンファス:コール、D9、不成立。ドロップカード、3。
(仮にAが0、Bを5とした場合、今入れたカードの振り幅は1234。捨てたカードをもう一度引いた可能性はかなり低いからこれは除外。すると振り幅への影響は124。でも逆に二枚目の0の可能性はゼロではありませんね)
ルノレアンファスと同じように、Dを指定して9をコール。彼女も9を持っていなかった。8のカードを引き4のカードを捨てた。
エメローラ:コール、D9、不成立。ドロップカード、4。ハンドカード、0358。
「一つ訊いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「カードの山がなくなったらどうするんですか?」
「自動供給される。でもその度ヌシに切ってもらう。この空間ではそれがフェアだと思うからのう」
「私が切ったカードが改ざんされないという保証はなさそうですが」
「大丈夫だ。ワシにその権限はない。この空間はワシが操作しているわけではないからだ。言ってしまえば、最初から備え付けられているものなのだ。もしイカサマができるとすれば、ワシにも、ヌシにも行えるイカサマだけだ」
「あくまで公平、ということですね」
「ああ、だから心配ない。A、0だ」
「当たりです」
そういって0のカードをスタンドから外してテーブルに置いた。
「一歩リードだ」
そう言いながらDの8を捨てて、新しいカードをBに入れた。
ルノレアンファス:コール、A0、成立。ドロップカード、8。
(今までの感じからすれば、彼女は9を持っていなかったからこそ9をコールした。規則性を調べるにはまだ足りないけれど、ここでAを0とコールするべきではないのかもしれない。彼女の後追いでは絶対に勝てない。そしてなにより彼女の手札だ。またBの位置。中央を厚くしている? でも8を捨てるということは、自分自身で中央に集めていると言ってもいい。その意図は、一体なんだろう……)
「コール、D、7」
「残念だな」
エメローラは0のカードを引いた。捨てカードに3を選ぶ。
(7ではなかったということは6? いや、たぶん8だ。これはきっと同じカードをどういうふうにするか、という部分に意味がある。同じカードを引けば相手の思考を濁すことができるから。可能性を考慮すれば、同じカードを引く確率や、捨てたカードと引いたカードが同じになる確率は低いはず。それなら私はこうするのが一番いい。彼女はきっと、私と逆のことを考えている)
エメローラ:コール、D7、不成立。ドロップカード、3。ハンドカード、058。
ルノレアンファスはCを6だとコール、失敗。カードを引いて、引いたカードと5を入れ替えた。
(真ん中を厚くしていたわけではない? いや違う。真ん中を引いたから真ん中を捨てたと考えた方がいい)
「考えてるのう。いいぞいいぞ、その眉間にシワが寄った顔が大好きだ」
「なんでしょうね、少しだけヘンタイっぽいです」
「はっはっはっ! 間違っていないぞ姫君よ。ワシの性癖だからのう。眉間にシワを寄せる、というのはそれだけ考え、それだけ努力し、それだけ苦しんでいるという証だ。苦しみとは楽しみよりもより生を忠実に再現する。際限なく続く生の流転の中で、もっとも人がぶち当たるであろう壁だ」
「ヘンタイ、というよりも悪趣味の方が近いような気が……」
「ワシは他人を苦しませたいというわけではない。苦しんでいるというのは、前に進もうとしているということだ。人の身体がまだ機能を失っていないということだ。どれだけ絶望の縁にあろうとも、苦しんでさえいればまだ活路はある。少なくともワシはそう思うとる。だから、好きなんだのう」
カラカラカラと、ルノレアンファスが笑った。
その姿を見て、エメローラもつられるように笑った。
ルノレアンファス:コール、C6、不成立。ドロップカード、5。
(勝負はきっとここから。逆転の布石はここからのカードの引き次第だ)
「コール、右端、8」
「よくわかったな」
「なんとなくアナタの戦術が読めましたので」
「もうバレたか。でも戦術はこれだけではないぞ?」
「わかってますよ。アナタはバカじゃない。私よりも経験値も多いでしょうし。でも私はそれを逆手に取らなければ勝てないということもわかってます」
「うむ、いいぞ。ヌシは実にいい」
「なにがいいのですか?」
「こっちの話だ。さ、カードを引け」
引いたカードは9。
(迷ったら悟られる)
ほぼノータイムで8を出した。
(0を捨ててもよかった。でも0は一度彼女も見ているから切り札にもなる。それならばここは8で正解だ。端を捨てて端に入れる。現状での最適解のはず)
エメローラ:コール、D8、成立。ドロップカード、8。ハンドカード、059。
「先程よりもカードを出すのが速かったな。コールはDの9だ」
「よく見ていますね」
諦めたように、エメローラが9を出した。
「早く出す、ないし遅く出すというのはそれだけ危険を伴う。ポーカーフェイスという言葉がある。しかしそれは相手を騙すための手段であって、勝負をするための方法ではない。」
ルノレアンファスがカードを引き、Aの位置にあった1を出した。そして引いたカードをAに入れる。




