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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と不死の皇女》
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十九話〈ビューポイント:エメローラ〉

 眩しい光と浮遊感、それに温かさがエメローラの身体を包んだ。


 目蓋を開く。そこは白い空間で、確かに自分は立っていた。


 目の前には一人の少女。ルノレアンファスだ。


「ようこそ、ワシの空間へ」

「アナタは、ルノレアンファス……? ここはどこなの?」

「そうかそうか、なにも聞かされずにここにきたのか」

「いや、一度だけ。もしかしてここが試練を受けるための場所なの?」

「そういうことだのう」

「なんで私がここにいるのかわかりますか?」

「あのロウとか呼ばれていた小僧がやった。強制契約、強制解除と呼ばれる魔導術の契約方法であり、契約解除の方法でもある。持ち主がいる時に無理矢理魔導書を奪うことができる。その代わり、試練に失敗すれば命はない」

「そんな、なんで……」

「すごく言いづらいのだが、ワシがヌシを瀕死に追いやった。主人に言われてな。ホムンクルスに近い状態でクローンとして誕生したヌシは、その傷口から魔力が漏れ出した。そのままにしておけばお前は死ぬ。強力な魔力、そう、魔導書との契約でもなければヌシは助からない状況になった」

「それで私を?」

「小僧の判断は正しい。戦闘はまだ続いておるからのう、お前を救って、なおかつ魔導書を手に入れるのはこの方法しかない」

「ロウは私を救うためにこういう方法を取った。それならば、私はそれを受け入れるしかありません」

「なんだ、泣いたり喚いたりしないのか。失敗したら死ぬんだぞ?」

「なにもしなかったらもう死んでます。それにロウがやろうとしていることには一貫性があります。私はロウを、信じたい。私が試練を乗り越えると信じてくれた、彼のことを信じたいのです」


 ルノレアンファスはクスリと笑った。


「いいだろう。試練の名は『オーダーアンドナンバー』だ」


 指を鳴らすと地面からテーブルとイスが現れた。


「座れ」


 言われるがままにイスに座った。


 中央にはカードが積まれていた。高さとしては約十センチほどのカードの山だ。


 自分の前にはなにかのスタンドが設置されていた。


「まずそのカードの山をシャッフルしろ。そして元の位置に置け」


 これも指示に従った。


「よし、いいだろう。じゃあ試練の、いや、ゲームの説明をしよう。最初はデモンストレーションだ。四枚のカードを交互に取る。四枚だ。そしてそのカードをスタンドに立てる。こちらには見えないように。左から右に数が大きくなるように立てるんだ。自分から見て右端をAとし、右から二番目をB、右から三番目をC、左端をDとする。三枚になればABC、二枚になったらABだ。そして同じカードを引いた場合は、最初からあるカードの右側に置く。Bに5があって5を引いた場合、最初の5を残そうと思ったら後から引いた5は右側になるというわけだ。これはルールだから、ルール違反を犯した瞬間に罰せられる」


 ルノレアンファスと交互にカードを取り合う。彼女の指示に従い、四枚のカードを立てた。


「このゲームは相手のカードの数字を当てるゲームだ。カードは0から9まである。カードを相手に当てられるとカードを失う。つまり、カードを全部失った方の負けだ」

「このカードの山は?」

「当然、引くためにある。ターンのはじめに相手のカードを指定、これをコールと言う。それが何の数字であるかを言うんだ。当たれば当たったカードを捨てさせられる。当たらなかったらそのまま。その後でカードを引き、手持ちのカードと入れ替えるんだ。必ず入れ替えなきゃいけない。引いたカードをそのまま捨てることができない、ということだのう。そして捨てるカードは相手に見せなければいけない。引いたカードをどことどこの間に入れ、そして捨てるカードがどことどこの間から捨てるのか。敵から見たら、具体的な数字は捨てられたカードでしかわからない。しかし、捨てたカードの場所から、他のカードの位置を推測することができる。このゲームはカードの配置を入れ替えられない。引いたカードも位置を決めてからでないと手札に入れられない」

「そうなると、かなり運が絡みますね」

「ふむ、なかなかいいな。やり甲斐がある。どうしてそう思った?」

「そうですね。手持ちのカードが0189で、引いたカードが5だったとします。9のカードを捨てた場合、9は一番右、つまりDから捨てられます。9のカードは当然相手に知られる。次に7のカードを引きます。こうなると01578という五枚のカード手元に来ますね。この場合捨てるのは0か1でしょう」

「それは、どうしてだ?」

「7を引く前の状況は、右側の二枚が58だからです。数字の0から9という間で、小さい数字、もしくは大きい数字に寄ってしまうのはかなり危険だからです。ここで8を捨ててしまえば、9と8を隣り合って持っていたことになる。そうなれば必然的に、左側のカードは8よりも下のカードになりますから、推測は容易だと言えます。7以下の数字に限定される。そして最初に捨てた9を持っていた場合も危険です。8を捨てた場合9を持っていれば、8よりも大きな数字は9しかないのだから、その9は相手に当てられてしまう。引いたカードの数という運と、そのカードを引くタイミングという運。その二つが上手く噛み合わないと、一瞬でカードがなくなります」

「これだけの説明でそこまでわかったか。いいだろう、もう説明は必要なさそうだのう」


 エメローラは一度深呼吸をした。


 端のカードの危険性と、それでも端のカードは持っていなければという矛盾。端のカードがなければ中のカードを生かせない。しかし持ちすぎていては端からカードを当てられてしまう。その後で再度端のカードを引いても、タイミングが悪ければそれもまた当てられてしまう。


 8のカードを持っていて9のカードを当てられた直後、また9のカードを引いてしまえば意味がない。


 このゲームのキモは、相手のターンでカードの数を当てるということ。当てられたカードの後で、同じカードを持ってきてしまってもそのカードを捨てることができないため、逃げ道を作ることができないのだ。


 エメローラは本能でわかり始めていた。


 このゲームの、本質に。


「勝負は一度。覚悟はいいか?」

「ええ大丈夫です」

「それじゃあカードを切ってくれ。終わったらお前からカードを引くんだ」


 カードの山を手に取り、入念にカードを切った。


 テーブルの上に置いて、自分で一枚、相手が一枚、自分で一枚と四枚揃うまでそれを続けた。


「ちゃんとカードを立てたな」


 ルノレアンファスがコイントスをした。自分の手の甲ではなく、テーブルの上にコインが落ちる。完全に落ちきる前に手を被せた。


「表と裏、どっちだ?」

「じゃあ、裏で」


 手をどけると、コインは表面だった。


「表だ。ワシからだな。それでは、ゲームスタートだ」


 ニヤリと、ルノレアンファスが大口を開けて笑った。


 こちらの手札は0345。頭を抱えたくなったがこの場合はそれも許されない。


 端のカードばかりを持つのは問題だ。しかし真ん中のカードを持ちすぎるのもまた問題である。今問題なのではない。ゲームが長引くにつれて不利になるのだ。


 このゲームの勝ち方は的確に推理し続けるという方法だけではない。例えば相手が引いたカードを次のターンに必ず捨てる。デコイと引いたカード、二枚だけでやり取りをした場合、まったく触れられない二枚のカードは固定される。それならばそこに狙いを定めてテキトーにカードの数字を言っていけばいい。下手な推理をするよりもよっぽど有効だ。そしてエメローラの今の手札はその戦略には非常に弱い。


 深読みをして欲しいと、心の底からそう思った。


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