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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と不死の皇女》
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十七話

 それならば魔法少女たちの相手は俺とエメローラがするしかないだろう。


 警官もまた魔導書を広げた。魔導書は魔法少女の形へと変化していく。肩まであるセミロングの髪の毛。目はメーメよりも鋭く、冷血そうな印象を受けた。胸は、ないな。武器は氷の鞭。触れたものを凍らせるとか、割りとわかりやすい性能だと思われる。


 ちなみに胸は、ないな。


「おいおい、魔法少女五人相手はちょっと難しいんだが……」

「ロウ! 私が前に出るわ!」

「私も加勢します」


 俺の前にアンとタルトが出る。ここで助っ人参上ってか。


「あっちはいいのかよ」

「残り四人よ。それならメーメとルルの古参コンビで充分よ」

「なんだかんだでお前は頭がいいからな、お前がそう言うなら大丈夫だろうよ」

「嬉しいけどこういうとこで褒めるのやめてくれるかな!」

「顔が赤い。照れんなよ」

「うるさいのよ! って、こんなことしてる場合じゃないから! アンタは正面のルノレアンファス! 私が右でタルトが左!」

「おーけー、任された」

「いきます」


 どっちが主人かわからないが、こういう時のアンはとてつもなく頼れる。


 正面に突っ込んでいくと、すぐにルノレアンファスと対峙した。


 魔操師と魔法少女が戦った場合、正直なところ魔操師に勝ち目はない。魔法少女が強すぎるのだ。けれどこの場合、俺の相手はルノレアンファスであってルノレアンファスではない。主人である警官を狙うのが一番いいのはわかっているからだ。


「エメローラ! ルノレアンファスを拘束しろ!」


 後衛に徹しているエメローラに指示を飛ばす。それだけでも俺の意図を理解してくれたのだろう。俺を守るような立ち回りではなく、あくまでルノレアンファスの足止めと拘束に徹した立ち回りになった。


 が、誤算だったのがルノレアンファスの防御能力だった。


 鞭が厄介すぎる。しなりがあり、攻撃力が高いとは言えないが、攻撃も防御も器用にこなしていた。まるで「ここから先へは行かせない」と言っているようにも見える。


 つまり魔操師である警官に近寄らせたくないということだ。


「俺を見くびるなよ。何年魔操師やってると思ってんだよ」


 エンハンスとは、基本的に身体を強化するために使われるものだ。しかし本質は「なにかを強化する」ことであり、対象は術者が指定できる。対象によっては魔操師、もとい魔導師の技能にもよる。


 俺が新たにエンハンスをするのは魔導術に対してだ。魔導術に関して器用ではない俺だが、簡単なことならば難なくできる。


 風属性の魔導術と炎属性の魔導術で突進能力を強化。更に両方の魔導術を一時的にエンハンスで強化した。


 ほぼ一瞬でルノレアンファスの横を駆け抜けていく。速度が速ければ速いほど、ルノレアンファスが俺に攻撃する手数が減る。俺は数少ない攻撃をやり過ごせば、警官の元にたどり着くのも難しくないのだ。


 俺の目論見通り、ルノレアンファスを避けて警官に近寄ることはできた。だが、問題はここからだ。


 俺は魔法少女と魔操師に挟まれている。魔操師の後ろに回っても、その後ろには住人たちがいる。俺はこの場で勝負を決めなきゃいけない。


「いくぞクソ野郎。歯食いしばれや」

「簡単にやられるわけがないだろう!」


 上段から剣を振り下ろす。が、警官は俺の剣を自分の剣で受け止めた。結構強めに振り下ろしたはずなのだが、待っていましたという感じだった。それに反応がいい。伊達に警官やってないってことか。


「歯を食いしばるのはお前かもしれないな」


 剣が弾き返され、派手に火花が飛んだ。


 距離を取るが、その距離は一瞬にして縮められた。今度は俺が受けに回る番になってしまう。


 襲いかかる剣撃は的確で、防御しなければ間違いなく首が飛ぶ。心臓を狙った一撃も、素人ができるような攻撃ではなかった。


「俺をその辺の魔操師と一緒にするなよ。俺は魔操師になるべくして魔操師になったんだ」

「なんだそれ。頭おかしいんじゃねーのか?」

「魔操師に憧れていた。でも、魔導書なんてそうそう手にする機会はない。俺は諦めていたよ。そこに手を差し出してくれた人がいたんだ。俺は偽装なんかじゃなく、別の土地で本当に警官をしていたんだよ。身体を鍛えて、魔導術を覚えて、ようやくそれを発揮する場を与えられたんだ。お前なんかに邪魔されてたまるかよ!」


 攻撃が一層激しくなった。


 妙だなと、そう思った。


 俺はコイツが「クローンを魔導書に変えるのが目的」なのだと思っていた。けれどコイツの口ぶりからするとそうではない。魔操師になることが目的だと、そう言っているようにしか聞こえないのだ。


 コイツが言うことが間違いでないのならば、黒幕はコイツ以外ということになる。


 じゃあ誰だ、と考えるのはあとにしよう。余力を残してコイツを倒せば、黒幕が出てきても対応できるだろう。安易な考えかもしれないがそれが一番シンプルだ。


 が、俺はコイツに決定的な一撃を入れられないでいた。攻撃を防がれては攻守が入れ替わり、コイツの攻撃を防御してはまた攻めに回る。途中でルノレアンファスの横槍もあって、世の中ってのはいつも思い通りにはいかない。


 拮抗しているかに思われた戦闘も、警官の一撃によって崩されてしまった。しかも、最悪な形で。


「くそっ」


 フェイントを混ぜた突きが、肩の上方を切り裂いた。血が飛び散る。それだけ深かったということ。左肩だったのは幸いだが、間違いなく動きは鈍ってしまう。


 これはピンチだがチャンスでもある。


 わざと動きを遅くする。警官の攻撃を防御する際、若干遅れて攻撃を受け止める。遅延が繰り返されれば、その遅延は相手の隙を生み出すことになる。


「これで終わりだ!」


 脇が空いた。剣を振り上げたのだ。積み重なった隙を、コイツは好機を捉えたのだ。


「それを待ってたんだよ」

「なんっ……!」


 先程ルノレアンファスにやったのと一緒だ。


 エンハンスを魔導術にかける。実はこの行為、結構高等な技術である。ヴェルの弟子でよかったなと初めて思ったかもしれない。


 剣を突き出す。その剣は一瞬で加速し、俺の剣がヤツの腹部へとめり込んだ。


 急いで剣を引き抜く。身体を回転させ、遠心力を使って柄でコメカミを殴りつけた。


「よしっ!」


 思わずガッツポーズしてしまった。思い通りにいかないことは多いけれど、最後の最後でちゃんと収まればそれでいい。結果良ければっていうのはあんまり好きじゃないが、ちゃんとした手順を踏んで結果がついてくるのはその限りではない。

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