十六話
が、問題はこちらのエメローラが戦意を喪失していることだ。俺が守らなきゃ、たぶん真っ先に死ぬだろう。
「いいか、絶対に殺すな。絶対に死ぬな。そして俺とエメローラを守れ。俺から言えるのはそれだけだ」
「ちょっと! いくら主人だからって魔導書を酷使していい理由にはならないでしょうが!」
アンが突っかかってくるが、俺が返事をする前に敵のエメローラが一斉に襲いかかってきた。
敵の数は俺たちの倍以上。けれどこちらの主戦力は魔法少女だ。敵のエメローラたちはどうやっても魔法少女を倒せない。戦力差は明らかだ。それならば魔法少女たちがエメローラたちを殺さないこともできるはずだ。
戦力が拮抗しているのならば、死ぬか生きるかの瀬戸際で相手を殺すこともあるだろうが、たぶんその心配はない。魔法少女たちはブーブー言っているが、できないと思ったら最初から言わない。
「おいエメローラ、お前はそのままでいいのか?」
「へ?」
「へ? じゃねーよ。お前はこのままじーっと見てるだけなのか、っつってんだよ」
「そんなこと言われても、私にはどうしたらいいかわからないわ……」
「わからないんじゃない。わかろうとしないだけだろ。現実を見ろよ。お前はクローンで、アイツらもクローンだ」
「やめて、聞きたくない……!」
耳をふさぎ、しゃがみこんでしまった。
「おそらく、お前はあと一週間も生きられない」
「やめて! もう、やめてよ……!」
「はあ……めんどくせーな、もう」
しゃがみこんで、小さく息を吸い込む。そして強引にエメローラの手を耳から離した。
「俺がなんでここに来たと思ってる。魔導書を探すだけなら、エメローラの遺体を探すだけなら、お前を連れてここに来る必要はない。もう少し上手いやり方で事件を解決することもできた。じゃあなんでこんなことをしたのか、お前は本当にわからないのか」
「そんなの、私がクローンだということを認めさせるために……」
「ただのイジワルでそんなことするわけねーだろ。お前に認めさせた上で、納得させた上で、お前の寿命を延ばすためだ。お前の寿命が尽きる前にお前の寿命を伸ばせる場所はここしかない。お前は生きたくないのか。楽しくなかったのか。それともこのまま、アイツらの思いように動かされて終わるだけだぞ」
「私は、私は……」
「俺は任務が達成できて魔導書が手に入ればそれでいい。お前が選べ。生きるのか、生きないのか」
エメローラの腕から力が抜けていく。
一息置いて、彼女が俺の目を見た。その目には光が宿っていた。決意の、光だ。
「生きたいです! ロウにもいろいろ教えて欲しい!」
「それならやることは一つだろ。背中は任せたぞ。俺はそのためにお前に魔導術を教えたんだからな」
「はい。私は、私ができることをします。それが私の人生を作るのならば」
エメローラに背を向けた。メーメたちのことは心配していなかったが、予想以上にいい働きをしてくれている。敵のエメローラたちから魔力を吸い取ったり、単純に体力を奪ったりして戦力を削いでくれていた。
残るは七人。と言いたいところだがそう簡単にもいかないのが世の常だ。
「よそ者が、おとなしくしていればいいものの」
門の方から、一人の男が歩いてきた。魔導書を持っているところを見れば、コイツがルノレアンファスの主人なんだろう。
男の後ろには、松明に火をつけたスルヴァンの住人たち。住人の八割はいるんじゃないかと思うほどの松明の数だ。
「お前が首謀者か。その顔、どっかで見たことあると思ったら、まさか警察官が首謀者とはな」
そう、コイツは俺たちがこの町に来た時に寄った警察署で対応してくれた警官だ。
「警官っていうのは便利だよな。よそ者が来ればすぐわかる。道も聞かれる、歴史も聞かれる、尋ね人も聞かれる。事件があれば真っ先に情報が入る。人に頼られる。なにかをするには融通がきく、素晴らしい職業だ」
「本来は弱い者の味方をすべきだと思うんだがな」
「お前は弱い者なのか? そうは見えないがな」
「評価してくれるのは嬉しいが、多勢に無勢という言葉があるのを知らないのか? 俺たちは物量的に見て弱い側だろうが。その味方をするのが警官の役目だろ。職務を全うしろよ」
「ははっ、職務よりも大事なものがあるんでな。元々、その「やること」のために警官になったんだから」
「やることっていうのはエメローラのクローンを作ることか? それとも顔立ちが整った奴隷を作ることか? いや、魔導書を作ることかな?」
「全部正解だ。高い魔力を持つスルヴァンの姫を量産し、魔導書として作り変える。それをはべらせて、魔操師としても男としても安定を得るってのが俺の目的だ。まあ、その魔導書がたくさんあればこの町を守ることもできる。だからスルヴァンの住人たちも協力的だった。なによりも今の住人たちは、いわばスルヴァン王家のアンチが大半だ。当然お姫様をどうしようが関係ない」
「スルヴァンを祀ってるフリをして、実際は反対派ばっかだったってことかよ」
「やりやすかったよ。元々この地はよそ者が統治してる場所だったってのもある。よそ者であっても強い者が成り上がる。土地柄、魔法力も勝手に集まってくるからな。クローンを作るのも苦労しなかった」
「はーん、クローンだけにか。そりゃ面白い」
冗談のつもりだったのだが、警官はニコリともしなかった。逆に眉間にしわを寄せてやがる。
「つまらん話はここまでだ。いけ」
松明の数本が群れから離脱、警官の前に出てきた。
「四人か。一体なにが――」
そう言いかけて、言葉を失った。
出てきた四人は、その全員が左手に本を持っている。真新しい本。けれど嫌な予感がする。魔力を感じられる。強力ではないが、間違いなく覚えがある。
「お前ら、魔導書の生成に成功してたのかよ……!」
「そういうことだ。さあ、成果を見せてやるよ!」
四人が魔導書を広げる。魔導書は形を変えて魔法少女になる。姿形はエメローラだが、彼女たちがまとう魔力は、ただのクローンたちとは比べ物にはならない。
だが、一つだけ、あの警官は勘違いをしている。
「ま、そうなるわな。魔法少女なんだから、魔力が高くて当然だ。でも魔導書だから、魔法少女だから強いわけじゃない」
「戯言だ! やれ!」
襲い掛かってくる四人の魔法少女。おそらくメーメたちはクローン体との戦闘で手一杯だ。俺の無茶苦茶な命令のせいではあるが。




