十五話
「お前は最初からお姫さまでも、ましてやエメローラでもない。言うなれば、エメローラのクローン。そして魔導力を余計に注ぎ込まれたホムンクルスでもある」
「そんな……そんなこと……」
「受け入れろ。俺からはなにもできない。お前が考えて、お前が受け入れるんだ。それしか方法がない」
「簡単にできるわけないじゃないですか!」
「まあそうだろうな。仕方ないことだとは思う。思うが、今は抑えろ。ブルックとか言ったな。俺たちを尾行させてたのはお前か?」
「ああ、昨日のか。それはボクじゃない。言ってみればボクの上司ってやつがやったんだ。これだけ聞けばわかると思うけど、キミたちはすでにこちらの監視下にある。疑われてるっていうレベルじゃなくて、ね」
「それはわかってる。ただな、エメローラのクローンを監視役にするのはどうかと思うぜ」
「よくわかったね」
「戦ったからな。身体の作りも声もそっくりだった。だから思ったよ。俺がこれから相手にするヤツらは、エメローラのクローンを量産してるんだなって。量産してなにをしたいのかはわからんがな」
「本当にわからないかな? エメローラはスルヴァンの血を引き、強大な魔力を使うことができる。魔法力の供給量も、蓄積量も、魔力の高さも全てが高水準。使い方はいろいろとあるじゃないか」
「まあそうだな、特定の使い方なら想像できる」
「ほう。キミの見解を聞かせてもらってもいいかな?」
「簡単な話だ。魔力が高いホムンクルスを作るよりも、最初から魔力が高いヤツのクローンを作ってしまえば、魔導書を作るのも手間を省ける」
「そうだね、もちろんそれもある。だが監視役にしたのもそうだが、オールマイティになんでもできるようにしたいんだ。というかなんでもできるだけのスペックを秘めている。それもいろいろと試行錯誤しなきゃいけないことも多い」
「まあ、そうだろうな。培養液の中で作られて、いきなり外に放り出されて、そう簡単には生きてはいけないよな。本来ホムンクルスってのは、外に出されてからすぐに魔導書と融合させられる。そうしないと人の姿を保っていられないからだ。魔導書の魔力でホムンクルスは身体を現世に繋ぎ止める。それができないということは、ホムンクルスの寿命はかなり短い。あの監視役も長くはないんだろ?」
「ご明察。あと五日もすればドロドロのグチャグチャになって人の形を失って、その内死んでしまうだろうね」
「まあ、そうだろうな」
「そうだろうなって、随分と軽いんだね。そこにいるエメローラのクローンも、同じように死んでしまう。キミの元に何日もいたんだ。寿命はそう長くないよ?」
「まあ、そうだろうな」
「キミはなぜそんなに軽いんだい? エメローラのクローンも、魔法少女も呆れ顔だよ?」
「いや、事実を言ったまでだ。んでこれからが本題。俺はなにも考えずにここに来たわけじゃない。なんの考えもなしにエメローラを連れてきたわけじゃない」
「もしかしてキミ、ボクに交渉しようとしているのかい?」
「察しが良くて助かる。俺はお前を殺さない。その代わりに、コイツに魔導書を渡すか、コイツの延命をしろ」
そう言いながら、俺はエメローラを指差した。
ここを壊滅させようとは思っていたが、ただ壊しただけでは芸がない。それにクローンを作っている人間ならばエメローラの延命は可能だ。クローンを作ったのはエメローラの魔力が高いからだ。それならば魔法力に関しても精通しているはずだ。
「無茶苦茶な。ここに魔導書があると思うかい? ボクが魔操師に見えると?」
「思わないな。だからコイツの延命をしろ。お前ならできるだろうよ」
「ボクならできる。そういう言い方は光栄だが、そう簡単にもいかないんだよね。一応、ボクはお金をもらってここにいるわけだしね」
ブルックが指を鳴らした。
予想はしていたが、暗がりから数人のエメローラが姿を現した。みなローブを着込んでいるが背丈も歩き方も一緒だ。なにより若干だが顔が見えるしな。
全部で十二。先日の監視役の感じだと、こっちのエメローラじゃ分が悪そうだな。魔導術だけなら勝てるかもしれないが、対人戦の訓練なんてしてこなかった。
「ここでやる気か? まだ外に出てないエメローラたちが死んじまうぜ?」
「キミはここを破壊しに来たんだろう? どうせ壊されてしまうのならば全部自分で壊すさ」
「こんなことやってるヤツだからおかしいヤツだとは思ってたがやっぱりか」
「おかしいって言い方は失礼だな。この子たちだってわかってるんだよ。ボクに従うしかないってことがね」
「本当にそれでいいのかはお前には聞かん。コイツら本人に聞く。メーメ、ルル、タルト、アン」
魔導書を全部開放。
「一度ここから逃げるぞ」
「「「「了解」」」」
アンとタルトが協力して壁を生成。水で衝撃を吸収しつつ風で攻撃を弾く。ルルが炎の弾を放ち、その時にできた影を使ってメーメが全員を影で縛る。しかし長時間は縛っていられないだろう。
俺はエメローラを抱えてエレベーターへ。それを確認して魔法少女たちもエレベーターに乗った。
ドンパチやれば必然的にいろんな人間が集まってきてしまう。が、あの場ではああするしかなかっただろう。
そもそも俺の考えが甘かった。あんなにクローンを作っているとは思っていなかったのだ。
城の二階に到着後、すぐに一階に降りた。当たり前のように警備兵がいたけれど所詮は警備兵。全員でテキトーに倒して、テキトーな部屋に放り込んでおいた。
外に出ると、もうすでに十二人のエメローラが立っていた。その後ろにはブルックもいる。
「なんでお前まで出てくるんだよ。非戦闘員だろ、どう見ても」
「見てくれで判断してもらっては困るな。まあ、非戦闘員なんだけどね。ボクはね、ボクが作ったクローンたちの戦いが見たいのさ。これからの研究材料にもなる」
「最低な理由だな、ホント。じゃあ見てろよ。お前が作ったクローンたちが無様に負ける様をな」
剣を抜き、全身にエンハンスをかける。
「いいかお前ら、あんま傷つけんなよ。できれば無傷がいい」
「あのねロウ、この状況で言ってられないでしょう? 下手したら死ぬわよ?」
「死ぬことはない。きっとブルックが自分で言ってたろ。クローンは長くは生きられないって。つまりあのクローンたちは生まれて間もない。なら、やりようはいくらでもある」
身体は大人でも経験値はゼロに等しい。知識量だって大したことない。魔法少女四人の相手じゃないってことだ。




