十四話
俺、エメローラ、メーメの三人箱の中に入ってスイッチを押す。ドアが閉まり、ガコンと揺れて下降していく。このなんとも言えない浮遊感、割りと嫌いじゃない。
「それにしても、なんでお前らこっち向いてるんだよ」
非常に狭いため身体が密着する。メーメにはないが、エメローラの胸にはたわわに実ったソレがあるのでとても困る。
「普通に入ったらこうなるでしょ? 鼻の下伸ばしてないで、自分の股下の制御はしっかりしておくことね」
「制御できとるわ。それよりエメローラ、どうかしたのか? ちょっと顔色が悪いぞ」
「いいえ、大丈夫よ。なんだかちょっとだけ胸がざわつくというか、嫌な感じがするの」
「その嫌な感じな、下に行けば理由がわかると思うぞ」
「ロウは全部知ってるの?」
「知ってるってほどでもない。俺には仮説を立てることしかできないしな。確実なことが言えない以上は口にしたくないんだ」
「わかった。自分の目で確かめる」
「それがいい」
小部屋の動作がゆっくりになり、静かに着地した。自動でドアが開かれて、俺たちはエレベーターから足を踏み出した。
岩肌が丸出しで、けれど等間隔でランタンが通路に設置されているので道はわかる。
「俺が先頭、エメローラが真ん中、後ろがメーメだ」
こうして通路を進んでいく。この中で一番戦闘力が低いエメローラだ。中央に置くのは当然と言えるだろう。が、俺には別の意図もある。たぶんだが、メーメだけはそれに気が付いているだろう。
徐々に薬臭さが鼻につくようになってきた。
そろそろか。この薬臭さが真実への道筋で、この事件の真相でもある。
ボロボロのドアが見えてきた。基本的には木造だが、枠縁や取っ手周辺は金属でできている。鍵穴からするにピッキングも簡単な部類に入るだろう。それくらい古いものなのだ。
エレベーターとのギャップがヒドイ。このドアは最初からついていて、エレベーターは後付けなのだろうと推測できる。つまりここは、昔から同じ用途で使われ続けてきたのだ。
ドアノブに手をかけた。トラップはなさそうだ。魔導式でもない。力を入れなくても、捻って押すだけで充分だった。
室内はかなり広い。天井から差す白い光は弱かった。
妙な圧迫感がある。それもそのはずで、部屋には人が一人入れそうな大きなガラス管が何本も立てられていた。ガラス管の中には水が入っていて、下方からの光によって中身が照らされていた。中身は人間だった。子供というほど小さくもなく、けれど大人というには幼い。十代半ば以上の少女ばかりだった。
俺たちの存在に気づいたのか、正面に座っていた男がこちらを向いた。髪の毛は短く、髭を生やした中年男性だった。
「おや、思ったよりも早く来たんだね。ボクはブルック。キミは?」
「俺はロウファンだ。早めに行動しないとこっちの身が保たないんでな」
「あまり驚いていないってことは、この場所がどういう場所であるかを知っているんだね」
「じゃなきゃ来ないだろ。コイツを連れてさ」
エメローラに向かって親指で指を指した。
「ここがこういう状況だとよく気が付いたね。理由はあるのかい?」
男性が立ち上がり、こちらに歩いてきた。汚れた白衣がゆらゆらと揺れ、その足取りはかなり重い。
「理由はまあ、いろいろあるさ。断片だけを切り取れば、この周辺を統治していたスルヴァンという人間は外から来た人間だ。とても強力な魔力を有していたらしいな。しかしどうしてこんなところで国を作ったんだろうなと、ふと思ったんだ。それにその強力な魔力を持った王家が滅びた理由にも引っかかりがある。なによりもエメローラが氷の中に封じ込められた理由、それが奪われた理由もまた不審な点が多い」
「答えは出たのかい?」
「ああ、出たよ。だからここに来たんだ。エメローラを連れて、な」
「ふむ、なるほど。じゃあボクがなにをしようとしていたのかもわかっているんだね」
「お前が、というよりもお前たちがだな。お前は言われたことをやっているに過ぎない。発起人は別にいるんじゃないのか?」
「正解だよ。でもここにはいない。ここはボクだけの空間だからさ」
「それもなんとなくわかってる。発起人は魔導書を持っているはずだから、後で捕まえに行くつもりだ。その前にここでやることがあった」
「やること、とは?」
「スルヴァンに住む住人たちの思惑を葬り去ること。この場所を土に還すこと。こんなクソみたいな計画を破綻させることだ」
「ここを壊すのかい?」
「そのつもりだが、異論はあるか?」
男性は深く鼻で息を吐いた。
「いつかこういう日が来るとは思っていたよ。最初は荒唐無稽な話だと思っていたさ。けれど、ちゃんと機材が揃って、機会が巡ってきて、ボクは野心を抑えきれなかった。だから言われたからやっていたというよりは、ボクの意志でもあったんだ」
「ああそうかい。正直お前の気持ちとか感情とか思考とかあんまり興味はないんだ。だから、お前も殺す」
剣に手を掛けた。その手を、誰かが掴んだ。考えるまでもない、エメローラだった。
「ちょっと待ってください。どういうことなんですか? ここはなんなのですか? なぜ、なぜ――」
彼女の顔はこわばっていた。瞳が揺れていた。歯が、震えていた。
その小さな口が、こう言った。
「なぜ、私と同じ顔をした人たちがガラスケースの中にいるのですか!」
思わずため息をついてしまった。が、これを見せるためにここに来たのは確かだ。
エメローラは大きく目を開き、部屋の中を見回していた。震える顎、目端から溢れる涙、胸の前で握られている手は、キツく服を掴んでいた。
「お前も少しは思い出したんだろ。ここは、お前が生まれた場所だ」
「そんなことはありません。私はエメローラ、この国の皇女です」
彼女と目があった。目は口程に物を言うというが、まさに殺されそうな眼光だった。
ちゃんと自分でもわかってるはずだ。けれど認めたくない、理解したくないんだろう。だから俺が無理矢理にでも理解させてやらなきゃいけない。




