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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と不死の皇女》
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十二話

 今日仕入れた情報を、アンに協力してもらってノートにまとめた。これでだいたいノート一冊分。メーメには「前から思っていたけど見かけによらず勤勉ね」と言われてしまった。バカにしているのか褒めているのか。コイツに言われると全部バカにされているようで無性に腹が立つ。


 メーメはムカつくが、情報の整理は大事だ。じいさんからの情報も揃いつつある。少しずつだが、どうしてエメローラが誘拐されたのか。どうして魔導書が奪われたのかがわってきた。


 確かに推測の域を出ない、といえばそこまでだ。しかしこの推測が間違っているとは思っていない。それは今この場所にいるエメローラが証拠になるだろう。


 情報をまとめ終わった頃に食事をした。エメローラが増えたことでだいぶ賑やかになった。魔法少女たちとの相性もいい。時に言い合いもあるが、基本的には仲がいい。人間ではないが、人間関係が上手くいかないとなんでも上手く行かなくなってしまう。


 というのが一般論だ。正直俺は人間関係を構築するのが苦手だから、エメローラのコミュニケーション能力は羨ましい。


 羨ましいけど努力するのは面倒くさい。一番面倒くさいのが自分自身だということもよくわかっている。


 食事が終わってから部屋を出た。外の空気を吸いたくなったのだ。


 頬が凍るんじゃないかと思うほどの冷風が吹いた。身体の芯まで冷え込みそうだ。が、こうやって身体を冷やしておいて風呂に入るのがいいのだ。ということが最近になってよくわかった。冷えた身体で風呂に入ると、全身がジンジンとして、それがまた気持ちがいい。


 と、それだけが理由で出てくるわけがない。


 ひと気のない路地裏に入る。街灯も届かない暗い場所を、脇目も振らず歩いていく。


 背後に人の気配。そろそろか。


「いつまでうろちょろしてるつもりだよ」


 振り向いてからそう言った。


 俺の後をつけてきたヤツは姿を見せようとしない。


 ふと、目の前の暗がりからヤツの気配が消えた。


「そんなこったろうと思ったよ!」


 背後から、空を切る投擲物の音がした。半身反らしてそれを避けた。銀色の光が月明かりに反射する。ナイフが三本か。


 振り向いた頃にはナイフを投げたヤツの気配はなくなっていた。


 今度は右側部に気配が迫る。またナイフか。


「エンハンス、ハードエフェクト!」


 右手を最大まで硬化させてナイフを受ける。素手同士の戦いであれば、こちらの硬化を瞬時に解かれることもあるだろう。が、相手が武器ならば心配いらない。


 大きめのマントを羽織っていて、顔は愚か身体の大きささえもわからない。腕ずくでぶっ倒すしかなさそうだ。


 ナイフを弾き返して左手で掴みにいく。


 左手が空を切る。けれどそれは想定内だ。避けたところに、硬化した右拳をぶち込んでやる。


 相手の身体が吹き飛ぶ。空中でクルクルと何回も回転し、何事もなかったかのようにキレイに着地した。しなやかに、膝のバネを利用していた。


「ダメージはほとんどなし、か」


 それにしても無茶苦茶だ。


 殺気はないのに気配はダダ漏れ。いや、わざとなのかもしれないが。


 それでいて魔導術も未熟だから、攻撃もナイフに頼らざるをえない。それはエンハンスの具合いから見ても間違いない。にも関わらず不意打ちに対しての処理がうますぎる。


「お前なにもんだよ」


 立ち上がった。直立のままこちらを見ているのか、一向に動こうとしない。


 身長は低い。身体は細い。男の身体ではなさそうだ。


「おい、質問に答えたらどうなんだ。お前は何者で、なんで俺を襲うんだ」

「――お前には、関係ない」


 女性の声だが低く、けれどよく通る声質。無機質で感情がこもっていない。でもどこかで聞いたことがあるような声色だった。


「関係なくねーだろ。襲われたのは俺だ」


 長く細く息を吐き、全身を強化していく。エンハンスハードエフェクトで肌を硬化、エンハンスフォースエフェクトで筋力を増強。エンハンスマジックエフェクトで身体を覆う魔力の膜を生成。


 来い、来い。いつでもいいぞ。こちらの準備はできている。


「お前には、関係ない」


 同じ言葉を繰り返した。それしか言えないのかと、そう思うくらいに同じセリフだった。抑揚もなく、アクセントも同じ。


 ヒラリと、マントが翻った。


「あ! おい! てめぇ待ちやがれ!」


 相手の攻撃に対して気を遣っていたせいで反応が遅れた。


 追いかけようとした時には、すでにヤツの姿は消えていた。気配はもうない。


「クソが、一体なんなんだよアイツは……」


 戦闘においては未熟だが、逃げることにかけては一級品ってか。さっき俺の攻撃をいなしたことといい、戦闘というよりは生き抜くことに特化してるようなイメージが強い。


 いずれまた戦うこともあるだろう。その時はもう逃してやらん。


 が、いくつか引っかかっている。聞いたことがあるあの声と、見たことがあるあの身長。身長なんてのは些細なことだとは思う。重要なのは、あの声色であの身長であるということ。


「ま、重要ならどこかで思い出すだろ」


 来た道を戻っていく。


 コートの脇腹の辺りが破れていた。完全には避けきれなかったか。こんな格好だから仕方ない。次に会う時は短期決戦で、軽装でやりたいもんだ。


 戦闘の時間が短かったせいか、身体は芯まで冷え切っていた。


 部屋に帰って風呂に入った。客がいなくなった風呂で、なぜか魔法少女たちと混浴することになった。俺は風呂に入れれば問題ないし、こういうのも悪くはないな。


 膝にメーメとルルが乗ってきた。タルトが俺の右腕を抱き込む。なぜかアンが左腕を掴んできた。エメローラも便乗して、何故か俺の背中に抱きついている。魔導書ばっかりだが、これもハーレムと言っていいのだろうか。


 などと考えながら、俺は大きくため息をついた。

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