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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と不死の皇女》
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八話

 ドアが四回ノックされた。


「はい、なんでしょうか」


 俺がドアを開けると、宿の主人が申し訳なさそうに立っていた。いや、主人だけじゃない。その後ろには何人もの住人が立っている。無表情を顔に貼り付けて、生気さえも感じさせない佇まい。まるで亡霊かなにかかと思うくらいだ。


「いやあね、町の人たちがブラックさんに話があると……」


 この感じだと宿の主人は無関係っぽいな。


「どんな話でしょうか? そこではなんなので中へどうぞ」


 ぞろぞろと部屋の中に住人が入ってくる。住人だけに十人ってか。やかましい。


「それで、どんな話でしょうか」


 俺がそう言うと、中年女性が前に出てきた。恰幅がよく、主観ではあるがダンナを尻に敷いてるってタイプの女性だ。


 中年女性以外はすぐに室内を捜索し始めた。許可なく人の部屋を探るとはいい度胸だが、そんなところを探したところで意味はない。


「アナタ、エメローラ様のご遺体を探しているですよね?」

「ええ、そうですが? そういう依頼を受けたので」

「その依頼はどちらから?」

「一応警察からですね。警察関係の知り合いがいて、俺の方に依頼が来ました。こういう依頼を受けるのが仕事なもので」


 あながち嘘でもない。ツーヴェルにはよくやらされていたし、ツーヴェル絡みの警察とも知り合いだ。


「そうですか。で、エメローラ様ま見つかったのですか?」

「いいえ、見つかってませんね。ところで、これはどういうことでしょうか。いきなり入ってきて家宅捜索ですか? もしもエメローラ様をお探しなのでしたら、ここじゃなく別の場所がいいのでは?」


 中年女性は無表情のまま、室内の住人とアイコンタクトを取った。それが幾度か繰り返され、やがて彼女は目を閉じてお辞儀をした。


「夜分遅くに申し訳ありませんでした。皆さん、行きましょうか」


 そう言ってから、他の住人を連れて部屋を出ていった。夜分にどうたらっていうのは最初に言うもんなんじゃないだろうか。常識を疑いたくなるような行動の連続、ため息をつくだけでは気持ちが落ち着かない。


「ロウ、そろそろよろしいのでは?」


 タルトが申し訳なさそうにしながら声を掛けてきた。そういや忘れてた。


 窓の外から外を見ると、住民が持っている明かりがぞろぞろと宿から離れていく。しかも来た方向とは別の方向に。


「じゃあルル、二人に連絡してくれ」

「わかりました!」


 ルルが窓の外に身を乗り出し、上を向いて手を振った。すると、メーメとアンがエメローラを抱えて降りてきた。


「こんなくだらないことに私たちを使うなんて。アナタという従者は本当にグズね」

「従者じゃないから。でもこれしか方法がなかった。アンは風属性、メーメは闇属性。メーメがエメローラを隠してアンが上空に打ち上げる。ことが済むまでこれで安全だ。いい案じゃないか」


 誰でも思いつきそうではあるが。


 エメローラの身体には寒さを凌げるようにと魔導術をかけておいたし、魔法少女はそもそもそういうのが必要ない。省エネかつ確実な方法を取ったまでだ。


「これで、また少しは時間が稼げるな。できれば早く解決したいんだけど……」


 俺は元々「ヘリオードのレプリカを作ったヤツを見つける」のが目的のはずだったのに、気がつけばエメローラを保護して、しかもその存在を隠蔽している。どこまで道を外れれば、俺は元いた場所に戻れるのだろう。


「今は悲観しても仕方ないわ。盗まれた魔導書を探し、エメローラを返せば一件落着じゃない」

「住人たちのあの感じを見てないから言えるんだ。あれじゃ、エメローラを渡してもなんの意味もない。逆に集団でボコボコにされるぞ」

「じゃあボコボコにし返せば? 魔操師なのにそれくらいもできないとか?」

「バカ野郎。今回だってそうしなかったのは、確実に死人が出ると思ったからだ。できるだけ穏便に済ませるのが、極力死人を出さない方法だろうよ」

「あらあら、この期に及んで平和主義者のようなことを言うのね。昔は「ヘリオードを殺す」としか言わなかったのに。ヘリオードを壊すマシンだったのに」

「そんなマシンあったら是が非でも入手したいね。ってそうじゃない、ここで住人たちを殺したらそれどころじゃないだろ。確実に牢屋行きだぞ。それだけは勘弁してもらいたい」

「牢屋に入ったロウの姿も見たい、ってことでしょうか?」


 一瞬にして視線を集めたのはタルトだった。さすがの俺もこれには反応できなかった。


「ま、まあまあみなさん落ち着いてください。タルトもちょっと空気を和ませようとしただけなんですよぉ、きっと……」

「いいですよルル。そういうフォローは逆に辛くなってしまいますから……」


 タルトが額に手を当てて項垂れてしまった。自分が言ったことには責任持とうな。


「ルルの優しさがつれーな。よし、とりあえず魔導書でも探すか。それにはちと情報が足りないが……」

「あら、一応情報ならあったじゃない?」


 窓の外を見ながら、メーメが静かにそう言った。


「バカ言うな。エメローラの情報だって、俺たちが強引に城に乗り込んだから分かったんだ。魔導書の情報なんてどこにも――」


 ああ、そうか。全部城に集約されているのか。


 エメローラの凍結を解くには、それ相応の魔法力が必要で、その魔法力を魔力として扱うための魔操師が必要になる。近くにいるはずなのだ、魔導書ルノレアンファスを奪い、使った者が城の付近に。


「今日はヤバイが、近いうちにまた城に行くぞ。どこかにルノレアンファスを使った痕跡があるかもしれない」

「私たちがエメローラを見つけた時、彼女はたしかに濡れていた。つまりそれは解凍した直後である可能性が非常に高い。けれどあの城には誰もいなかった。いなかったわけではないけど、門番と衛兵三名といったところ。彼らに魔導書が使えるかと言われると疑問ね」

「なぜ疑問なんだ?」

「彼らから魔力を感じなかったから。私たち魔法少女の魔力感知から逃れるだけの魔力を有しているのであれば、ロウはあの場で殺されていた。私たちと分かれた、あの瞬間に」

「なるほど、ね」

「平均的な魔力を持つ魔導師が魔導書を使ったとしても、魔導書を使っている時のみ魔力が跳ね上がる。けれど並程度の魔導師ならばそれなりの魔力を持っているはず。彼らにはそれがなかったのよ。つまり、私たちが知らないような仕掛けかなにかがあるかもしれないわ」

「お前、ホント良く見てるのな。そういうとこは素直に感心するわ」

「ロウとの付き合いは四年くらいかしら? 四年じゃ、まあその程度よね。もっともっと私を知り、もっともっと私を崇めなさい」

「いやー、最後のはちょっとキツイっす」

「ははっ、神経を逆なですることだけは覚えるわね。どうやって裁いてくれようかしら」


 城に全てが集約している。この自分の考えは疑っていない。けれどどうしてか、なにかが頭の片隅で引っかかっている。今までの出来事を反芻し、引っ掛かりを指で軽くすくい上げた。

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