七話
「とにかく失礼させてもらうぞ」
驚いているじいさんを尻目に、俺たちは室内に入っていく。
「失礼します、オジさま」とエメローラ。
「失礼するわね」とメーメ。
「失礼します」「おじゃましまーす」「失礼しますわ」と、ルル、アン、タルトの順で入ってきた。幼女たちはベッドへ直行。人数が多いからそれでいい。
俺とエメローラとじいさんはイスに座った。
「どうしてこうなった……」
じいさんが頭を抑えて俯いてしまった。それもそのはず。目的は達成したが、その目的が生きていた。氷が溶けただけではなく、死んだと思われていたエメローラが生きていたのだ。
「逆に俺が訊きたいくらいだ。そもそも姫さんも死んでないし、氷を溶かすだけの魔導術が使えるだなんて聞いてないぞ」
「ワシだって予想外だ。が、まあ見つかっただけでもいいとしよう。あとは魔導書か」
「魔導書の件もなんとかしなきゃならないが、今は姫さんをなんとかしなきゃならないだろ。俺の推測が正しければ、この町は旧王家の信者ばっかりだ。俺がエメローラを攫ったっていうのがバレれば、なにをされるかわかったもんじゃないぞ」
「その推測を聞かせてもらえるか?」
「あん? まあ、あれだ。反王家派と王家信仰派が対立してたんなら、信仰派の信者が湖の除雪をさせてもらえるはずがない。定期的に行うことは不可能だ。三百年前も敬虔な信者が多かったら、王家だって簡単に滅ぼされてない。だから俺は思ったんだ。王家は確かに反王家派に滅ぼされた。でもそれを知った信仰派が反王国派を滅ぼした。湖の中に姫さんを埋めたのは反王家。見せしめだったんだと思う。そう考えた場合、湖の中の姫さんを攫ったのやつが誰かわかるだろ」
「なるほど、信仰派ってことだな。いい読みなんじゃないか?」
「すげー上から目線。ってことはじいさんもいろいろ疑ってたんだな」
「それなりにな。そうなると、住民に見つかったら吊るし上げられるだろうな」
「だからなんとかコイツをしなきゃいけないわけだ」
「あの、ちょっといいかしら?」
「なんだよ姫さん」
「私のことは姫さんじゃなくてエメローラと呼んでもらいたいの」
「こんな時にする話じゃねーだろ。でもまあ、わかった。これからはそう呼ぶ」
「ありがとう! で、アナタは?」
「俺はロウファン=ブラック。じいさんはギュンターク=ハルマイエ。ベッドの上の幼女たちは魔導書だが、説明は面倒だからアイツらに聞け」
俺がベッドを指差すと「おっけー!」と言って、エメローラがベッドに向かっていった。なんつーポジティブかつアクティブな娘なんだ。
「だがな、ロウファン。あんまり喋ってる時間はなさそうだぞ」
「それはどういう……」
窓の外を見ているじいさん。それにつられて外を見ると、黄色い光が何十個も浮かんでいる。上下に動き、こちらに向かってきているようにも見える。
「もしかしてもしかするのか、これ」
「十中八九間違いない。どこからか情報が漏れたか、姫様がいなくなって探しに来たか」
「どちらにしろ、今の状態を見られるわけにはいかないな。さてどうする?」
「俺に訊くのか? じいさんならいい案があるんじゃないのか?」
「馬鹿を言うな。姫様を連れてきたのはお前だろう。なんとかするのもお前の役目だ」
「かーっ、使えねぇなおい。俺を連れてきたのはじいさんなのによー」
「いいからほれ、考えんか」
窓の外の明かりはどんどんと近付いてきている。考えてる時間はなさそうだが、なにかを考えなければさすがにマズイ。このジレンマ、どうやって消滅させてやったもんか。
窓の外を見ながら、人差し指と親指を顎に当てた。それからエメローラを一瞥。
「よし、小細工は一切無しだ」
「ほう、考えついたか」
「考えたっていうもんじゃねーよ。強行策とほとんど変わらん」
「なんだ、逃げるのか」
「逃げてたまるか。ここで逃げたら余計に疑わしい。幸いというかなんというか、こっちには都合のいい魔導書が二つある」
俺はベッドの方を見た。目が合った二人の魔法少女は、目が合ったことをなかったことにするように目をそらした。




