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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と不死の皇女》
32/225

六話

 そして夜が来た。シャワーを軽く浴びてから食事をとった。食事は軽食のみ、サンドイッチで済ませる。あまり食べ過ぎると支障をきたす。


 今回ばかりは厚着は却下。調べるだけならば短時間で済む。短時間ならば炎属性やらなんやらで体温を維持するなどして寒さを感じなければいいのだ。


 時計の針が十二を過ぎた頃、軽装のまま部屋を飛び出した。町にはほとんど明かりはない。せいぜい酒場とか宿屋くらいなもんだ。


 屋根を伝って城へと走る。足音は極力少なく、労力も少なく。


 城の門は閉められているが、関係ないと上をいく。ようはジャンプして飛び越えた。門番んもいたけどあんまり関係なかったな。


 城の中に入った。当然明かりがないので、光属性で光の球を作り出す。壁はボロボロ、天井もボロボロ。でも今すぐに壊れる、というわけでもない。造りは強固であると、建築に精通していない俺でもわかる。ブロック同士のつなぎ目がとてもしっかりとしていて、ブロック自体も一つ一つ精密だ。


 と、関心してる場合じゃない。さっさと先を急がないと。


 一度上まで上ってから、五人が別々の方向へと散らばる。タルトとアンが三階、メーメとルルが二階、俺が一階。三階組に一つ、二階組に一つ光の球を渡した。そこそこの量の魔導力を使ったからニ時間くらいならば保つだろう。割って壊せるようにもしたから、万が一の時は割って壊せばいい。


 独りになり、端から部屋を物色していく。地下室なんかもある可能性があるので、壁やなんかも丁寧に調べていく。


 全部調べ上げたが、特に気になるところは見つからなかった。約一時間半程度経過しただろう、三階から降りてきたタルトとアンがエメローラを見つけたらしい。


 しかし、俺の想像を超えた形で発見された。


「おいおい、氷が溶けてんじゃねーか……」


 そこはエメローラの部屋だった。ベッドに寝かされ、毛布をかけられていた。すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。毛布をめくれば全裸、しかもなんか濡れてるし、一体どうなってやがる。


「私たちが来た時にはすでにこんな感じでした」

「氷の状態でも面倒だが、これはこれで面倒だな……」


 そうこうしているうちにエメローラが目を覚ます。一番ヤバイ展開が待っていそうな気がして、背筋に冷たいものが走った。


「ここ、は?」

「お前の部屋だ」

「でも、こんなにボロボロよ?」

「いいか、大声を出さないで聞けよ? お前はずっと寝てたんだ。三百年の間眠り続けてたんだ」

「私が、三百年も……? そんなバカな、こと……」

「本当だ。いろいろ事情はあるんだが、今はここを抜け出す方が――」

「すごい、すごいじゃない。コールドスリープってヤツ? ヤダ、こんな初体験普通はできないわよ」


 俺の思考が斜め上にぶっ飛んでった。美人でちっちゃくて清楚なイメージばかりが先行していたが、口を開けばなんつー女だ。この状況を本気で楽しんでやがる。目はキラキラと輝いて、コイツの神経がよくわからない。


 彼女は自分の身体を見る。全裸であることに気がついたらしいが、特に恥ずかしがる様子もなかった。


「どうしてお城がボロボロなの? なんで私は三百年も寝てたの? どうして裸なの? ねーねー教えてちょうだいよ!」

「いいから、ここは俺と一緒に逃げる。宿に戻ったら教える。ちなみに最後のは知らん。おーけー?」


 彼女は「ふんふん」と、全力で首を縦に振っていた。何度も何度も、笑顔のままで。


「お前ら球を壊せ。視力強化だけで抜ける」


 魔法少女たちが頷く。


 エメローラをお姫様だっこで抱き上げ、俺たちは城の中を走り抜けた。城の中に警備が敷かれていないのは問題だとは思うが、俺たちには都合がいい。


 深夜の町は怖いくらいに静かだった。が、エメローラが時々足をばたつかせるので雰囲気が台無しだ。


 部屋に戻り、エメローラをベッドに置いた。余っているガウンとタオルを渡した。身体や髪の毛の水分を取り、それからガウンを着てくれた。いや、着てくれないと困るんだけども。


「はい」と言いながらタオルを返してきた。こういうところはお姫様っぽいな。


 特に気にはしていなかったが、受け取ったタオルから妙な臭いがする。顔を近づけて臭いを嗅ぐとなんだか薬品っぽい臭いがした。


「で! どうして! こんな状況に!」


 途端に喋りだす。口を開かなきゃすごい美人なのにもったいなさすぎる。


 目をキラキラさせているエメローラを落ち着かせ、今までにあったことを説明した。三百年前に王国が滅んだこと、それによって共和制に移行したこと。氷漬けにされていたことや、エメローラがいた城が観光地になっていること。氷漬けにされて名物になっていたが、誰かが彼女を氷ごと持ち出して解凍したことなどだ。


「なるほど、なかなか面白いことになってるわね!」

「面白いって、お前の両親も死んじまったし、城もお前のもんじゃねーんだぞ? 昔みたいな優雅な暮らしが出来ないどころか無一文もいいとこだ」

「形あるものはいずれ壊れるのです。それは人間も同じこと」

「悲しいとかそういう感情はねーのか?」

「そうね、当然悲しいわ。父様にも母様にも、侍女や執事たちにもよくしてもらったのも。死に目にも会えない、死体も拝めない。それは、とても悲しいことだわ。でもこうなってしまった以上は受け入れなければいけないの」

「強いなお前……」

「そうでなくては国を背負うことはできないもの」

「背負うような国はもうねーんだがな」

「そういうのは言いっこなし! で、キミはこれからどうするの?」

「どうする、かなぁ……」


 じいさんから言われた任務をサラッとクリアしてしまった。まあまだ魔導書の方が残っているか。


 仕方ないと、とりあえず報告するためにタオルを持ってじいさんの部屋に行った。四回ノックをしてから「おいじいさん、起きてるか?」と言うと「就寝中だ」と返ってきた。なので、ドアノブをガチャガチャやってやると、部屋の中からじいさんが顔を出した。


「なんだなんだ、なんなんだこんな時間に」

「こんな時間とか言いながら起きてたよな? 外から電気がついてたの見えたんだぞ」

「外に? なにをしに行ったんだ? まあ魔力は感じていたから、外に出たのは知っていたが」

「氷漬けにされた姫さんを探しにな。旧王城に隠されてんじゃないかと思って行ったんだ」

「で、あったのか?」

「あったことはあった、しかしな、予想外の結果になった」


 俺の陰からエメローラが飛び出した。


「こんばんわオジさま。エメローラ=シュラント=スルヴァンです、よろしくお願いしますわ」


 エメローラを見るとすごくいい笑顔を浮かべていた。じいさんに視線を戻すと、まあそうだよね、そういう反応するよね、みたいな感じで口を半開きにしていた。

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