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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と不死の皇女》
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三話

「おい、メーメ」


 コイツは本当に自由だな。まだ窪みの中を覗き込んでいる。くり抜かれた断面を撫でて、その撫でた手を凝視している。


「ごめんなさい、いいわ、行きましょう」


 スッと立ち上がり歩いて行こうとする。


「お前帰り道知らんだろ……」

「じゃあさっさと先を歩きなさいな。ホントに鈍くさいわ」

「おめーが自己中すぎんだよ」


 額を抑えながらそう言った。


 じいさんからもらった地図を頼りにして来た道を戻った。全身に雪は積もるし、どんどん足場が悪くなるし、本当に散々な場所につれてこられたもんだ。


 警察署に寄ってじいさんの名前を出すと、警察官たちは快く情報を提供してくれた。


 署内は温かく眠りそうになってしまうが、さすがにここで寝るわけにもいかない。情報そのものは魔法少女たちが覚えていてくれるだろう。


 盗まれた魔導書の名前はルノレアンファス。武器は鞭でクラスはフリーズブランブル。当然属性は氷だ。


 魔導書が盗まれたのは三週間前。観光地の目玉として安置されており、見るだけならば誰でも見られる。ただし周囲に魔導術で障壁が張られているので、そう簡単には盗めないらしい。障壁が壊されたこと

で警察署の警備課に通知が行き、そこで発覚したようだ。


 エメローラの遺体が消えたのは二週間前。こちらは発見が五日前なのであって、攫われた日ではないらしい。エメローラの遺体も観光用として用いられてはいるが、こちらには障壁が張られていない。なので発見が遅れた。


 湖の氷、もとい氷のような魔導物質についても聞いてみた。


 じいさんはああ言っていたが、湖に主などはいないとのこと。昔は湖であったが、エメローラ死亡の直後、王族に対して信仰心を抱いていた者たちによってあのような物質が流し込まれた。信仰していた者たちにとって、あの池はエメローラを祀る場所でもあるってことだ。


 かなり昔に造られているのと、国の方針が変わる大事な局面であったから、魔導物質についての調査をしていなかったらしい。最近調査したところによると、高濃度の魔導力を溶け込ませた水を張り、魔導術によって凍らさたものだと言う。自然凍結されたものではないので、また自然に溶けることもない。そして周囲の雪や氷でエメローラの姿が隠れないよう、信者が交代で除雪しているらしい。


 最後に、魔導物質の壊し方を聞いてみた。


 結果で言えば壊し方は知らない。が、魔導物質なので力ずくで破壊するのではなく、魔導力を中和したり消し去るような方法がいいのでは、と助言をもらった。今日はもう帰りたいから試さないがいい情報をもらった。というかこれはじいさんに聞いた方が早いのでは。


 いや待て待て、あのじいさんが教えてくれるわけがないな。そもそも二週間前の出来事を自分で片付けずに俺にぶん投げるくらいだ。自分でなんとかしろと言い出すに決まってる。


 吹雪に吹かれ、街の中だというのに遭難しそうになりながら宿に到着した。案内された部屋は非常に広い。たぶん街でも高い方の宿なんだろう。こういうところは評価できる。


 だがベッドは一つだ。


 広い室内にベッド一つ、テーブル一つ、イスが六つ、クローゼット三つ。一応テレビもあるんだな。テレビなんて高級品が備え付けられてるってことは、宿代は十万以上だなこりゃ。


「なんでだよ。意味がわからん」


 靴を脱いで絨毯には靴下で上がる。部屋に入る前に言われた。この辺は雪が多いので、靴を脱ぐのが風習だという。なるほど、東の方でもこういう風習があるな、確か。東の方はわからないが、ここはブーツのまま部屋に上がると濡れるからということなんだろう。


 全員分のコートをハンガーにかけ、入り口付近のクローゼットに入れる。乾燥機付きという素晴らしいクローゼットだ。


「あーあー、もう靴もこんなにぐちゃぐちゃにして……」


 と言ってもちゃんと脱いでないのはメーメの靴だけ。もう文句を言う気も起きない。


 それにしても温かい。一応厚手のカーディガンなども用意されているのだが、部屋どころか宿自体がかなり温かい。暖房全開といった感じだが、雪国ではこうするのが一般的なのかもしれない。


 俺は当然として、幼女たちの服装もかなり薄着だ。キャミソールにドロワーズとは、さすがに極寒の地だとは思えない服装だ。


 テキトーに食事を頼んだ。フロントに電話で一本。すごい場所だな本当に。


 好きなものを頼んで食べた。タルトが加わったことで、食卓が更に賑やかになった。タルト自身は大声も出さないし、食事の作法もしっかりしてる。けれど会話を作るのが上手く、返答も非常にしっかりしていた。そのため会話が終わらない。必然的に食事の時間が長くなる。けれどその時間も悪くないと思わせるだけの雰囲気を秘めている。タルトがいるだけでメーメの相手をし続けなくていいのはいいことだ。前まではアンか俺じゃないと相手ができなかったからな。


 食事の後は自由時間。と言ってもどこかにいくわけでもなく、室内にある書物なんかを読むなり、テレビを見るなりしかやることがない。


 そんな中、ベッドに薄着のロリが四人、なんという光景だ。ヤバイ思考のオッサンがいたら卒倒しかねん。


 メーメはベッドのスプリングでポインポイン。タルトはダランとゴロンゴロン。アンはメーメに怒ってて、メーメがポインポインしてるせいでルルが巻き込まれてポインポインしてる。ルルとアンは本を読みたいようなのだが、メーメによって妨げられているようだった。タルトの方は、よくわからない。よくわからない度でいくと、メーメとタルトは同じくらいのレベルだろうか。


「やめなさい」


 全ての元凶を捕まえてイスに座らせた。


「なに? 楽しんでるとこなのに」

「アンが怒ってルルが巻き込まれてるだろうが。お前の気持ちとかそういうんじゃなくて、周りのことをもっと考えなさい」

「年寄りくさいことを……あのおじいちゃんと一緒にいて、ロウの脳みそも老化したんじゃない?」

「こら、老化を伝染病みたいに言うのはやめなさい。お年寄りに失礼だ」

「私は老化しないからよくわからないわ」

「魔導書は年とらねーからな、そりゃそうだわな。でも記憶は蓄積されてくんだろ?」

「ええ、そりゃもうガンガン蓄積されてくわね。ただし、契約者がいなければ意識はない。魔導書状態でも契約者さえいれば外の様子がわかるから」

「お前の前の主人はさぞ大変だったろうな」

「そうでも無いわよ? 前の子はかなり放任だったから」

「子供だったのか、前の主人」

「いや、アナタよりも年上だったわ。女だったのよ。クソてきとーだったけど」

「女の子がクソとか言わないの。放任主義なんじゃなくて、放任するしかなかっただけじゃねーかな……」


 俺もそうする他ないと思っていたところだ。数年の付き合いではあるが、コイツの考えはよくわからん。


 クローゼットからタオルとガウンを取り出し、それを腕に掛けた。


「どこ行くの?」

「風呂だよ。露天がある」

「それじゃあ私も行こうかしら」

「言っておくが男女別だからな。この前みたいに一緒には入れないぞ」

「それはつまらないわね。じゃあ行かない」

「俺のこと好きすぎかよ」

「大好きよ? 知らなかったの?」

「面と向かって言われるとさすがに恥ずかしいが」

「アナタをおちょくるのが、だけど? ロウ自体にはなにも思ってない」

「お前は本当にムカつくな」


 と、それだけ言い残して出てきた。これ以上アイツに振り回されてもいいことがない。


 部屋も広かったが風呂も広い。この宿自体もでかいから、なにもかもが全部スーケルが半端ない。金がかかるような宿には泊まったことがないからか、とても開放的な気分になれる。


 湯がちょっと熱めなのでちょうどいい。

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