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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と不死の皇女》
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二話

 たまに村や町に寄り道をしながら、二日間かけてスルヴァン共和国に到着。ここに来るまでの間に服などを確保したので、三枚も四枚も厚着をしている。


「しかし寒い」


 魔導車から降りて身震いを一つ。猛吹雪という表現がヒジョーに似合う。一応そこらにある家から漏れる明かりとか、そのへんを走る魔導車のヘッドライトなんかは見える。けれど基本的に白一色。歩くのもかなり苦労するほどに路面は凍っていた。


 帽子を目深に被り、魔法少女たちを見た。彼女たちは自分で体温調整ができるので厚着しなくてもいいのだが、薄着でいると魔法少女ということがバレるので彼女たちもまた服に埋もれている。


 歩きづらいし動きづらい。でもこんな厚着をしていても寒い。踏んだり蹴ったりじゃないか。上下、帽子から靴まで全部モコモコなのに寒いってのはどういうことだ。今までに経験がなさすぎて夢なんじゃないかとさえ思う。全身茶色という色気のなさもまたなんとも言えない。


「可愛くないわ」

「うっせーよ、文句言うな」


 メーメの口にチャックをつけてやりたい。口を開けば文句ばっかりだ。


「じいさん、とりあえず宿に行こう。寒さに慣れる前に死ぬ。それに荷物も持ってかなきゃならんだろ」

「いや、荷物は部下に任せた。ワシらはこのままエメローラが埋葬されていた場所に向かう。まあ、ワシは用事があるからお前らをそこに連れていくだけだが」

「おまっ、ふざけんなよ……じゃあなにか? 墓で簡単な調査をして、自分たちの足で帰れってのか?」

「そういうことじゃな。なーに、歩いて一時間程度だ。お前たちの足なら問題なかろう」

「こんな吹雪の中を一時間歩けと!」

「うむ。とりあえず行くぞ」

「くそっ! いつか覚えてろよ!」


 魔導車はどこかに行ってしまった。じいさんもどんどん先に行ってしまう。俺はじいさんのあとを追いかけるしか選択肢がない。


 本当に一時間ほど吹雪の中を歩いた。崖に着いたかと思えば、今度はちょっと遠回りをして崖を降りる。真っ白でよくわからないが、地図を思いだせば元々湖があった場所のはずだ。


 湖の脇には看板があった。


〈エメローラ=シュラント=スルヴァン、ここに眠る〉


 なるほど、この湖全部が王族の墓ってことか。反王族からすればかなりムカつく場所だろうな。


 じいさんはどんどんと氷の上を進んでいく。俺は舌打ちを一つしてその背中を追いかけた。


「ここだ」


 足が止まった。じいさんの横に立って視線を下に向けると、氷の一部がくり抜かれている。キレイに、鋭利ななにかで切り取られたかのような断面だ。


「なんで雪が積もらないんだ?」

「定期的に除雪しているからだ。敬虔な信者はまだ存在してるからな。あとこの氷は、湖の主が自分の魔導力を使って張ったと言われている。この国の人間からしたら神聖なものなんだ。特に信者にとってはかなり崇高な存在だろう」

「崇高な信者って、旧王家の信者と湖の信者が同じってことか?」

「湖の主は国王のペットだとも言われていたからな」

「なるほどな。でもこんなキレイに切り取るなんて、相当のやり手ってことじゃねーのか?」


 除雪したとはいっても数センチだが雪は積もっている。雪をかきわけて氷の断面を見れば、鋭利な刃物でスッパリやられてる。でもそこそこの範囲だ。切り取るには労力も時間も必要だろう。


「タルタロッサの時と同じだよ。旧王城、今は観光用になっているが、そこに展示されていた魔導書が盗まれた。」

「だからお前を連れてきた。協力できることはするが、基本的にはお前がなんとかするんだ」

「ふざけんなよマジで……」

「とにかくワシはこれから用事がある。ここでしばらく現場検証でもしておくといい。警察署にも顔を出すといいぞ。ほれ、地図だ」


 ポケットに紙製の地図をねじ込まれた。


「宿の場所も描いてある。それじゃあな」

「ああ、もういいよ、わかった」


 手の甲を自分側から向こう側に「しっしっ」と払った。じいさんは「ほっほっほっ」と言ってどこかに歩いていってしまった。


「さて、現場検証と言っても特にすることがないわね」


 窪みを覗き込みながらメーメが言う。他の魔法少女もまた、同じようにしゃがんで覗き込んでいた。ロリが四人でしゃがみこんでいると微笑ましくはあるんだが、猛吹雪の中ってことを考えるとあまりにも不思議な光景すぎてなんて表現していいかわからない。


「なんかわかんねーか?」

「そうね。この氷は少し特殊みたい。強力な魔導術で形成されてる。つまり氷に見えるけど、その実、魔導物質としての側面もあるわ。普通の切削機で切断できるようなものじゃないわ」

「それだけじゃありません。雪が氷に落ちて水になる、というわけではなさそうですよ」

「どういうことだタルト」

「魔導物質であるということは、雪が溶けても、表面の氷と交わることがないということです。関係があるかどうかは謎ですが」

「面倒くさそうな魔導術をかけたもんだ。でもその魔導術をぶった切って氷がくり抜かれた。これもまた面倒くさそうだ」


 タルトとそんなやり取りをしている横で、アンが槍を取り出して氷につきたてていた。


「なにしてんだお前」

「この氷、傷がつかないのよ」


 ガンガン、と何度も槍を突き立てるアン。しかし氷の部分には傷一つついていない。氷というよりも特殊な魔導物質という見方はかなり正当性があるな。


魔導器(ヴァールハイト)を使っても無理そうか?」

「どうだろ。ルル、ちょっと属性を付与して一発ぶっ放してもらえる?」

「はい、ちょっとやってみますね」


 アンに促され、ルルがライフルを取り出した。銃口を地面に向けて魔導力を込める。すると銃口が赤くなり始めた。


「ちょっとなにしてるのよ!」


 腕を引っ張られた。アンが俺の前に出て、手を広げる。次の瞬間、ライフルが火を吹いた。かなり魔導力を込めたんだろう、衝撃が地面に当たって強風を起こした。ルルが炎属性なので温かい風が全身を包む。ずっとこのままでもいいくらいだ。


 なるほど、コイツは俺を守ってくれたのか。


「ありがとうな」と頭を撫でてやる。すると「べ、別にアンタの、ためだけど」と顔を赤くしていた。なかなか可愛いところもあるじゃないか。


「ダメみたですね。属性相性で相殺できるような生易しいものじゃないかもしれません」

「つーことは、この氷の特性を理解した上で切り抜いた。いや、切り抜くことができる人物がやったんだな。氷の特性を暴かないと先には進めないか。盗まれた魔導書の情報も足りない。一度町に戻るぞ。警察署で情報を集める」


 三人の魔法少女が頷く。

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