一話
わけもわからぬまま、俺たち一行は魔導車に乗せられた。大型のワゴン車だ。魔法力や魔力を原動力にして動く自動車で、石油燃料も蒸気も使わない。
「で、これからどこに連れてくつもりだよ」
「お前らはこれからスルヴァンへ行ってもらう」
「スルヴァン……? あの、スルヴァン共和国か?」
「それしかあるまい?」
「それしかあるまいって、最北端の氷結王国じゃねーか! 俺は寒いの苦手なんだよ!」
「文句を言うな。ちゃんとツーヴェル様にも許可をとってある。お前はこれからワシの依頼をこなしてもらう。もとい小間使いとして働いてもらう」
「なんで俺が小間使いなんだよ!」
「お前に必要だと思ったからだ。少しずつ、式守としての基礎を固めようと思ってな」
「式守になるつもりはない。それよりもスルヴァン行きたくない」
「じゃあ式守にならなくてもいい。魔操師として強くなるつもりはないのか?」
「それは、なりたいとは思うが」
「じゃあ言うことを聞け。寒いし面倒くさいとは思うが、間違いなくお前の力になる。しかしただただ言うことを聞いているだけではダメだ。考えて行動し、自分の弱さを実感しろ。その上で自分に持っていないモノを持っている人からは目を逸らすな」
「くそっ、なんでこうなった……」
頬杖をつき窓の外を見た。魔導車はかなりの速度で走っている。石油燃料や蒸気で動く自動車の三倍近くの速度がでる。なによりも空を飛べる。むしろ魔導車というのは外を飛ぶ、小さな飛行船というのが主な使い方だ。ただし、操縦者の技量による。空を飛ぶためにはかなり強い魔力が必要だからだ。
「で、俺はなにをすんだよ」
俺がそう言ったところで、メーメが膝に頭を乗せてきた。
「やっぱりアナタの太ももは堅いわね」
「じっとしてろよ! ルルもアンもタルトも大人しく座ってるだろ! こういう時くらいはじっとしてろよ!」
「二回言わなくてもいいわよ。ふんっ、ルル、相手をしなさい」
「ちょ、ちょっと、胸で遊ばないでくださいー」
悪いなルル、ちょっとだけメーメのおもちゃになっててくれ。
「で、俺はなにをすんだよ」
「それも二回目だな」
「黙れジジイ。話が進まない」
「やれやれ、これだから若いもんは……」
頼む、進めてくれ。
「そういう顔をするでない。コホン、ではお前がこれからスルヴァンでお前にやってもらうことを説明する」
特に契約書もなく、じいさんが俺に説明してくれた。契約書がないのは、おそらく俺がツーヴェルのそばにいる人間だからだろう。
じいさん、もといギュンターク=ハルマイエが言うには、タルタロッサが盗まれたのと同時期にスルヴァンで大きな事件が起きたようだ。
スルヴァンには昔から氷葬という葬送の一手段がある。基本的には雪山に埋めるらしいが、最後の王族だけは別の場所に氷葬された。氷葬は王族にのみ適応されるものであり、一般人は普通に火葬らしい。そして氷葬された最後の王族の遺体が盗まれた。それが皇女エメローラの遺体だった。
実際のところ、スルヴァン王国と言うのは昔の呼び名である。今はスルヴァン共和国。三百年前に王族が全員滅び共和制となった。王政は廃止され、大統領を置くことで国を維持している。だから元皇女というのが正しい。スルヴァンには「最後の皇女エメローラ=シュラント=スルヴァン」として信仰する者も多いと聞く。美しく可憐で、氷葬した後も参拝する者が絶えないとさえ言われている。
皇女もまた、王国が滅びた時に死んだ。だが唯一キレイな形で遺体が残っていた。だから氷葬された。実際、国王や妃の遺体はどこにあるのかわかっていない。
まあ、王国が滅びた理由は一部のスルヴァン国民が暴徒化し、城ごとぶっ潰したというのだから穏やかではない。
エメローラの遺体が盗まれ、その遺体を探すことが目的の一つ。もう一つは、国の最重要機密であり観光の目玉として扱われていた魔導書を探すこと。こちらも同時期に盗まれているため、警察内部では同一犯なのではという味方が強いようだ。そもそも重要機密を客寄せ道具にするんじゃない、と言いたいところだ。
「なぜ俺に。こんな重要な案件、警察の上層部でやりくりするのが普通だろうが……」
一通り話を聞き終わり、俺はそういうことしかできなかった。当然だ。俺は式守でもなければ警察でもない。パパッと解決できるほどの力もない。俺にやらせる意味も理由もないんだ。
「魔導書を奪った人間は、おそらく魔操師となっているだろう。だからお前と戦わせたい」
「俺みたいなやつの命はどうでもいいってか。言ってくれる」
「そうではない。お前に圧倒的に足りていないのは魔操師との戦闘だ。魔導書を四つ所持してはいるが、魔操師と戦闘のおりに入手したわけではなかろう。だから弱い。お前は経験を積み、それを生かすことがお前を強くする。アウトプットではない、まずはインプットを強化しろ」
「簡単に言ってくれるが、それで俺が死んでたら意味ないだろ。ボッシュとの戦いだってじいさんが来てくれなきゃ確実に死んでた」
「ああ、だが今度はワシは助けに行かれない。ワシにも用事があるから、完全に別行動になるだろう。だからお前が一人、いや、魔法少女と協力してなんとかしなければいけない」
「なんとかって……」
「ちなみに言っておくが、ワシはお前の数十倍の魔力を持っているとかそういうわけではない。お前を助けたあの時、ワシは単純に魔導書の力を使っていた。ただそれだけだ」
「でも魔導書なんて持ってなかっただろ?」
「ワシは魔導書を持ち歩かない。というか持ち歩いたら「私は魔操師です」と言っているようなものだろう? 遠方にあっても魔導書の力を借りる、これは魔操師としてかなり重要な技術だ。それと今よりも魔導書の力を引き出すこと。この二つを学び、覚えろ」
「めちゃくちゃ難しそうだな、それ」
「そりゃあ簡単ではないさ。でも、お前はそれができる。ワシも、ツーヴェル様もそう思っている。だからスルヴァンにも連れていく。徐々にでいいから覚えていけ。魔操師として、人喰い勇者を倒したいのであればな」
「ヘリオードか」
「あれは魔女に近付くことはない。だから魔女がヘリオードを殺すことはない。でもその力は計り知れない。しかし魔女が近づけないということは倒すものがいない。結果として生きながらえている。その正体も、生きている原理も不明なまま、な」
「聞けば聞くほどふざけた野郎だな」
だからこそ躍起になる。
「どうだ、やれるか?」
腕を組み、背もたれに体重を預けた。
「皇女も魔導書も、魔導書の使い方も魔操師としてのレベルアップも全部やってやるさ。式守になるのはどうでもいい。見てろよじいさん、アンタの技術盗んでやる」
「その意気だ。いいぞ、気に入った」
じいさんは楽しそうに笑っていた。このじいさん、教育者としては結構やり手なんじゃないだろうか。




