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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と人喰い勇者》
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二十五話

 目を覚ますと、アンとルルが地面に伏していた。ちょっと遅かったか。


「遅いわ! 早すぎてもダメだけど、遅すぎるのはもっと嫌われるのよ!」


 いきなりメーメに怒られてしまった。見れば服はボロボロで、裂傷のような跡が数多く見られる。


 メーメをこんなふうにしたのは、彼女の視線の先にいるやつだろう


 白髪交じりの中年男性、見たことがある。その横には魔法少女だ。


「それ、たぶん意味違うだろ。でもまあ大丈夫だ。いくぞ、タルタロッサ」


 今しがた手に入れた魔導書を魔法少女形態にする。


「私のことはタルト、とお呼びください」

「おーけータルト。いきなりだがいけるな?」

「問題ありません」


 剣に手を添えて構える。タルトもメーメも戦闘態勢へ。


「そうカッカするなよ。話し合いをしようじゃないか」


 中年男性がそう言った。いや、元担任教師と言った方がいいか。


 アネラだけじゃこうもいかなかっただろう。障壁を操作するにあたっては必然的に教師の手引が必要になる。アネラのことやイベルグのことをよく知っていて、それでいてタイミングをしっかりと見極められる人。そうなると俺たちの教師しかいない。


「話し合い? 俺の魔導書をこんなんにしといて話し合いもクソもねーだろ」


 魔法少女は主人がいないと能力が落ちる。俺が傍にいればアンもルルもここまで簡単には倒されなかっただろう。むしろメーメが残っていたことが凄い。


「話し合いさ。死にたくなきゃ降伏しろ、っていうな」

「そりゃ話し合いとは言わねーんだよ。タルト!」

「はい!」


 タルタロッサ、属性は水、クラスはアクアリーパー、武器は鎌。性格は温厚そうだがその反面、役割は前衛でのアタッカーだろう。水の壁を作ったところからするにオールラウンダーと言った方が正しそうだが。


「いけ、シャル」

「任せてボッシュ」


 色素が薄い金髪、長さは肩あたりまでだが三つ編みの束がいくつもある。目付きは鋭く慎重は低め、まあ魔法少女は基本的に低身長だ。体つきは貧相だが、握られた拳に目をやるとあまりいい予感はしなかった。


 シャルが突進してくると空気が冷たくなっていく。氷属性というのはわかっていたが、自分の予想がここまで当たると逆に驚いてしまう。


「アクアウォール!」


 タルトが水の壁を張ってくれる。が、それを凍らせてから割るという手段で突破してきた。


 そう、これがグラウンドに侵入してきた手段だ。あの時、確かにガラスが割れたような音がした。タルトが壁を張り、シャルが凍らせたのだ。


 一直線に俺を目指してくるシャル。その間にメーメが割り込んだ。そしてタルトがシャルの背後に回り込む。


「さっきはよくもやってくれたわね!」


 味方ごとボコボコにされたせいか、メーメが珍しくキレている。誰かが怒ってくれていると逆にこっちは冷静になれるというものだ。


 魔導書、もとい魔法少女の強さは魔操師の強さにも影響される。元々の魔法少女の強さはほぼ均一だが、そこに魔操師としての技量や魔力などが加わることで魔法少女の強さが決まるのだ。


 俺と担任教師でるボッシュでは、おそらくはボッシュに軍配があがるだろう。見ているだけでわかる。本人のあの余裕、シャルの判断能力と肝の座り方。これだけで証拠は十分すぎる。


 だが二対一ならなんとかなるだろう。と、信じたい。


 メーメの横をすり抜けてボッシュの元へと駆けていく。俺を逃がすまいとするシャルの前にはタルトがいる。


「これで一対一だ!」


 走りながら剣を抜く。その勢いで横に一閃。


「一対一なら勝てると?」


 カンッと甲高い音がして止められる。ヤツが持っているのは一本のナイフだった。


「そんなもんで完全に防げると思ってんのかよ!」


 一度剣を引き戻す。上段からの切り下げ、突き、袈裟斬り、一回転して横薙ぎ。


 その全てを止められてしまい、俺は格闘技を混ぜることにした。もう一度、喉元に向けた突きを放つ。殺人をしたいわけではないが、こっちも本気でやらなければ殺されてしまうだろう。こんな状況で躊躇するほど生ぬるい生き方をしてきたつもりはない。


 突きをナイフの腹で受け止めてそのままスライドさせるボッシュ。俺は俺でそんなことなど気にせずに突っ込む。腹の下で左拳を作り、接近と同時にヤツの肩を殴りつける。


 つもりだった。


 気がつけば、ヤツの肘が俺の顔面にめり込んでいた。ほんの一瞬だけ意識が飛んだ。


 マズイと思って距離をとる。今度はボッシュが攻めてきた。


 直感する。この戦いは、どうやっても俺の負けだ。


 突き出されるナイフを剣で受け止めるも、ヤツの移動速度が早すぎてかなり接近されてしまった。この間合いは俺の剣の間合いではない、ヤツのナイフの間合いだ。こちらに向けて放たれる凶刃をすべて受け止めるのは不可能だった。回避も簡単にはできない。小回りが利くナイフとこちらの剣では間合いが違う。


 刃だけではない。柄や鍔、腕や足を使って防御に徹した。盾も取り出したのだが早々に弾き飛ばされてしまった。


 いたるところに切り傷が増えていく。指を落とされそうになる場面も多々あり、内心ヒヤヒヤして仕方がない。


 常にギリギリの戦い。俺は戦闘狂でもなければ戦うことを好むような変態じゃない。戦いは目的のために仕方なくするものだ。そう考えているからこそ、ボッシュのこの笑顔は理解できなかった。


「さきほどまでの威勢はどこにいったんだ!」

「はん、今に見てろよクソ野郎。その口ごと削ぎ落としてやる」

「やれるものならやってみろクソガキ!」


 反撃に出る。剣がナイフに絡め取られ、あっという間に剣が宙を舞った。


 空中にで幾度となくクルクルと周り、地面に刺さった。


「今に見てろ、だって? 瞬きする暇もないくらいの速度で終わったな」


 ナイフの切っ先が俺の鼻先で止まった。


 コイツ、顔に似合わず強すぎる。魔導術でも体術でも、勝てる部分が一つもない。


「お前、式守、もとい小間使いなんだろ? それがこんなに弱くてどうするんだ。もう少し頑張ろうとか思わないか?」

「式守でも小間使いでもねーよ。確かにヴェルは師匠だけど、あの人に仕事を任されることはない」

「そりゃお前を信用してないからだ。任されることがないんじゃない。任せられないからやらせないんだ。そうだよな、こんなに弱くて、魔導書の使い方もお粗末だ。俺が魔女の立場でもお前を傍に置いておこうとはおもわない」


 ヤツの顔が歪む。笑ってるんだ。下卑た顔で「ヒッヒッヒッ」と嘲笑ってやがる。ムカつくし、今すぐにでもこの面をぶん殴ってやりたいくらい気分だがそれは不可能だ


 今の俺じゃ、コイツには勝てない。


 ふと、あのじいさんの言葉を思い出した。


(もしも音の正体と戦うことがあれば、お前では絶対に勝てないだろうな)


 アネラを潰していい気になっていた。でもそれだけじゃない。たとえ驕っていなくても、俺はコイツには勝てなかった。じいさんは全部わかってたってことか。コイツの強さも、俺の強さも。

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