二十四話
【ロウファン:2点、タルタロッサ:-4点】
俺のターン。球を入れ終わると彼女が振り返る。
「1と2をオープン」
1に黒球、2にも黒球。
「ようやく、この時が来ましたね」
そう言いながら、彼女は3に指を置いた。そこは、俺が最初の方に赤球を入れ続けていた場所でもある。
「でも、ここじゃない。アナタならばこちらに入れるはずです」
3から4へと指を移動させ「チェック」と言う。
4のカップが浮き上がるとそこにはなにもなかった。全てのカップが浮き上がると、3に赤球が入っていた。
「いやー、そういう読み合いをしてくれると思ったんだよ俺は。だから素直ないい子だっつったんだ」
素直だから深読みしちゃうんだよな、わかる、わかるぞ。相手が設置して自分が当てる。それは「読み合いを仕掛けられてる」のであって「自分から読み合いに引き込む」ことはできない。
彼女はギュッと目蓋を閉じていた。考えているんだろう。ここから逆転する方法を。まあ、あるとすれば運を引き込むことくらいなんだけど。
タルタロッサのターン。
一度背を向けてから戻ってきた。
勝負どころだが深呼吸などはしない。あくまでポーカーフェイス。こちらの内心を読まれるわけにはいかない。
「2と4をオープン」
両方空……か。イチかバチか、自分の運を信じて見るのも悪くない。
赤玉を引ければ七点差で俺の勝ち。黒球を取ってしまえばかなり長引く。
考えるべきは「タルタロッサがどこに赤球を入れたのか」ではないだろう。「俺を陥れるためにどこに黒玉を配置したのか」だ。
「俺はここをチェックだ」
3のカップを二回叩く。そして、カップが浮き上がった。
スローモーションのように見えた。カップの中には赤い球。
「俺の勝ち、みたいだな」
「ふーっ」と、タルタロッサが大きく息を吐いた。すぐに「ふふっ」と、なんだか楽しそうに笑った。
「なんだよ、おかしくなっちまったか?」
「いいえ。面白い方だな、と思いまして」
「面白いか? 俺は結構ハラハラしたよ、わかったような態度でいるのは疲れる」
「そういう方でしたか。でも「心理戦じゃない」なんて言いながらこちらを煽ってみたり、面白いと思いましたよ。ちょーっとイジワルだなぁとも思いましたが」
「そりゃ悪かった。自分でもわかってる。でも心の有利は戦況の有利って師匠に教わったんだ。たとえ自分が負けていようとも、わかったような態度で、知ったふうな口を利き、余裕を見せて煽っていく。そういうやり方しか知らないんだ」
「それでいいと思いますよ。試練はそういう場でもありますから。信念を突き通そうとする人、野望を果たそうとする人など、どこか一つに向かって行こうとする人は試練も強い。そういうふうに出来てます」
「じゃあ俺は相当信念が強いんだな」
「野望かもしれませんけどね。そうこうしている間に目覚めの時間です。最後に訊いてもよろしいですか?」
「ん? なにを? いや別にいいんだけどさ」
「最後の一手。なぜあそこを指定したんですか?」
俺は頭をガリガリと掻いた。
「あれは、半分は勘だ」
「残り半分は?」
「一番黒玉が多く入っていたのが3だったからだ。なおかつ2と3はまだ赤球を一回も入れていなかった。2が潰れた以上、今までのやり取りで刷り込みができていると判断したのなら3に入れるかな、と思っただけだ。だから半分は勘。俺は運がいいようだ」
「考えていないようで考えているんですね。今までの配置も記憶してるなんて」
「全部じゃない。どこが空だったとかそんな情報はいらないだろ? 必要な情報だけ覚えてればいいんだから簡単だ」
「いいえ、普通は簡単にはできませんよ」
そう言って、タルタロッサが微笑んだ。
刹那、強烈な光が俺の身体を包み込む。その光の強烈さにきつく目を閉じた。向こうに戻れば、もう一人重要な人物が到着する頃だろうな。
やがて浮遊感がやってきて、俺の意識は遮断された。




