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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と人喰い勇者》
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二十一話

 右からの袈裟斬り。当然のようにアネラは半身逸らして避ける。剣を避ける前に踏み込んでいたんだろう、接近が異様に早い。でも最初からわかってるよ。その体勢から今の攻撃を避けるとしたらそうなるよな。


 右ストレートが腹にめり込んだ。これでいい。


 俺は剣を離し、剣を振った勢いを利用してアネラの背中に手を回す。気付いてからでは遅いんだ。


 彼女の背中の服を掴み、強引に引き剥がす。自分の呼吸ではない、人の呼吸で間を取らされたのだ、驚いた顔をしても不思議じゃない。


「まず一発」


 頭突きで鼻を砕く。


「がはっ……!」


 鼻はいてーよな。知ってるよ、折れると涙しか出てこない。だからケンカじゃ有効な方法だ。先手を取るなら鼻が有効。


「二発目返すぜ、防御しな」


 身体を思い切りひねった。右拳をほぼ水平に薙いで、その細い横っ腹へ。


「ぐあっ!」

「これで終わりだな」


 最後は左手のビンタ。横っ面に全力で叩き込んでやった。


 地面に叩きつけられたアネラは、まるでミミズかなにかのようにのたうち回っている。それもそのはず。今のビンタには魔導術を込めてある。音を増幅する力がある。ビンタの「バシーン」なんて音がかなり大きな音で鳴ってるはずだ。


「任務完了、ってな」


 メーメを見た。タルタロッサが魔導書になっている。


 ルルとアンもヘリオードを倒し終わって……。


「お前ら結構早く終わったんだよな? 玄関先に座ってなにしてんの?」

「傍観」

「すいません、アンが休もうって言うので仕方なく……」

「いいよ、ルルは許す。アンは折檻」

「なんで私だけなのよ!」

「ルルは癒やしだからいいんだ」


 アネラは気絶した。今回の犯人もヘリオードも倒した。が、最後にやることがある。


 しゃがみ込み、アネラの頬を叩く。


「起きろ」


 数回じゃ起きないからと、何度も何度も叩きた。


「……な、なんなの?」

「タルタロッサとの契約を解除しろ。さもなくばお前を殺す。魔導書を破壊すると、契約者であるお前も死ぬ。けれどお前が死ぬだけなら魔導書は無事だ。俺は魔導書の収集も目的の一つでな。タルタロッサが欲しいんだ。死ぬか、契約を解除するか、どっちがいい?」

「ははっ……契約解除なんて、するわけ、ないでしょう?」


 強欲な女だ。もしかしたら救いようがないかもしれない。俺に対しての嫌がらせも含んでいる、というのが非常に厄介だ。


 実のところ、俺だって別に殺しがしたいわけじゃない。まだやらなきゃならないことも多いのに、犯罪者になって逃亡生活なんてごめんだ。


「本当なら契約解除させてから、今度は俺が再度契約したかったんだが」

「やらせないわよ。アンタなんかに」

「じゃあ仕方ないな。強制解除だ」

「強制、解除……?」

「魔導書を持って数日じゃ、強制解除もしらねーよな、お前に教える義理はないけど」


 ルルの場合もアンの場合も、持ってるヤツが大したヤツじゃなかったから強制解除も必要ないと思った。だが今回は別だろう。


 強制解除にはいろいろデメリットがあるため、俺は最終手段にしか使わない。解除される主人側が壊れる可能性が高い。激しい激痛を伴う、らしい。俺もヴェルに聞いただけだからどういうものかは知らないのだ。つまるところ強制解除童貞だ。


 他にも理由はある。強制解除とは言うが、ようは契約の割り込みである。俺が契約を無視して二重契約を魔導書に要求して儀式をするだけだ。俺の契約が完了すると、必然的に前主人の契約が弾かれる。


 問題は、俺が契約に失敗すると俺が死ぬということ。魔導書に取り込まれて体ごと食われてしまう。


「メーメ、俺とタルタロッサを繋げ。ルルとアンはアネラを見ててくれ」


 メーメに歩み寄って手を差し出した。


「強制契約、ね。私はおすすめしないけど」

「なんとかなる。ほら」

「わかったわ」


 魔導書を受け取った。左手の平を上にして魔導書を乗せ、魔導書の上に右手を乗せる。ここまでは普通の契約と一緒だ。


 その上からメーメが手を被せた。俺が魔力を注ぎ込むと、メーメも同じように魔力を注ぐ。


「我が名はロウファン。従属の試練を賜りたい」


 そう言うと、魔導書から光の粒が現れ、空気に散っていく。光の粒がタルタロッサの姿を形成した。


「我が名はタルタロッサ、従属の試験はカップインジョーカーなり。生死を賭する覚悟はあるか?

「承服した。主従の試験を始めてくれ」

「其方の心、其方の体を持って誓約の証とする。武運を祈るぞ、未来の守護者よ」


 強制契約、強制解除の場合は他の魔導書と一緒に魔力を込めないと魔法少女を召喚できないのだ。


 そして、俺は白い闇に落ちていく。

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