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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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五十三話

 スリエルはため息を吐きつつ魔導力を肥大させていく。


 クルーエルが地面から鎖を出してスリエルを拘束、俺とレアとウィロウとアルフィスが前衛でイズミ、クルーエル、魔女四人が後衛。この陣形を見たスリエルは「当然だ」と言わんばかりに涼しい顔をしたままだった。


 本来であれば魔導力が高い魔女が前衛を務めて式守たちがサポートを行う。式守たちは魔女への魔導力供給係でありながら魔女に対しての攻撃を防ぐ。そうすることで魔女が攻撃に専念できるのだ。


 しかし今回は魔女を後衛にした。これは作戦会議で決定したことだ。


 スリエルに対して生半可な魔導術は通用しない。であれば最終的に大魔導書に頼ることとなる。魔女が無理をして前衛を務めるよりも、スリエルに効果的な魔導術が使える大魔導書の契約者たちを最初から前衛にしてしまった方がよかった。そうなれば契約者たちが魔女から魔導力を供給される。魔女が持つ膨大な魔導力があれば、本来自分が使えるよりも遥かに多い魔導力を使うことができる。


 アルフィスが一番乗りで攻撃を仕掛ける。振り上げた拳を思い切りスリエルに叩きつけるが障壁によって阻まれる。その障壁も通常の魔導術だ。であればアルフィスが持つ緑の魔導書の力だけでも突破できる。厚い障壁ならばわからなかったが、ほぼ密着距離にある障壁はどうやっても薄くなる。


「この程度で防がれてたまるかよ!」


 一発、二発、三発と高速で放たれる拳。だがスリエルはそれをギリギリのところで避けていた。


「なるほどな」


 スリエルが障壁を張ったのは防御するためではない。少しでも時間をかせぐためだ。


 次いでウィロウが加勢に入る。空気中に炎の輪を出現させて、それをスリエルへと射出する。同時に自分でも剣を振るい退路を狭めていく。スリエルはスリエルでクルーエルの鎖を破壊して逃げる場所を増やそうとする。だが壊すたびにクルーエルが鎖を巻きつける。


 それでも、スリエルには傷一つ付けられないままだった。避けるのが上手い、というレベルの話ではない。普通の魔導術は大魔導書の魔導術には勝てない。障壁を張ろうとも容易に破壊され、攻撃をしても防がれてしまう。確かに通常の魔導術であっても魔導力が多大に含まれていれば拮抗することもできる。そうでなければ、前回スリエルが大魔導書に対抗できた理由が見つからない。現在のスリエルが前回よりもずっと弱いからこそ、俺たちはここまで肉薄することができる。


 俺とレアが遅れて攻撃に参加する。ただし四人同時には攻撃できない。二人が攻撃をしている時は攻撃の準備をし、最初の二人が離脱する瞬間に攻撃を仕掛ける。


「拙いなあ」


 と、スリエルが言った。


「んだとこら」


 それがアルフィスの琴線に触れたのか、離脱することなく攻撃を続け始めてしまった。


 リズムが狂う。


 見計らってか、スリエルが腕を伸ばして攻撃の体勢に入った。いや、攻撃をするフリをしたのだ。


 スリエルが攻撃をしようとした瞬間にイズミがアルフィスの前に障壁を展開してくれる。おそらくはそれを確認したかったのだろう。


 そして次々に弱い魔導術で攻撃を仕掛け始めた。


「もう虫の息ってか!」


 ようやくアルフィスの攻撃がスリエルに通った。防御はされたが攻撃が当たったことに変わりはない。


 いや違う。二人の間に障壁が展開されている。しかも今までのように割れていない。


「まさか……!」


 周囲を見渡す。特にイズミやクルーエルや魔女の向こう側。そう、式守たちやヴォルフのクローンたちに意識を向けたのだ。


 明らかに数が減っている。だが式守たちの数も減っている。ダメージによって床に伏せている者、疲労で壁に寄りかかっている者。式守の数が減るということは、クローンたちが好き勝手に動いていることになる。式守の数が減ってもクローンはスリエルの加勢をすることはない。力量が足りていない上に魔女が外側にいるせいで近づくことなどできないのだ。


 であればどうするか。


 その時、ある行動が目に飛び込んできた。ヴォルフのクローンがヴォルフのクローンを殺しているところだった。


 式守の数が減ればクローンたちが有利になる。有利になった頃、クローンは別のクローンを殺す。そうすることでスリエルの魔導力になる。抑止力になっていた式守がいなくなったことによって同士討ちが可能になってしまったのだ。


 クローンがすべていなくなる前にスリエルを倒さなければ。そんな思いで攻撃を仕掛け続けた。


 クローンの同士討ちに気付いた魔女たちが同士討ちを防ごうとするが、同士討ちを防げば魔女たちが攻撃を受ける。同時に、同士討ちをしようとしていたクローンを誤って殺してしまう。


 その間にも剣を振るい続けた。


 スリエルは俺たちの攻撃を避け、防ぎ、迎撃した。時間が経てば経つほどに洗練されていく。


 そしてついに、誰の攻撃も当たらなくなった。こちらの攻撃力よりも、スリエルが展開する障壁の方が強度が勝るようになったのだ。たった数ミリの障壁の強度が、まるで数センチもある金属の壁よりも厚く感じる。


 強大な魔導力があれば、大魔導書の魔導術に対抗することができる。


「ようやく揃ったか」


 スリエルがそう言った。


 次の瞬間、俺たちは息をつく暇もなく吹き飛ばされていた。


 周囲には高く舞い上がる土煙。咳き込む音がいくつも聞こえてくる。


 今の攻撃は嫌な予感しかない。俺たちが吹き飛ばされたということは、この広い部屋全体まで攻撃が行き届いた可能性がある。


 ということは、残りのクローンたちにもその攻撃が届いたはずだ。


 違和感の正体はこれだったのだ。時間が経過すればするほどに自分が有利になることをわかっていた。だから周囲を固められても平然としていられたのだ。最終的には自分のターンが回ってくると知っていたのだ。

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