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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
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三十五話

 右に避け、前進し、また右に避けてバックステップ。上手く避けられたと思ったが最後のバックステップ間際に蹴りを一発もらってしまった。スライムとは思えないほどの攻撃力だ。身構えていなければふっ飛ばされていただろう。


 ここで足を止めるわけにもいかなかった。ディーンは増殖を続けてさらに仕掛けてくる。ヘリオードはスリエルによって身体能力を強化されているおかげかなんとかディーンの攻撃を退けていた。しかしウィロウは俺と同じく、大魔導書の契約者ということを除いてはただの人間だ。スリエルによって強化されたディーンと戦うには少し非力に思える。


 そもそも、十三人に分裂したというのにディーンから感じられる威圧感が一切下がっていないのが問題だ。威圧感というよりも魔力と言った方がいいかもしれない。あんな化け物が十三人に増えただなんて勝ち目なんか本当にあるのだろうか。


「おいヘリオード。お前はなにも知らなかったのか」

「ディーンがタフだっていうのは知ってた。でもその理由がスライム状の体だからだなんて聞いてない」


 攻撃を避けつつ、攻撃をしつつ、味方との距離は常に一定を保ち続ける。


「調べなかったのか」

「こんなことにでもならなきゃディーンが分裂することもなかったはずだ。調べようがない」

「それだけ信頼されてなかったってことだな」


 よくよく考えればスリエルはヘリオードを信用していたわけじゃない。暴走状態のヘリオードを利用して人間を殺していただけだ。


「スライム、か」


 ヘリオードがそう言った


「スライムがなんだ」

「アイツは分裂できてタフなだけの存在じゃないってことだ。スライムには必ず核が存在する。つまりディーンの核を壊せば十三人のディーンは消滅するはずだ」

「じゃあその核を探さなきゃならないんだな。どうやって見つけるかは知らないが」


 そういってため息を吐くフリをして見せた。


「皮肉を言ってる場合か。それに分裂したディーンはそこまで強くない。どうしてかはわからないけどな」


 感じられる魔力は先程のディーンと変わらない。しかし攻撃は単調で、どうにも強烈な一撃というのがない。確かに素早いし一発一発の攻撃は重いのだが、それくらいならばもっと低い魔力でもできることだ。


「囮だ」

「どういうことだ?」

「あの中に核を持った個体はいない。おそらく本物はどこかでこっちの行動を見てるはずだ」

「どうしてそう思う?」

「俺たちの足止めをしたいからだ。そもそもウィロウがやられた相手だぞ。それなのにあまりにも弱すぎる。いくらお前がこっちについたと言っても、ここまで時間をかけて戦う必要はないはずだ」

「じゃあそれを見つけないとな。どこにいるかは、知らないけど」

「皮肉を返すな。だが高みの見物をしてるなら話は早い」

「この場を乗り切ることもできないのにか」

「乗り切る必要はない」


 ヘリオードは困惑の表情で俺を見ていた。


「俺の予想が確かなら、ディーンは上階にはいないはずだ」

「どうして」

「力任せに先に進まれたら本体の位置がバレるからだ」

「力任せに進んでもディーンの戦闘能力なら戦えると思うが?」

「どうして分身しても魔力が変わらないのか考えてみろ。アイツは「常に一定の魔力」を放出し続けている。この魔力は本体のもので、きっとその魔力を分身に上辺だけをコピーしているに過ぎない。しかし十三人も分身を動かしているんだ、本体の魔力は落ちていてもおかしくない」

「確証はないんだろう?」

「確証がないからって動かないのか? それだといつまでも分身と戦い続けることになるぞ」


 分身の数はまったく減っていない。倒しても倒しても、倒した直後に別のやつが二つに分裂するからだ。


「じゃあどうする。この場には三人しかいないんだぞ」

「そんなもの、下に向かうのは一人しかいないだろ。お前は広範囲の攻撃を繰り返して俺を守れ」

「無茶なことを……」

「今更だろ」


 俺は笑いかけ、そのままウィロウに駆け寄った。ヘリオードは納得行かないという顔だが、それでも援護を続けていた。


「下に行け」

「下? 俺に言ってるのか」


 極力ディーンの分身には聞こえないよう小声で続けた。


「ディーンの本体がおそらく階下にいる。分身を作ったことで魔力も落ちてる」

「俺を生かせるのか? 一度負けてるんだぞ?」

「負けてるからだろ。ケリをつけるチャンスだ。そう思わないか?」


 ウィロウは迷っていた。


 一人で行って勝てるだろうか。また負けてしまったら、それこそ戦力がかなり下がってしまう。大魔導書の契約者だというのも後ろ髪を引いているのだろう。


 それでも、このままでいいとは思えない。


「いいのか、ここを任せても」

「心配ない。ヘリオードがなんとかする」

「なんだ他人任せか?」

「今までの借りを返してもらうだけだ。まあ全然返してもらえたとは思わないがな。さっさと行け。そのうちアルフィスたちも来るはずだ。困ったら時間を掛けて戦え」

「わかった。じゃあ、行ってくる」

「死ぬなよ。お前が死ぬと人手が減る」

「お前もな」


 そんなやり取りをしたあとで、ウィロウが階段へと走っていった。それを援護するのも俺たちの役目だがかなり骨が折れる。攻撃が苛烈になり防ぐのでもかなり魔力を消費するのだ。


 ウィロウが階段を降りていくのを確認して部屋の中を見渡した。依然としてディーンは十三人のままだ。というかここからは階下に分身を行かせるわけにもいかないので階段を守る必要も出てくる。


「さて、どうするかな」


 この消耗戦、正直なところ勝ち目はあまりない。守る場所ができた腕に戦力が減った。ただしウィロウがディーンを倒すという明確な勝利条件ができたのは大きいかもしれない。


「さて、死なないように頑張るか」


 できれば秒で終わらせて欲しいものだ。


 そんなことを考えながら、俺はヘリオードと共にディーンの分身を倒し続けるのだった。

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