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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と血濡れの英雄》
134/225

三話

〈ゲームスタート〉




 一斉に襲いかかってくる『模造品』の群れ。


「さっきまで白かったくせに……」


 いつの間にか肌色になって、ほぼ完全な人間と言っても差し支えない。それくらい精巧に造られていた。


 しかし、結局は造り物だということに変わりない。


 小さな頃、まだ両親が健在だった時に同級生だった子どもたち。


「悪いな。お前らのことはよく覚えてないんだ」


 素早く薙ぎ払った。子どもたちは斬られたその瞬間から空気に溶けて霧散した。強度は人間とは比べ物にならないほどに弱い。その代わりに子供とは思えないほど俊敏だった。素早く懐に潜り込むような動作も、無垢な子供の所作としては疑問が残る。つまりこれは俺の記憶の中にいる人物であって、俺が知っている者たちではないということだ。


 見たことがある、話したことがある村人や町民、ヴェルに引き取られてから通った学校の生徒たち。武器屋の中年親父、道具屋の一人娘、貸馬屋の老婆。見たことがある程度の人間も忠実に再現されているらしい。中にはまったく覚えのない人間も含まれていた。


「この程度じゃないんだろ」


 一心不乱に剣を振るう。顔を凝視するな。人だと思うな。コイツらからは血は流れない。流れたとしてもそれは嘘だ。


 アンクレスカの元主人ゲレン、学園で喧嘩をふっかけてきたイベルグとその執事、タルタロッサの元主人アネラ、教師として学園に侵入していたボッシュ。動きは速かったがそれだけのこと。


「本物はここまで弱くなかったぞ」


 ゲレンとイベルグは別としても、真っ向から戦ったことがあるアネラとボッシュはこんなものではなかった。特にボッシュには土をつけられたままだし、いずれはこの手で倒してやりたいと思っている。


 続いて襲いかかってきたのはスルヴァン王国の信仰者たち。一般人もそうだが、ルノレアンファスの元主人の警官、黒幕だった宿屋の主人、クローン研究者のブルック。


「さすがにファーブニルはいないか」


 いたら流石に面倒だった。


 だが、俺はその認識を改めなければならくなった。敵の動きが徐々によくなってきているのだ。安直な斬撃では避けられてしまう。慢心して振った剣が避けられた時は肝を冷やした。


「それならこっちもやり方を変える」


 さきほどよりもより速く、より正確に、相手が避けるであろう方向を予想しながら剣を振り続けた。完璧に回避方向を予測することは不可能なので、わざと逃げやすい方向をこちらが作ってやる。すると相手は面白いように横へと体をスライドさせるのだ。こちらはそれを想定して準備しているのだからあとは簡単な話しだ。


 それでも体力の消費が倍になる。囮の一太刀、本命の一太刀。このまま続けていては体力がなくなってしまう。


 次いで現れたのは列車の乗客たち、バラーシャの住人、聖十字騎士団、ヴォルフ、ウィロウ、カレット、シュリア。乗客たちなんかは今までとかわらなかったし、騎士団の連中も鎧がハリボテみたいに柔らかかった。ヴォルフも見た目通り弱かった。問題なのはウィロウと魔法少女二人だった。


 俺が剣を振ればウィロウはバックステップで距離を離し、追撃しようとすると魔法少女二人がそれを阻害する。ただ阻害するだけではなく、カレットは鎚を、シュリアが鎌を持って襲いかかってくるのだ。キチンと連携がとれており、俺が逃げる隙を見逃さずに刃を向けてくる。


「お前らはこんなもんじゃないよな」


 ここでやられたなんて知れたらウィロウは怒るだろう。まがい物に負けるなど、なんて言われるかもしれない。あの男のことをよく知るわけではないが、なんだかそんな気がするのだ。


 精神世界でも魔導力は健在だ。しかし魔導書がない今、俺は自分自身が使える魔導術を使って切り抜けなければいけない。俺が使える魔導術など多くはなく、基本的には魔導書、魔法少女に頼ってきた。


 ヴェルに言われたことがある。


『苦手なことを克服するのも大事だが、長所を伸ばすのはもっと大事だ』


 その言葉が、今はありがたくて仕方がない。


「ありがとうよ、師匠」


 地面を踏み込み一気に加速した。


 右から左へ、最小限の腕の振りでカレットの胴体を分断。その勢いを殺すことなく、身を翻して左から右へ、回転しながらシュリアの肩口から腹へと剣を振り抜く。気がつけばウィロウが剣を大きく振り上げていたが、この男はそんな戦い方はしないだろう。


 勢いを一切殺すことなく、体を回転させた反動で懐に飛び込む。下から上へと剣を振り上げれば、ウィロウの偽物は真っ二つになった。


 遠距離を攻撃する魔導術は得意ではない。せいぜい気を逸したり、あわよくばクリーンヒットしないかと思いながら使う程度の威力しかない。俺がやってきたのは接近戦にて真価を発揮する身体能力の強化、風の抵抗を極限まで抑える魔導術、それらを完全な無詠唱でなおかつ反応で発動できるようにと訓練してきた。俺にとってこれらの魔導術を使うことは「反射」と同じである。そうすることでしか自分を強くできなかった。


「いや違うな」


 そうあるべきだと信じたのだ。そして、俺にはその才能があった。いつかヘリオードを倒すのなら、これは避けて通れない道だからと自分を貫いてきたのだ。


 今度はスリエルとその魔導書シュクレリーナ、スリエルの従者である女性一人と男性二人。手加減をしている余裕なんてない。ほぼ全力でコイツらを切り伏せる。


 偽物は皆結局偽物でしかない。魔導術は使わず動きも単調だ。速度は上がって力も強くなっている。だがその程度でしかない。


 長引かせるなんてことはしてやらない。一瞬で従者を叩き切り、すれ違いざまにシュクレリーナとスリエルを分断した。


 そして、見知った顔だけがその場に残った。


「次は誰だよ」


 ジジイとナディア、それにシスターズが立っていた。それでもコイツらは偽物だ。こんな無表情でいるところを見たことはない。口を一文字に結い作業的に襲いかかってくる。


「ありがたい」


 人形であるとわかっているなら遠慮する必要がないからだ。こちらも速度を上げ、十二人のシスターズとジジイとナディアを塵に帰す。


 迷うな、迷うな。前に進むんだ。奥の方で微笑んでるシャルフレギューラに剣を突き立てるまでは止まってはいけないのだ。


「次は東西南北、四人の魔女かよ」


 今回はまた偽物の能力が別物になっていた。


 遠距離からの簡単な魔導術を使いながら近距離戦も仕掛けてくるようになった。魔導力は弱く、けれど当たったら間違いなく吹き飛ばされる程度の威力。魔女にしては弱いが当たるわけにはいかなかった。


「その程度じゃ魔女には及ばねえよなあ!」


 飛んでくる火の玉をぶった切る。精神世界だというのに熱いと感じた。

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