十六話
「しかしまあ、よくあそこに駒があると気付いたね」
負けてもなお、レインは笑っていた。魔法少女は負けても死ぬことはない。それが少しばかり憎かった。
「お前、さっき左手動かしたよな」
「ああ、動かしたねえ」
「その動きが小さかったからな。横にスライドさせただけだと思った。縦に動かしたような動きじゃなかったから、そうなれば横に動かすしかないからな。それにルール説明に穴があった」
「穴?」
「お前「一つの駒が一回に動けるのは一度だけだよ」って言ったろ? 最初は「一つの駒が三回動けたらそれだけでゲームが決まるから」だと思ってた。でもそうじゃない。いや、そうじゃないんだってのはやっててわかった」
「なるほど、あなたは一つの駒を二回動かしたんだね」
「ああ、ただし一回目を右手で、二回目を左手で動かした。そしたら動けたんだ。おそらく一回ってのは右手でって意味なんだろ? それを説明されなかった。左手で駒を横にスライドさせたなら、それ以上動くためには右手を使う必要がある。お前はそれをしなかった」
「だからB4に駒があると思ったわけだ」
「試練試験とお前は言った。つまりこれは「お前が勝つためのゲーム」じゃない。俺が「及第点を取れるか」のゲームだ。だからお前は嘘は言ってない。左手も使ったし、という言葉も本当なんだろう」
「それに従った、と。実直だねえ」
「でも勝った。それでいいだろ?」
「ああ、いい。素晴らしいよ。今日からあなたが、私の主人だよお」
レインは両手を胸の前に上げ、大きく手を叩いた。
パン、という音がして、ウィロウの視界は真っ黒に染まる。これで試練は終わった。だが現実世界での悩みは何一つとして解消されていない。魔女スリエル、ヴォルフ、大魔導書レイン、英雄ディーン。
少しくらい考えさせてくれ。
そんなウィロウの思考とは裏腹に、意識は現実へと戻っていくのだった。