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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と人喰い勇者》
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十三話

「結局時間のムダだったわね。こんなことに時間を使うなんて、私のマスターは無能だわ」

「お前はどうして一言多いんだよ」

「どうしてって言われても事実でしょう? 私は事実しか語らないわ」

「事実だからいいってわけじゃないだろう。そこを一歩踏みとどまって口を噤むのも思いやりってやつだ」

「この私が他人を思いやれると思って?」

「諭そうとした俺が悪かったよ。もう言わない」

「それでいいのよ」


 なぜコイツはこうも勝ち誇っているのか。非常に腹立たしい。


 しかし、証拠が見つからず「無駄」だと言うメーメの気持ちもわからなくない。わからなくもないのだが、そういう無駄だと思われる時間が無駄じゃなくなることもある。現にこうしてヘリオードが跳躍していないという状況証拠になったのだから。


 所詮状況証拠でしかない、とは口には出さないが。


 日も傾き始め、俺たちは仕方なく帰途についた。これ以上探して妙な噂が出回ったらたまったもんじゃない。できれば波風立てずにことを進めたいが、ヘリオードが関わっている以上それは不可能だ。それでも極力ひと目は避けたい。


 宿に着き食事をとった。エリート校の生徒という肩書きというせいか、食事はそこそこに豪華だった。パンにサラダにシチューにローストビーフ。このご時世、普通の食事でここまでは出てこない。


 部屋に戻ると、メーメは一目散にベッドに飛び込んだ。


「おい、行儀が悪いぞ。食ってからすぐに横になるな」

「おバカね、右半身を下にして横になると消化がよくなると言われてるのよ?」

「お前めちゃくちゃうつ伏せじゃねーか」

「ま、そういう時もあるわ」

「そういう時しかないから困ってる」


 ベッドが一つしかないのでメーメに占領されるとそれ以外の人間が行き場を失う。


 俺がため息をつき、ルルがオドオドとしながらメーメを諭していたのが今まで。しかし先日からアンという魔導書が加わったことで、俺が持つ魔導書たちの均衡が崩れつつある。


「どきなさいメームルファーズ! ベッドはアンタだけの物じゃないわ!」


 アンはメーメの身体をどかしながら、ドカっとベッドに座った。


「うるさいわね。別にいいじゃない、誰が迷惑するわけでもないし」

「してるわよ! みんなしてるの! アンタの自己中行動でみんな迷惑してる! 少しは慎ましさを知った方がいいわ!」

「慎ましさなら最初から兼ね備えてるわ。そう、ホムンクルスとして生まれた時からね」

「慎ましいのは口調だけでしょ? 口だけなら育ちが良さそうに聞こえるけど、言ってることとやってることは子供のそれと変わらないわ」

「そう? 私は別に子供でもいいわ。どうせ見た目はロリのまんまなんだし」

「ちょっと! さっきは慎ましいとかなんとか言ってたじゃないのよ!」


 正直うるさい。が、メーメに物申せる者が増えたという点に関してはいい部分だ。むしろルルがなにも言わずにうろたえているのが問題といえばそれまでだが。


「とりあえず飯でも食うか。宿の下にいけば作ってもらえるんだろうか」

「それならナディアさんが言ってましたよ。「宿の主人には話を通してあるから、食事も四人分出してくれるわ」って」

「そうかそうか、ルルは偉いな。ちゃんと人の言うこと聞いてて、主人の俺も鼻が高いぞ」


 そっと手を当てて、ゆっくりと丁寧に撫でてやる。


「くすぐったいですよ……」


 とか言いながらも嬉しそうにしていた。赤面しながらうつむき、もじもじと身をよじらせている。やはりルルは可愛い。メーメに対して文句を言えないところもルルの良さだし、俺の傍にいてくれるだけでも癒やされる。敵が現れればちゃんと戦ってくれるし、臆病なところもあるがさすが魔導書と言ったところかかなり強い。それに実は料理も上手い。膝枕してくれと言えば「ええどうぞ」と言って正座をして待っていることもあった。


「おいロリコン。いつまで幼女の頭撫でてんのよ、食事に行くならさっさと行くわよ」

「失礼だなお前は。ルルの髪の毛はボリュームがあって、でも髪の毛自体が細いから手触りがいいんだぞ」

「割りとどうでもいい。それにルルインカーシュを見る目がちょっとヤバイから離れてもらえる? メームルファーズも起きなさい」

「貴女に言われるのは癪だけど、お腹は減ったから私も行くわ」

「ホントお前ってワガママだな。森に放った方がいいレベルだわ、人が扱える代物じゃない」

「高貴な私を扱える人間なんていないわよ」


 なに言っても無駄だなこりゃ。まあ知ってたけど。


 幼女三人を連れて一階に降りると、もうすでに夕食が用意されていた。だけでなく、なぜかナディアがテーブルについている。髪の毛はおろしており、服装はラフでセーターにストールに緩めのスカートだ。


 他に客はいないし五つ分の食事が並んでるところを見ると、おそらくあれが俺たちの分だろう。そのテーブルに座っているのだから、間違いなく俺たちを待っているのだ。


 彼女と目があった。お互いに会釈をしてからイスに座った。


 テーブルの上にはサラダとパンとスープ、それに小さめのステーキだ。


「なぜアンタがここに? つか職員が生徒と飯食うとか大丈夫なのかよ、いろいろ噂になんぞ」

「問題ない。さあ食事をしよう」


 たぶんなにを言っても無駄なんだろうな。長い時間一緒にいたわけじゃないが、人の話をあまり聞かないというのはよくわかった。話を聞かないのとは少し違うか。単に他人の意見に同調できないだけのような気がする。


 ナイフとフォークが皿に当たる音だけが響く。静かとは言い難いのだが、カチャカチャという音だけがするのは非常に物悲しい。


「なんでここに来たのか、質問に答えてもらってないんだが」


 一度手を止めてナディアを見る。


「食事も黙ってできないのですか?」

「アンタがなにも離さないからだろ……」

「食べ終わったらお前の部屋に行く。だから今は食事を済ませろ」


 それっきり、彼女は口を開かなかった。


 ため息を一つ吐いてから、俺も食事を再開した。が、正直味なんてよくわからなかった。ナディアがいるだけでこんな風になるなんてな。兵器なのはメーメくらいなもので、ルルはフォークの使い方がぎこちなく、アンは不機嫌そうに咀嚼する。早く終わってくれと願うばかりだった。


 食事が終わり部屋に戻った。食べ終わったことで一度は安堵したが、女四人、男一人という状態はまた別の意味で緊張するな。いや、幼女三人だけとかヴェルとかならいいんだけど。

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