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魔導書はかく語りき  作者: 絢野悠
《魔法少女と狂った聖母》
114/225

最終話〈ビューポイント:レイジ〉

「結局言わなかったんですか?」


 イツカがイスに座ったままで言った。


「言う必要がないので」

 応えたのはレイジだった。出された茶を飲み、ふうと息を吐く。

「もしかして一生伝えないつもりでいるんですか? イズミは嬉しがると思いますけどね」

「アイツはイズミ=クインクだと言いました。それなら、俺が口を出すことはないでしょう」

「でも、ねえ……」


 イツカが大きくため息をついた。頬に手を当て、眉間にはシワを寄せ。どうやって子供を叱ろうかと迷っている母親のようだった。


「貴方の気持ちはどうなるの? イズミだけじゃない、貴方の本心が重要なのよ?」

「俺は、いいんですよ。イズミは元気でやってるし、青の魔導書も手に入れた。これから困難もあるだろうけど、きっとアイツならなんとかできると思いますよ」

「違うでしょ。なんとかできるようにお膳立てするんでしょ?」

「まあ、そりゃ、そうですけど」


 と、レイジが口ごもった。


「これは魔女としての命令です。必ず、生きているうちに言いなさい。二人だけで、目を見て、真剣に話をするんです。いいですか?」

「いや、でも――」

「でももかしこもないんです。いいですか、これは大事なことなんですよ。貴方だってたくさん苦労してきたでしょう。イズミだって苦労したかもしれないけど、貴方も十分すぎるほどの経験をしてきたんです。もう、いいんじゃないですか?」


 説得されればされるほどに気恥ずかしくなる。


 イズミと話をしたくないわけじゃない。むしろたくさん話しをして、お節介を焼きたいとさえ思っている。しかしイズミの方が自分を怖がっているのではないかと考えてしまうのだ。嫌がられたらどうしよう、拒否されたらどうやって気持ちに整理をつければいいのか。


「大丈夫です。私が保証しますよ。全部、ちゃんと説明すればいいんです。あの時自分も生き残って引き取られたんだって。今まで黙っててごめんねって」

「許して、くれますかね」

「優しいあの子のことですからね、許してくれますよ。貴方のことを覚えているかどうかまではわかりませんけどね」

「覚えて、ないでしょうね」

「でも言う時はちゃんと、ビシッとしていなくちゃダメですよ?」

「ええ、そのつもりですよ」


 レイジは柔らかく微笑んだ。


「レイジ=クインク。兄としてね」


 つられるようにしてイツカも笑った。


「いい式守を持ったわ」


 と言いながらお茶を飲む。さながら、子供の成長を見届ける親のような心境であったに違いない。


 レイジは席を立ち「それじゃあ」と一礼した。顔は清々しく、なにかを吹っ切ったようだった。いつしかちゃんと告げ、ちゃんとした兄妹になれるように。そう、願っている。


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