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3 絶対結界らしい?

 いやー、死ぬかと思いましたわ、あの時は。


 ほう、では死ななかったんですか? 魔王ビームをくらって。


 ええ、何故だか生きていましたわ。


 ほう、何が起こったか、お聞きしてもよろしいですか?


 ええ、トールの言うには……


 あっ、トールというのは魔法使いのコスプレをした三十過ぎと思われる、彫りの深いいかついおっさんなのですが、実は大陸一の召喚術師らしく……


 という脳内ひとりインタビューはさておき、魔王ビームが直撃すると思われたその瞬間、私たちのまわりには絶対結界とやらが張られて、魔王ビームは霧散したらしい。


 さすがは私の王太子様。


 いや、弟くんですね。


 いやはや、私の瞳はウルウルですよ。


 なにやら、絶対に破ることができない防御らしいのですよ。


 ふふっ、ハイスペックな容姿と優しさに加え、そんなすごいものまで使えるとは。


 能あるタカは爪を隠すと言いますけど、お姉ちゃんはわかっていたからね。


 できる子だって。


 王太子様に助けられて私のハートはワシ掴みにされたみたいですわ。


 ううん、タカ掴みかしら。


 ぐーーーうーーーぅぅぅ……ってほら、私の胸もこーんなに大きな音を出して。


「ありがとうございました、テディ王太子殿下。それにしても、こんなにすごい結界を張れるとはさすがですね」


「いやいや、ちょっと待て、勇者。この結界は国家一級魔術師が百人がかりで張るレベルのものだ。いかに殿下が優れた魔術師であっても一人では無理だ」


 ああ、なんだか、お腹が減ってきたな。


 目が回ってクラクラしてきた。


 お昼ご飯まだかなー。


「ちょっとー! そいつよ! そいつ! そのハムスターよ! あっ、まずいわよ! 何かエサやって! 昨日、ヒマワリの種食ってたでしょ! 王太子様、急いで!」


 ああ、お腹が減って減って死にそう、と思ってると、王太子様がヒマワリの種をくれた。


 やっほー、さすがは王太子様わかってらっしゃる、と思いながら私はヒマワリの種をガッついた。


 いやー、ハムスターって本当にヒマワリの種が大好物なんだよね。


 おいしいわー。


 空腹は最高の調味料っていうのかな。


 昨日食べたヒマワリの種より五割増しでおいしい。


 そんなことを思いながら、私は王太子様の手のひらの上で、ガツガツとヒマワリの種を食べていた。


 だけど、まったくお腹はふくらまず、食べても食べてもお腹が減る一方だ。


「こいつよ、こいつ。こいつが絶対結界を張ってんのよ。まちがいないわ」


「そんなバカな! こんなちびっこいハムスターにそんなことができるわけがないだろ!」


「いや、待て、勇者。たしかにこいつの召喚にはドラゴンクラスの魔石を使ってある。可能性はある」


「ちょっとステータスを調べてみるわ。えーっと……ちっ! 見えないわ! ありえない!」


「なにっ!? じゃあ、俺が見てみよう。うー……んっと、決戦用ハムスターLV1 ……ここまでか。これ以上は見えんな」


「決戦用って何だよ? ハムスターに決戦用も何もあるのかよ?」


「そんなことより、エサはたっぷりあるの? 王太子様、あとどのくらいありますか?」


「えーっと、あとこの袋ふたつ分だけど」


「ということは、このペースだとあと十五分ってとこかしら?」


「そうだな、どうするか決めんといかんな。どうする勇者、まだ戦えるか?」


「戦えると言いたいところだが、いったん出直した方がいいだろうな。それより十五分って何だ?」


「これだけの結界をこいつ一匹で張ってんのよ。何か食べてないと恐らく魔力切れを起こすわよ。召喚獣も精霊ももうボロボロだし、こいつの結界が消えたら、魔王の魔導砲が直撃して全員おだぶつよ」


 ああ、魔導砲っていうんですね、このビームみたいなの。


 などと思いつつも、ヒマワリの種を食べる口がとまらない。


 冬眠前のリスもこんな気持ちなんだろうか?


 ハムスターはたしか冬眠しなかったはずだから、リスの気持ちなんてわかるはずがない。


 だけど、きっと食べなきゃ死ぬのよ、という強迫観念に苛まれてガツガツ食ってたんだろう。


 ごめんね、リスさん。


 口をいっぱいにふくらませてまで、食べ物を押し込んでる君たちをかわいいとか思って。


 必死だったんだね。


 食べなきゃ死ぬーって気持ちだったんだね。


 なーんて思いながらも、食べても食べてもお腹がふくらまないって地獄よね、と私はため息をつこうとした。


 だけど、口の中がいっぱいでため息もつけやしなかった。


「よし、それじゃあ、こいつの結界が効いているうちに逃げるとしようか。次に来るときはエサをいっぱい持ってくれば、防御は完璧だ。三人で攻撃すれば魔王もなんとか倒せるかもしれんしな」


 トールが渋みのある声で撤退の宣言をする。


 その時だった。


「ケーケッケッケー、まさか魔王様を狙うとはネ! そんな#畏__おそ__#れ多いことをして、生きて帰れるとでも思っているのかネ!」


「なっ! まさかお前たちは、魔族四天王か!?」


「クークックックー、勇者様御一行ヨ! ゆっくりここで死んでいくといいヨ!」


 なんですとー! 


 耳をピーンと立てながら、私の瞳はカラフルな色分けをした魔族コスプレの四天王たちに釘付けだ。


 赤、青、黄、緑って。


 魔族としてその色分けはどうかと思うんですけど……。


 でも、いったいどれが?


 どれもこれも強そうだけど。


 でも、いったいどいつが――。


 どいつが四天王最弱なのかしら?


 などという訳のわからん考えが、私の頭の中でぐるぐると回る。


 ふー、いかんいかん、ハムスターの頭はお気楽すぎだわ。


 思わず、ため息をついた私は、ふと、ヒマワリの種がもうなくなっていることに気がついた。


 うん? 


 ため息がつけるということは、口の中もからっぽ?


 というわけで、私は手のひらのヒマワリの種がなくなったことを教えるために、王太子様の指を甘ガミした。


 ふふっ、これで王太子様にツバ付けたことになるわね。


 ニヤリとこぼれた笑みを浮かべたまま、私は王太子様を見上げて、かるーくウインクした。

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