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1 どうやら、異世界らしい?

 テレビドラマそのまんまの取調室だった。


 無機質な壁に事務机と卓上ライト。


 向かいに座る白いトーガを身にまとった女性が翼を広げた。


「お前は死んだ」


 頭の上の輪っかがまぶし過ぎて、顔がよく見えなかった。


「嘆願書が出てるな」


 状況についていけず、とりあえずうなずいた。


「ハムスターのハムちゃんだ」


 さっきまで会社で残業してたのに……。


「とてもかわいがってくれました、だそうだ」


 そういえば、小学生の頃に飼ってたな、ハムちゃん。


「よかったな。では二択だ」


 女が卓上ライトで私を照らした。


「強いのと弱いの、どちらがいい!?」


 眩しさのあまり、私は手で光を遮った。


「急げ! 時間が無限にあると思うな!」


 あまりの女の迫力に、私はガクガクと体を震わせながら、強いほうを選んだ。


「次! かっこいいのとかわいいのはどちらがいい!?」


 今度は急かされる前にかわいいのを選んだ。


「最後だ! 通常用と決戦用、どちらがいい!?」


 えっ? 


 ……それって、どういう意味?


「答えろ!」


 卓上ライトがジリジリと私を焼いて、机が割れるかと思うほど激しく叩かれた。


 私ははじかれたように叫んだ。


「決戦用で!」


 女は手にした大きなハンコを書類に叩きつけた。


「では、行ってこい!」


 次の瞬間、世界が反転して、私は意識を手放した。








「おい、おい、どういうことだ、ハムスターが出たぞ」


 大きな声に驚いて目を覚ますと、魔法使いのコスプレをしたおっさんが、こちらを睨みつけていた。


 えーっと、これはひょっとして東京で行われているというコスプレ会場に紛れ込んだのかな?


「ハムスターって何に使うんだよ、おもしろいな、はっはっはっ!」


 勇者のコスプレをしたイケメンがこっちを見て笑った。


 あー、まちがいなさそうだね。


 コスプレだね。


「ちょっとー、トール! あれだけ魔石注ぎこんで召喚したのがハムスターって! あんた、死んで詫びなさいよ! さもなきゃ、貸した魔石今すぐ返しなさいよ!」


 白いローブを羽織った目つきの悪い女の子が、おっさんに石を投げた。


 どことなく、夢で見たハンコ女に似ている。なんとなくだけど。


 この子が私をコスプレ会場に連れてきたのかな?


「まあまあ、トールだってたまにはミスをすることもあるよ。それに、そのハムスターかわいいよね。なんか、こう、癒やされるよね」


 あっ! と思うと同時に、私の耳がピクンと立ち上がった。


 かわいい!


 銀色のさらっとした巻き毛に大きな空色の瞳。


 気品とやさしさをまとった、絵にかいたような王子様がそこにいた。


 まちがいない!


 およそ三次元には存在しえない、私の二次元的理想の弟さんですね!


 ひゃー、少年執事のようなコスプレも違和感ないわ!


 高鳴る胸の鼓動に居ても立ってもいられず、私は一目散に男の子に向かって走った。


 チョコチョコと足を動かし、ひたすら男の子の元へと。


 走っているはずだった。


 しかし、私の体は宙に浮き、短い手足は空をかいていた。


 首の後ろがびにょーんと伸びている気がする。


「どうするかな、これ。契約しようにもこんな弱そうな奴、契約枠の無駄遣いだしな」


 巨人だ! 


 巨人が私の首の後ろを掴んで……って思って見上げると、さっきのコスプレ魔法使い男と目があった。


 なっ! 


 この魔法使い男、でかいんですけど!


 ちょっ! 


 なに!? 


 ひょっとして、ここってコスプレ会場じゃなくって巨人の世界なのー!?


 た……食べられる……? 


 ふるふると震えて頭を抱えている私の元に、男の子が走ってきた。


 両手ですくうように、私を手のひらに乗せてくれた男の子の、高く可愛らしい声が響く。


「わー、ほんとうにちっちゃくてかわいいねー。ねえ、トール。いらないんだったら、この子、僕にくれない?」


 男の子は私の頭をやさしく撫でてくれる。


 おー、気持ちいいですよ、私の理想の弟くんよ。


 うんうん、もっと撫でてー、と私は頭を男の子の手にこすりつけた。


「それはかまいませんが、こんなちっこいのでも召喚獣ですからね。ちゃんと契約しないとこっちの世界に留まれないって……ありゃ? なんだこいつ、契約のわっかを背負ってないな。うーん、こいつ召喚獣じゃないのか?」


「それって、その辺にいた本当のハムスターなんじゃないの? 要するに、あんた召喚に失敗したのよ。ふふっ、大陸一の召喚術師が聞いてあきれるわね」


「なんだとっ! 聞き捨てならんな、シーラ! この私が失敗などするものか!」


「ふふっ、じゃあ、そのハムスターを召喚したっていうことでいいわよ。ドラゴンすら召喚できるほどの魔石をつぎ込んで、ハムスターを召喚したってことでね。ふふっ、あんた歴史に名前を残せるわよ」


 頭上でなにやら緊迫した空気が漂う中、私は男の子の温かな手にくるまれて、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。


「まあまあ、トールもシーラも落ちつけよ。明日はついに魔王との最終決戦なんだからさ、仲良くいこうぜ。ねえ、テディ王太子殿下」


 うん?


 コスプレ勇者よ、今、妙なこと言わなかった?


 テディ王太子殿下って、この男の子だよね。


 うんうん、私の理想の弟くんは王太子様なんだね。


 うんうん、それはいいね。


 さすがは私の弟くん。


 未来の王様なんだ。


 よしっ、私の目に狂いはなかった。


 一生ついていきますよ、殿下。


 それは良しとして、魔王との最終決戦。


 これは聞き捨てならないね。


 魔王なんてのがいるということは、これはどう考えても、異世界だね。


 ということは……うーん……これは、あれだね。


 死んで転生。


 転生先は異世界で、この方々は勇者様御一行。


 二十九年の人生が終わって、転生後、二日目に魔王と戦うってこと?


 ハムスターとして? 


 それって、あれだよね。


 詰んだ――ってやつだよね、もしかしなくても。

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