テキスト
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それはある寒い夜のこと、ポレクラス地方チェチクラス村のことである。
青年ドウエの見合い相手エシイの家から帰り道。
<ああ、花嫁の十二月。寒風に震える乙女の餅の頬の愛らしいこと>
フラフラと歩いている。
目の前の林がざわざわと動く。
これは何かとドウエが目を凝らす。
<そう、俺はこれから狩人になるんだ!わあるい者を追い払うんだ!寒さになんか負けないぞ!>
林からヌッ!と羆の頭が現れた。その距離わずか2メートル。
これはまずい。ドウエは背を向け一目散に駆けた。羆はドウエより速い。追いつくや否や一殴り。
<ああ?そうか、ここからまた始まるんだな⁉︎私はフクロウ、大きなフクロウ……これしきが人生か>
ドウエは撲殺されてしまった。羆はドウエの死体を引きずり林の闇へと消えていった。
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翌日、ドウエが帰らぬことを心配した村人は捜し回った。
<酒瓶担いだ賢女房、手から逃れる白面男か。千切れた小指が見つからない。きっと誰が食べたんだ。美味しく食べてくれたかな?>
そして村を下ったところにある川辺だ。食い散らかされたドウエの遺体を見つけた。
村人は怪訝な顔をした。この手口は恐らく羆だろうが、羆は今冬眠しているはずである。
<さくらんぼまだ実を出さない。出すまで待つがいいさ。出したらちゃんと集めておくれ。必要だから>
そこで村のハンター集が羆を狩ることになった。
<枯れ葉を土に鹿肉と一緒に隠す。それが奪われていたら合図だ。いの一番に私に知らせておくれ。お告げなんだよ、それは>
ハンター達は洋々と森に入っていった。
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その日の夕方。ドウエの遺体はドウエの実家に持ち込まれた。
<花嫁は笑うかなぁ?泣くかなぁ?きっと舌舐めずりするよ。だって子供だもん。だから夢みたいにふぁ〜て飛べるんだよ>
葬式が行われた。葬式はドウエの親族とエシイの者と村人でたくさんだった。
外で何かのうめき声がした。
<海豚が群れで殺しにくる。鉈を担いでやって来る>
村人のポルトが外に出てみるとそこには羆がいた。
ポルトは家に飛び込もうとした。
羆はポルトの尻に噛みつき引きちぎった。倒れたポルトは羆に頭を圧し潰された。
<ああ、木柱のご挨拶!明日はお世話になります。猪が風に乗って飛んでいく>
羆は家に上がった。村人は逃げる。
一歳と三歳の子を抱えた女ツェミラは台所の裏口へと向かう。羆はツェミラを追い背中を引き裂いた。ツェミラは倒れた。
<稲を刈りてお社を作ろう>
羆はツェミラと一歳と三歳の子らを噛みまくった。
ツェミラの夫ペトルトが角材を持ってきた。三人はズタズタに引き裂かれて死んでいた。ペトルトはその場に座り込んでしまった。
羆は三人の死体とじゃれていた。そして、棺を壊してドウエの死体を咥えた。森に帰っていった。
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ハンター達は山の中を探したが羆を見つけられなかった。日も落ちて冷えてきたのでたき火で暖をとっていた。
<生娘が踊ってくれるだけでいい。祭りをしてくれるだけでいい>
ハンター達は羆は火に寄ってこないと思って銃を置いていた。
ハンターの一人のレナゼフィが便意を催し仲間の元から離れた。
ハンターのカナチ、ウルウ、パーピョの三人は羆はいったいどこにいると話した。林の奥から物音がした。
<おお、米を炙って海に投げてくれ。あの日に見た山の面影を振り切るかのように>
火で人間を知らせているから羆ではないとパーピョが振り返った。
羆がいた。
羆はパーピョの顔面を鋭い爪で切り裂いた。パーピョの顔はめり込んでいた。
カナチとウルウは混乱して銃を取り損なった。
羆はカナチにのしかかり脇腹に噛み付いた。カナチははらわたを引きずり出されて死んだ。
<山の意思は何を語った?答えておくれ、生娘よ。それじゃあ、何のために新郎を捧げたのかわからないじゃあないか!>
羆はウルウに近づいた。ウルウは動くことができなかった。羆はウルウの太腿に噛みつき食べ始めた。
レナゼフィが用を終えて戻ろうとするとたき火の方から痛えよぉ、痛えよぉ、助けてくれよぉ、と泣くパーピョの声がした。
<花嫁の頬に焼き石を擦り付ける。どうだ!空がとっても青いのはお前の頬が硬いからなんだぞ!>
レナゼフィが目を凝らす。たき火の近くに熊がいた。羆がパーピョを食っている、あの羆は人の味を覚えていたのか!とレナゼフィが思った。
レナゼフィは羆に気づかれぬように村へと走って戻った。
<ああ、可哀想に……。でも、仕様がない。これが祭り。この海で暮らすためのお祈りなのだから>
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レナゼフィは村に戻るとよその村に応援を頼んだ。チェチクラス村はハンターが二十人と鍬や鉈を持った村人になった。
<花嫁をお社に括り付けろ!しっかりとつけておかないと波に流されちまってあの地まで行けないからな!>
羆が人の味を覚えているならまたこの町に来るはずだと言って、村の周りに柵を作りそこに鈴をつけた。
ハンター達と村人は眠れぬ夜を過ごした。
<あそこにフクロウがいるぞ!この祭りはきっと上手くいく!見ていてくれ新郎!きっと、きっと上手くいく!>
チャリ、チャリン。鈴が鳴った!
ハンター達と村人は鈴の鳴る方へ行った。そこには羆がいた。
<さあ、花嫁や!海に行っておくれ!山の意思はそれを望んでいるぞ!さくらんぼが実っていたじゃないか!さあ、さあ!>
ハンター達は銃を構え撃った。村人は持っていた物を投げつけた。
<おお!海豚だ!鉈を持った海豚だ!早く!早く!早く海へ!でないと私達はここに住めなくなるぅ〜!>
その時間は二分ほど続いた。羆は倒れた。
ハンター達と村人は羆に近づき銃を撃ったり、鍬や鉈で切りつけたりした。
<おお!入って行く!入って行くぞぉ!ああ、美しい、なんと美しいんだ……>
羆は死んだ。
<ぶええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……>
この羆は体長二メートル、体重二百四十キログラムの羆であった。
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なぜこの羆が人を襲うようになったのか。それは森林の開墾による人間と羆の生活圏の重合が一つ。
そしてもう一つは、この地に遊遠に来ていたポレクラス地方の一領主コルチェチェが羆を見つけ、おもしろがって餌付けをしたからではないか、である。
真相は定かではない。
<はい、この世の物の本当はすべて虚ろなのです>




