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−夢の追憶− 第1話

 ぼんやりとした意識の中で、私は徐々に周囲の景色を垣間見ることができる判断力を取り戻しつつあった。そしてあたりを見回すと、これまでとまったく違う景色が広がっているではないか。

そこは、人々が忙しく往来おうらいする街中で、活気がみなぎっている。だが、見慣れた高層ビルもマンションも見かけない。その代わりと言っては変であるが、現在ではすっかり見られなくなって久しい路面電車が、ゆっくりと走っている。なんとなく、不思議な懐かしさを感じさせる場所であった。

 しばらく街中を眺めていた私は、違和感を覚えた。視点がいつもと違うのだ。それはまるで鳥にでもなったかのように、上から見下ろしているのである。

 ふと、一人の青年に目が止まった。その青年はキョロキョロと街中を見回すと、ある一方に向かって走り出そうとした。そのすぐ前を路面電車が横切ろうとしている。私は電車と衝突するのではと、思わず声をあげた。

「危ない!」

そして、目をつむった。

 しばらくして、どうなっただろうと再び目を開けると、どうしたことか先ほどまで見下ろしていたはずの光景はそこにはなく、路面電車が目の前で停車していた。

 衝突しそうになったのは青年のはずだが、周りの人々も、まるで私が事故に遭いそうになったと言わんばかりの表情で遠巻きに、こちらをのぞき込んでいる。

 私はこの状況を必死に理解しようと努めた。

《どういうことだ?》

その時、頭上から怒鳴どなり声が響いてきた。

「何やってるんだ! 死にたいのか!」

それは、電車の運転手からのものだった。

「すみませんでした。」

私は、反射的にその言葉を口に出していた。そして、急いでその場を小走りに立ち去ろうとした。走りながら、あの青年はどうなっただろうとあたりを見やったが、姿は見えなかった。

 私は、とりあえず青年が向かおうとしていた方角に足を進めた。走っていると、途中に『カフェー』と書かれている看板が目に入った。

 走ったせいか喉にかわきをおぼえた私は、飲物をとろうとその店に入る事にした。近づくにつれ、建物が予想したより大きく立派であることに気づいたが、さほど気に留めることもなく店内へと入っていった。

 建物の中は薄暗く、私のよく行く喫茶店とはイメージが大夫違う。どちらかというとバーやスナックの雰囲気をかもし出していた。

 そこに、一人の女性が近づいてきた。

「いらっしゃいませ」

女性は、にっこりと微笑ほほえみながら挨拶をすると

「今日は何にしますか?」

と、注文を聞いてきた。

 私はとりあえず、すぐに飲める物と思い

「オレンジジュースを下さい」

と答えた。

 すると、店の奥の方から野太い笑い声がしたかと思うと、

「坊や、ジュースが飲みたきゃ『ミルクホール』に行きな」

という声が返ってきた。よくよく見ると赤ら顔をした男性がそこには座っていた。そして、その男性は更にこう付け加えた。

「兄ちゃん、〈さよ〉の気を引こうと思って冗談まで言うようになったのか」

どうやら、〈さよ〉というのは注文を聞きに来た目の前に立っている女性らしいことは、すぐにわかった。しかし、気を引こうとしたと言われたことと、坊や扱いされたことが心外だった私は反論した。

「違います。喉がかわいていたのですぐに飲めるものをお願いしたのです。それに、喫茶店で飲物を注文するのは当たり前じゃあないですか」

 すると男性客は

「ああ、飲物を注文するのは当たり前だな。だが、此処ここは『カフェー』だぜ、頼むなら酒だろうが」

そう言って、また野太い声で笑った。

 私には、彼の言っている意味が理解できなかった。

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