−少女− 第3話
すると、少女は安心したのか、夕暮れ時に見せたにっこりとした表情を浮かべた。そして、ゆっくりと喋り出したのだった。
「ああ、逢えた……やっと 話すことできた……」
そう言った声は、夕暮れ時に言葉を交わしていないのにも関わらず、何処かで聞き覚えのある声のようだった。
私も静かに口を開いた。
「夕暮れに川辺で逢ったよね。僕も君にもう一度、逢いたいと思っていたんだよ。どうして、さっきは話しをせずにいなくなったのかな」
そう言ったすぐ後に、ある矛盾に気が付いた。
《先ほど逢ったのは夕暮れだったのに、どうして今は昼間なんだ。それにこんな場所に来た覚えもないし、おかしいぞ……》
混乱した私は、少女に向かって矢継早に質問を投げかけた。
「此処は何処なんだ?それに君は誰なんだ」
すると、少女の表情が一瞬だが少し寂しげに変わった。が、また元のにっこりと微笑んだ表情に戻り、
「此処は、あなたの夢の中よ。そして……、私は沙羅」
夢の中で此処は夢と言われてすぐに納得できる者がいるだろうか。しかし、そうと言われれば腑に落ちる気もする。
なんとなくではあるが、事情を理解しかけた私は平静を装いながら話しを続けた。
「沙羅、夕暮れに逢った君は何か言いたげだったけど、どうしてあの時は黙って居なくなったの?」
沙羅からの返事は、また私を困惑させるものだった。
「それは、あなたがその石を持っていなかったから……」
話しの意味が呑み込めない私は聞き返した。
「それは、どういうことなの? 石を持っていないと話せないなんて」
沙羅は少しずつ、ゆっくりと説明を始めた。
「あなたの持っている石と私の持っている石は、元々は一つの石でした。それをある御方の力で二つにして頂き、二人で分け合ったものなの」
「ちょっと待って。それじゃあ、君と僕は以前にも何処かで逢っているんだね。」
「ええ、遠い昔に……」
《僕がこの石を拾ったのは、はっきりとは思い出せないけど、遠い昔って程じゃないはずだ。それに辺りに人はいなかったし、いったいいつ頃の話しなんだろう……》
私の考えが伝わったのか、沙羅はまた話し始めた。
「この石を分け合ったのは、現世ではないの。もっと、ずっと昔……。あなたと私が一緒に時を過ごしていた頃に……」
そう言って、沙羅は目線を上げ遥か遠くを見るかのような表情をした。