−少女− 第2話
家に着いた私は、机にしまってあった石を取り出して眺めながら、拾った時のことを思い出していた。薄汚れていたが、それでも夕日を浴びてキラキラと輝いていた。もしかしたら、何か宝石の原石ではと、心がときめき、家に持ち帰って丁寧に洗ったのだ。
今もその石がなんであるのかは、わかっていない。宝石店で調べて貰おうとしたこともあったが、ただの石だったらと考えると気恥ずかしくて、やめてしまったのだった。たとえ、ありふれた石であろうとも、私にとっては特別な存在であることに、変わりないのだから。
それ以来、石を机の引出しに仕舞い込み、私の目に触れることは、なくなったのだった。その晩から、例の夢を見始めた。最初の頃は、毎日といって良いくらいに頻繁に見ることと、目が覚めてもしっかりと覚えている内容に困惑したものだ。
私は、その石を手に取り寝転びながら、あらためて眺めてみた。すると、以前のように何故だか心が和んだ。しかし、なんとも言えないような切ない気持ちにもなった。
もしかしたら、未だに毎日、その夢を見ているのかもしれない。しかし、仕事などの日常の繁忙感の中で次第に記憶に残らなくなり、徐々に夢を見たという感覚が減ったのかもと思ったりした。
《それにしても、こんな無機質な石と、あの少女に同じ感情が込み上げてくるとは……》
我ながら、自然と笑みが込み上げてきた。ただ、少女にもう一度あって、あの時に何を言おうとしていたのか、確かめてみたいと強く思った。
《また、逢えるだろうか……》
そう考えながら、いつの間にか私は眠りに落ちていった……。
私は、どこまでも続くかと思われる草原に立っていた。その遥か遠くに薄っすらと森が霞んで見えた。
以前にも何度となく、夢の中でこの風景を見た記憶がある。その時はどんな出来事があったのだろう。などと考えながら、私が草原の真ん中に立ち尽くしていると、少女に再び出逢った。
出逢ったというよりは、現れたといった方が適切かもしれない。彼女は森の中から、宙に浮くように静かに、すっと近づいて来た。
いつの間にか眠ってしまい、夢の中だという自覚のない私は驚いた。夕暮れに出逢った時も、突然に姿が景色に溶け込むよう現れた少女に神秘的なものを感じていたので、《超能力? 何か不思議な力を使えるのか……》
目の前で起こった現象を、必死に頭の中で整理しようとしている私のことなどお構いなしといった感じで少女は、私が持っている石と同じと思われるキラキラとした石を目の前に翳した。
「えっ、どうして……」
思わず、私の口から声が漏れた。何故、彼女があの石を持っているのだ。それとも、あれは私の物で、落としてしまったのだろうか。慌てて服やズボンを弄るように石を探すのを見て、彼女は首を横に振った。
そして、心配そうに私を見つめているのだ。私に石を持っているか、と訴えるような眼差しで……。
石はズボンのポケットの中にあった。私は、それを彼女の前に差し出した。