−少女− 第1話
ひとりの少女と出逢った。
それは空気が冷たく澄んだ、ある冬の日のことだった。川越しにビルの谷間へ沈みゆく夕日を、ぼんやりと眺めていると、ふっと人の気配を感じた。振り返るとそこに、少女は佇んでいた。髪はすらりと腰にとどくほどに長く、夕日を全身に浴びた姿は辺りの風景に溶け込むようで、神秘的に映って見えた。
少女はこちらに気づいたのか嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。だが、すぐにその表情は消えた。私を知っているかのようにじっとこちらを見つめ、切なそうな顔をした。何かを伝えたいが伝わらないとでも言いたげに……。
《何故だろう……》
私は少女と初対面であるにも関わらずその顔を見ていると、何処か懐かしいような気持ちになっている自分に気づいた。
《もしかしたら以前、何処かですれ違ったのかもしれない。》
そう考え、必死に記憶をたどるが、頭の中にはモヤがかかったように霞んでいる。しかし、記憶の奥底で何かがうっすらと見え隠れするように引っかかる。それは、まるで夢を見た後の感じにも似た感覚であった。
《夢! そうだ、夢だ!》
私は、ある夢のことを思い出した。どれくらい前であったのかはっきりとは覚えていないが、やはり夕暮れ時の道端にキラキラと光るものを見つけた。近づいてみるとそれは、白っぽいそれでいて透明感のある石であった。なんだか自分が以前に落とした物のような感じがして、その石を拾い上げ家に持ち帰った。その石を眺めていると不思議と心が和むような、そして切ない気持ちがした。
その晩から夢を見るようになった。年に数回ほどであるが、時には何日も連続して夢の続きを見ることもあった。
夢の内容は違うのだが、何故か必ずといってよいほど女性が登場した。その女性達には、共通の雰囲気が漂っており、目覚めるといつも何処かで出逢ったことのあるような懐かしい感情が込み上げてきた。その女性達と同じ雰囲気を少女に感じたのだ。
もう一度、顔を確かめようと少女の方に目線を送ったが、すでに少女の姿は其処になかった。
《あの少女は……》
辺りを見やったが、少女を見つけることはできなかった。夕日はすっかりと沈み、替わってまるい月が白っぽく見えていた。ふと、石のことを思い出し、私は帰宅の途についた。