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モリオム探訪記

作者: さくさん

 分厚い黒々とした雲が慈悲深い太陽を覆い隠し、緑色の毒々しい雪がちらつく……この死の大地である砂漠地帯に足を踏み入れる者は長らくいない。


 何故か、答えは至極簡単な話だ。なんの得にもならないからだ。生き物は三眼のトカゲやカエルぐらいしか確認されていないし、何か金になる物も全くありそうになかった。それに、ゾアーノ族が稀に出没するのもあった。


 人族にとってはゾアーノ族は恐ろしい存在である。確かにいざとなれば戦いを挑むことはあるが、流石になんの得にもならない争いをするほど人族はバカではない。人族は別に生活に困っているわけではないから、わざわざこの死の大地へと足を踏み入れ、あるかないかもわからないお宝を探すことはしないのだ。


 しかし、中には変わった奴もいた。アジズという放浪者が、カク(平べったい顔をした、ラクダに似た生き物)を連れ、わざわざ頑丈な皮膚をもつ、黒い恐竜の革をつかって作らせたコートを羽織って、戻れるかもわからない死の大地へと自らの意思で足を踏み入れた。


 人族は彼を止めた。しかし、彼はこう言った。


「私は悠久の年月、風化せずのこる都を求め、途方もなき時間を費やしてきた。私が求めるのは未知の世界、恐るべき場所だ」


 人族もそれを聞いた時に見たアジズの真剣な表情を見て、説得をあきらめた。おそらく、この手合いには話が通じないのを心得ていたのだろう。


 正気の沙汰ではなかった。しかし、アジズは無謀なバカではない、準備を怠るような真似はしなかった。十分な装備を調え、コートの下には、恐竜の革をつかった胴着とズボンを身につけ、両手持ちの新月刀帯びていた。もちろん、食料や葡萄酒もしっかり用意していた。


 砂岩でできた都市を出て、アジズはカクをひきながら死の大地へと向かった。バラ色にも似た太陽が燦然と輝きを放ち、アジズの行く道を照らす。


 アジズの旅において、お供がいた時期はほとんど無かった。それは動物にも言えることであった。何故ならば、彼が向かう地はことごとく呪われた場所であったからだ。


 人間の相棒がいた時期もあったが、ごく短い期間だった。黄土色の肌をもつ黒眼の男で、案内人として引き連れていたが、夢半ばで彼は死んだ。


 アジズは砂漠の色合いがあの男、その肌の色に似て見えて、ふとあの男が目指した覚醒の世界を思い出したが、すぐにそんなことを考えるのはやめた。緑色の雪がちらつき、厚い毒々しい雲が姿を現したのだ。


 カクは緑色の雪を見てもさして取り乱すことはなく、アジズは安堵した。歩き疲れたアジズは、不気味な面構えのカクに跨り、ゆっくりと先を進んだ。馬のごとくかけることはできなかったが、歩くよりは断然マシだった。


 アジズは皮膚に緑色の雪が付着しないよう布で顔を隠し、分厚いフードを深く被った。毒性があるのかないのかもわからないし、皮膚に付着しようものなら何があったものかわかったものではなかった。


 いくつも砂丘をこえ、三眼のトカゲに見送られながらカクを走らせた。時々、カクは鼻を鳴らして何かに怯えるような仕草を見せたが、忠実なカクは歩みを止めることはなかった。アジズは思う。


(私が行く先に、何があるというのだろうか?)


 答えなどあるわけはなかった。今現在アジズがわかることと言えば、三眼のトカゲの不気味な貌と、この土地が死んでいるというだけだった。


 起伏の激しい砂丘をいくつもこえた。砂丘の上に到達して見えるのは、代わり映えのない単調な景色だ。びょうと風が吹くと砂が舞い上がり、海際に押し寄せる波のような情景を作り出していた。


 薄明の砂漠とはこうも不気味なものなのか、アジズはうっすらとしか地上に注がれない光を見て思う。風の音とカクの足音以外に、辺りで音という音が鳴ることはなく、それがまた不気味だった。それに加えて緑色の雪がちらつくときては、誰しも異様なものを感じずにはいられない。


 しばらく進み続けるとアジズは、はるか彼方にある砂丘から何かが、そう不気味な何かが突き出ているのに気づいた。出来損ないの墓から、まるで腕や脚といったものが飛び出ているかにも見える。アジズはカクを踵で突ついて速く走れとはじめて急かした。


 砂丘を越えて姿を現したのは、恐ろしく古い巨大古墳だった。太古の秘密、その目に見えぬオーラに気圧され、アジズは一瞬怯んだものの、すぐに気を持ち直し先を進む。巨大古墳の禍々しきオーラがアジズを貫く、カクも何処かそわそわと不安げにしていた。


 アジズはしばらく進むと、日が沈み始めたのに気づき、小さなテントをはって、しばし休息をとることにした。いざテントに入ろうとした時、アジズは遠くに小さな砂の嵐を見つけた。するとそこに向かって突風が吹き、危うくテントが吹き飛ばされそうになった。


 しばらくアジズはその砂嵐を見つめ、なにか異様なものを感じとったのか、身を震わせると逃げるように小さなテントへと入って行った。突風はおさまったが、相変わらず風がびょうと吹いていて、巨大古墳を飛び越え、あの砂嵐が吹き荒れる中心へと吸い込まれていた。


 空が白み、星々が失せていき、同時に空を包んでいくのは、金色に染まる薔薇の花にも似た光。風の音が響く。砂の嵐が遠くで吹き荒れ踊る。アジズは目を覚ますやすぐに外へと出て、またあの砂嵐を見つめた。分厚い黒々とした雲は消えていた。あの緑色の雪も今や跡形もない。


 小さな砂嵐が最後の一踏ん張りと言わんばかり暴れたが、すぐにおとなしくなった。アジズはテントを片付けると、再びカクを連れて歩き出した。あの小さな砂嵐が見えた方角を目指し、巨大古墳を背にしてアジズは歩いた。


 乾燥した険しい谷を越えると、また砂丘が見え何かが突き出ていた。目を凝らすとアジズはすぐにそれが何かを理解した。砂に埋れた外壁だ。それを見るやアジズは走りだし、その砂丘の頂上へと向かう。都市だ。古の失われた都市がそこにあるのだ。


 アジズは埋れた外壁がある場所へと着くと、眼前に広がる光景を目にして己の予想が正しいのだと知った。廃墟の土台が無数姿を現したのだ。悠久の年月を経て大半が砂に埋れていたが、そんなのたいしたことではなかった。


 さっそく、アジズは廃墟の土台の間を出たり入ったりしながら、辺りをそぞろ歩いた。すると、あの時と同じように風が吹いて、廃墟の一つへと吸い込まれているのを見た。カクを待たせ、アジズはゆっくりとその廃墟へと歩み寄る。


 そこにあったのは黒々とした穴だ。太陽に照らされているところは何とか見えたが、他はそれが地下へと続く階段だという以外には、全くわからなかった。試しにアジズは銀貨を中へ投げ入れてみると、カーンカーンと鋭い音がしばらく響き、少しして消えた。


 アジズは火の精霊に祈りを捧げ、火球を出すとそれを先に進ませて、あんぐりと口を開ける不気味な地下へと向かった。階段はしっかりとした作りで、傾斜は緩やかなものだった。段々と陽の光は遠くなり、少し進んだところで光源は火球一つとなった。


 ここは一体なんだというのか、アジズは疑問に思った。そしてある推測をたてた。ここに住まう民は押し寄せる砂漠を恐れ、地下深くに逃れたのだと、それかここはなにか宗教的意味がある場所ものではなかろうかと。数十分も下ると、広場と思しき場所へと出てアジズは驚愕した。


 火球の光を強め、広場全体を照らすと見えたのは、白いツルツルとした平らな壁で、どうやったかはわからなかったが、かつてここに住まう民が高度な技術をもっていたのは明らかだった。


 神聖な場所にしては、どうも無機質な部屋だった。アジズはここが砂漠から逃れるための避難所と見て間違いないと考えた。いくつかの道は硬い砂で塞がれていたが、真っ直ぐ伸びる通路はまだ通れそうだった。アジズは、少し壁にもたれかかり休息をとり、真っ直ぐ伸びる通路を進もうと腹を決めた。


 休息をとるとアジズは再び動き始めた。火球の後ろを歩きながら、さらに奥を目指す。相変わらず白い通路が続き、代わり映えのない景色にアジズは、己が本当に先に進んでいるのかと度々不安になった。それくらい、この地下世界は退屈だった。


 しばらくすると再び広場へと出た。さっきの部屋や通路と同じく真っ白な部屋だったが、いくつか違う点があった。まずは正面がガラスの箱とそれを支える土台で、箱や土台には微細な彫り物がされていた。芸術的な価値が高そうだとアジズは思い、持ち帰れないものかと箱に手をかけたが、固定されてるのか全くびくともしなかった。


 持ち帰れないのを残念な思ったが、アジズはその微細な彫り物の美しさを目に焼き付けれただけでも満足はできた。コツコツという靴音がいやに響き渡り、なんとも言い表せない不気味さを感じたが、恐れはしなかった。今のアジズは好奇心が先に立ち、もっと色々目に収めたいという願望にかられていたのだ。


 部屋の両側はその箱が列をなしていて、なるほどここは地下生活でも退屈しないように作られた部屋なんだなと、アジズは考えた。奥へと着くとアジズは、一つの壁画を見つけて、それを食い入るように見つめた。それは、どうやら架空の生物を描いたもので、恐ろしいほどに人間を思わせるものだった。


 鼻の潰れた犬面の顔をしていて、目は人間によく似ていた。肌は妙に青白く不健康そうで、陽射しが強いこの地方では中々見ない特徴だった。ずんぐりとした身体には、布切れをぐちゃぐちゃに貼り付けたようなものがあって、身なりは汚なそうだという印象をうけた。さらに酷いのはその手足で、手や足は体格のわりには短く貧弱だった。


 アジズは不快そうに顔を歪めると、その壁画から目をそらし、他になにかないかと部屋を見渡した。すると、火球が強く燃え盛り、何処からか隙間風が吹いてるのにアジズは気づいた。隙間風の出処は意外とあっさり発見することができた。壁画の下、そこにある棺桶から吹いているようだった。


 アジズは棺桶を押してどかすと、また地下に続く階段を発見した。黒々とした入り口からは絶えず風が吹きつけ、不気味な、なにか金管楽器のような、よくわからない音が下から響いていた。階段は急でかなり雑な作りらしく、かなり老朽化が激しかった。


 急な階段を一歩一歩慎重に、火球を前にして下って行った。壁に手の平をピッタリとくっつけ、前をじっとアジズは見つめた。元々は洞窟があって、そこをどうにかして綺麗にくり抜いたのだろう、奥から風が吹いているところから、アジズはそう予想した。


 何度も向きがかわり、勾配もかわり、一度水平になって、そこから狭い通路にかわった。通路はあの時見た白い部屋とは違って、極々普通の岩だった。綺麗に研磨され、ひたすら真っ直ぐ通路は伸びていた。奥は漆黒の闇が支配し、どこまでも続いているかのように見えた。


 アジズはマリュグで見た呪われた神殿を思い出した。マリュグの郊外にある、ひどく古い忌まわしい神を祀る神殿だ。アジズが見たあの神殿の入り口、太陽の光すら照らしきれぬ闇が口を開け、捕食者がジッと獲物を待つかのような、そんな薄気味悪い景色を彷彿とさせた。


 ゆっくりとまた歩き出し、アジズは壁に手をつきながら進んだ。恐怖は無かった、あるのは太古の秘密を見たいと言う願望、ただそれだけだった。しばらく進むと、アジズは真鍮の大扉のところまで来ていた。扉にはびっしりと象形文字が刻まれ、それはモリオム大陸のどの言語とも違った。


 そっとアジズは大扉に触れ、舐めるように観察した。すると一つの不可思議なことに気づいた。光の筋だ。光の筋が大扉の隙間から見えるのだ。アジズは驚くと同時にひどく興奮した。間違いない、この先に何かがあると。なんとか開けようとアジズは大扉に手をかけたが、無駄なことだった。


 蹴飛ばしたり、体当たりしたり、様々なことを試したが、この真鍮の大扉はビクともしなかった。爆破も考えたが、アジズは大扉を傷つける気にはならず、しばらく悩んだ末諦めた。そして引き返そうとした時、ふと金管楽器の音が響いているのにアジズは気がついた。


 アジズが来た道から風と金管楽器の音が同時にやってきて、次第に強くなった。風はもはや経験したことがない程になり、凄まじい勢いでアジズを襲った。必死に壁に掴めるものはないかと探すが、壁にはおうとつ一つもなく、実に滑稽な足掻きでしかなかった。


 何か重いものを引きずるような不快な音が聞こえ、アジズは音がする方を振り返った。真鍮の大扉が外側に開き、眩い光が通路を満たした。アジズは身の毛のよだつ恐怖を感じ、死に物狂いで新月刀で壁を叩いたりして削ろうとしたが、それをあざ笑うかのように風が強く吹き、アジズは眩い光が放たれる大扉の中へと吸い込まれてしまった。


 ゴロゴロと無様に転がり、壁にぶつかってアジズはやっと止まった。悲鳴をあげる身体に鞭をうち立ち上がると、アジズは物音がするのに気がついた。今まで、己以外が動く物音などしなかった、だが今何かの足音が確かに耳に届いたのだ。


 アジズは真鍮の大扉とは反対側、今だ眩い光が放たれる方向を見た。新月刀を手探りで探すも、あの突風で吹き飛ばされたのか、伝わってくるのは冷たい床の感覚だけだった。眩い光の中から、黒い影が無数に見え始め、それが明らかな敵意を剥き出しにしているのを知り、アジズは痛みなど忘れて真鍮の大扉へと走った。


 真鍮の大扉を抜け、狭い通路を息を切らしながら走り、階段手前で後ろを振り返る。どうやら、黒い影の集団は足が遅いらしく、老体のアジズにすら全く追いつけていない有様だった。目を凝らし、アジズは黒い影が何者かを見定めようとした。そして、黒い影の正体を知った。


 大きな胴体に明らかに不釣りあいな小さな手足、ゆっくりと身体を揺らしながら迫るそいつは、あの壁画の化け物に酷似していた。化け物は唸り声をあげ、何かをアジズに向ける。すると乾いた音が何回か響き、視認できない物がいくつかアジズの身体をかすめた。


 アジズはあわてて階段を駆け上がり、少しのぼったところで軽くしゃがむと、両手を地面につけた。口元を微かに動かしてぶつくさアジズが呟くと、その刹那大地が揺れ、壁に稲妻に似たものが走った。すると通路に近い場所が凄まじい音と共に崩れ、眩い光が失せていき、辺りは再び闇に支配された。


 封印したのに安堵したアジズだったが、その場にとどまりはしなかった。火球を再び出して、老体に鞭打ち駆け上がり、入り口まで逃げおおせるとそこにも封印を施した。封印が終わるまでの間、金管楽器の音が抵抗するかのように響き、同時に怒り狂うかのようなゾアーノ族の遠吠えが辺りに轟いた。


 それから数年間、ゾアーノ族が近辺に出没することが多くなり、死の大地はゾアーノ族によって支配された。マリュグの軍隊がゾアーノ族掃討作戦を行うさなか、死の大地に赴いた兵士のいくたりかが金管楽器の音と、獣じみた唸り声を聞いたという報告をし、死の大地の廃都へと調査隊が派遣された。調査隊の安否はその後全くわからなくなり、死の大地はマリュグ王直々の命令で頑丈な石壁によって封鎖され、二度と人が立ち入ることはなかった。

悪夢が題材、駄文ですみません

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