19 不義
戻る道中に、また心臓がばくんばくんと高鳴ってどうしようもなく痛むので、少し公園で休んでいた。
「病院行かなきゃな」とか「いたいな」とか「くるしいな」とか「はやく店に戻らなきゃな」とかを考えながら、ベンチで項垂れている。
「大丈夫ですか」
声をかけられた。
「大丈夫ですよっ! 心配かけちゃってごめんなさい」
笑顔を作って、顔を上げると、そこにいたのは、おそらく小学生か中学生だろう少年だった。
「でも、顔色が悪いや。近くに僕の家があるんです。寄っていきませんか。それか病院ですよ。病院行ったほうがいいですよ」
「いやいやいや、大丈夫ですって。ほら! 元気!」
少年は、「ダメです」と言って、守道の腕を引いて歩き出した。そして、田畑に囲まれた中にある家が見えてくると、そこで視界がぐわんと揺らいた。
「大丈夫ですか」
「大丈夫」
「じゃないでしょ」
少年は守道を縁側に座らせると、麦茶を持ってきた。
「いやあ、ありがたいなあ。君は優しい人だ」
「…………」
「けど、いけないなあ〜。見ず知らずの大人を自分の家に連れて行っちゃあ。君、危機感がないね! うん! 気をつけなくちゃならないよ」
「すいません。でも、あなたの目が……知ってる人に似てたんです。その人もとても疲れている人でしたから」
「ふぅ〜ん」
守道は麦茶を飲みながら、胸がバクバクとなるのを何とか抑え込もうとしていたが、どうもそれは邪視の仕業らしい。頭の中で邪視が「ここには光の力の加護が施されてる」と喚き散らかしていた。
聞くに、その光の力の加護というものが闇の力を持つ邪視とそれを宿す守道を拒絶しているらしい。
邪視という存在はもともと光の力だが、それが反転して闇になった存在。純粋な光の力はそのいびつな存在を拒絶する。
逃げ出そうとする邪視の力が暴走して、守道は胸を抑えて苦しみ出した。
少年が「大丈夫ですか」と駆け寄ろうとするのを、「寄るな」と制止して、それからすぐに守道は変身態になった。
痛い。
痛い。
身体中が痛い。
はやくここからでなければならない。
守道は、ほんとうのところ、腹が立っていたのだろうと思う。ただその力を持っていただけで、なぜ拒絶されなければならないのか。
わからない。光がそんなに偉いのか、とも思う。
胸の石はキラキラと輝いているのに、それなのに光の力に拒絶されるのは意味がわからない。
味方がどこにもいない。味方がどこにもいない。
「立てますか」
少年が守道変身態の肩に触れた。
家の敷地を何とか出ると、痛みが引いていく。
「驚いたろう、変身したのに……」
「まぁ、少し。でも、初めて見るものでもないので」
「初めてじゃない……?」
「はい。僕、昔さらわれそうになったことがあって、その時に助けてくれた人も、あなたみたいに変身したんです」
しばらく聞こうと思ったが、どうにも何か嫌な気分になった。
「ごめん、興味ない。もういくね。……あと、俺はその人みたいにヒーローなんかじゃないよ。悪者の力を使ってるんだ。だから、悪者だよ」
去り際に、少年が叫んだ。
「僕、猪地光輝って言います。なにかあったら尋ねてください。僕、力になります!」
「はは。嫌だよ」
はやくここから離れたかった。
どうやら自分以外にも、こんな姿になれる奴がいるらしい。しかしそいつは、次便とは違って慕われているらしい。
それを知ると、何だか嫉妬のような感情に苛まれてしまった。
自分の心は醜いんだ、とわかってしまった。
うーん、死にたい。




