17 不眠
それにしても、夜は眠れない。
ずっと頭に悲鳴が響き渡る。「たすけて」と聞こえてくる。
声が大きくなるにつれて近くにある声なのだろう事は十数年で分かっていたけれど、遠くの声もはっきり聞こえるので、眠れない。
悲鳴が聞こえる。どこかで人が死んでいく。
老衰だとか、病気だとか、そういうことでも人は死んでいく。
心がもたないと思われがちだが、幼少の頃からこの夜はあった。
もうかれこれ五歳頃から眠っていない。
そのことで両親を悩ませたこともあった。
なので、両親がいた頃は寝たフリをしていた。
こういう人間に生まれてしまった不幸を、憎んだり呪ったりすることは守道にはできなかった。
こういう人間に生まれたおかげで助けることができる人もいたからだ。
きっと明子が独り立ちをしたならば、便宜的に布団にはいることもなくなるのだろう。
守道は枕で両耳を防ぎながら、それでも聞こえてくる悲鳴に腹を痛めながら、無理矢理に両瞼をおろしていた。
彼がそうして無理矢理身体を休めている時だった。
いつものように心臓がバン!というふうに痛みを放ったのとほとんど同時、「ギャア」という声が聞こえてきた。
時刻は一時半。
守道はすぐに家を出て、その声のする方にオートバイクを走らせた。すると、それが見えた。
大学生なのだろう青年が壁のようなものに押しつぶされそうになっていた。咄嗟に割って入り、オートバイクに乗ったまま青年をさらい上げる。
「邪視!!」
「あいよ」
その怪異は塗壁というらしい。
守道は変身態になると、拳に自殺波動を溜め、殴りつけた。がしかし、攻撃が効かない。
どうやら塗壁の大きな壁に見える身体のほとんどはそこら辺の土塊らしく、身体はその壁のなかに隠れているらしい。
どうしようかな、と考えていると、塗壁は倒れてきた。
それに押しつぶされながら、守道変身態はそれを蹴りつける。
「効かぬわッ」
キィィン……と赤い単眼から自殺波動が放たれて、塗壁の身体に張り付いていた土塊がこぼれ落ち、本体が見えると、拳を何度も打ち込んだ。
守道は変身を解除すると、オートバイクのほうに戻っていった。




