卒アル〜夢の話
色んなことがあって、あっという間に時間が過ぎていく高校時代。時間が、季節を連れて行く。
心はそれに追いついて、置いて行かれて。
新しいことを知ったり、忘れたりする。
次の日、どうにも力が入らないおれは、ゴロゴロしながら、頭に入ってこない参考書をめくっていた。
そんなところに小学校からの友だち、郡司が久しぶりにやってきた。
「おう、どうなの、付いていけてる?S校のハイパー授業。」
「あー、まぁな、理系はなんとか。英語もまあまあ。古文は壊滅的だけど。」
「へぇ、それなら上出来じゃん。お前、すごいよなぁ。中二からのギアチェンジして、今、それか〜。」
「郡司もそろそろ試験?こんなとこ来てて、平気なのかよ。」
「オレはほら、ほどほどにしておいたから、いい位置にいられてる。」
「そか〜いいなぁ。それはそれで。」
「てかさ。それより、ちょっと話あんだけど。」
「ん?」
郡司がこういう言い方をする時は、何か驚かされることが多い。オレはちょっと身構えて次の言葉を待った。
「オレ、彼女ができました!」
「え!」
そりゃもう、単純に驚いた。
郡司はオレと同じく、2.5軍の男子だ。
ただ、オレと違って、お調子モノのコミュ力高い系だから、中学時代から人気はあった。
「だれ?オレの知ってる人?」
「あーうん、同じ中学でブラバンの。3組だった、柳田れいかって、お前は知らないか。今年、2年になってから、同じクラスになって。」
「へぇ、そうなんだ。良かったじゃん。柳田?全然覚えてない。可愛い?」
「なんだよ、それ。可愛いから、後で卒アル見ろよ。」
「わかった、わかった。」
オレがソーダの入ったグラスを上げると、郡司がそこにあわせてきて、2人で乾杯した。
「とりあえず、おめでと。」
「サンキュー。一足お先に、悪いな。」
「なんだよ、早くもマウントか?」
郡司がそんなことしないことはよくわかってる。だからこそ、言える、弄りだった。
色々聞きたいことはあったけど、お互い、試験前ということもあって、なんだかバタバタと郡司は帰って行った。
今日の目的は彼女が出来たという報告と、今年の夏休みはそんなわけで、今までみたいに遊べそうにないと言うためだったらしい。
そっか…と一人でつぶやいたオレは、ちょっと考えてから、本棚の下段に立ててある中学の卒アルを手に取った。
3年3組のページを開くと、真っ先に目に飛び込んできたのは、郡司の彼女じゃなくて、輝と田宮が並んでる、1枚の写真だった。
3年の文化祭、3組は焼きそばとフランクフルトの屋台だった。
そこで客を呼び込むキラキラの2人の写真。
そこらへんのアイドルなんか、敵わないくらいの発光度で、学校中が大騒ぎになったのを思い出した。
そう言えば、3年の時、2人は同じクラスだったんだな。おれ、なんか色々、忘れてんな…。
あ、そうそう、と思い直して、郡司の彼女、柳田さんを探す。
おお、なかなか可愛いじゃん、と個人写真で確認してから、その子を他の写真で探してみると。
結構たくさん写ってる。しかも、田宮と輝の写ってる写真には、ほとんどと言っていいほど、近くに写り込んでいた。
気のせい…じゃないな。
その時。
『なんで、樺沢くんがそこにいるの?』
誰かの声が頭の中で響いた。
なに?どこに向けているのかわからないまま、問いかけた。
『なんで、樺沢くんが、2人と一緒にいるの?』
もう一度、同じ声が聞こえた。
なに?なんだろう、これ。
どこから聞こえてきてるのかわからない、その声にオレは思わず、耳を塞いだ。耳鳴りがする。
その時、突然、ノックもなしにドアが開いた。
「ちょっとみずき、お使い頼まれてくれない?」
一番上のまち姉がそう言って入ってきた。慌てて、耳を塞いでいた手を離した。
「ノックくらいしろって。いつも言ってるだろ。」
「なに、なんか見られたくないことでもあった?」
「そういうことじゃなくて!」
「はいはい、ごめんなさいね。だからさ、ちょっとコンビニ行ってきてくれない?おつりでアイス買っていいから。」
そう言われてオレは断るヒマもなく、千円札を2枚渡されて、家から出された。
さっき聞こえた頭の中の声は気になったけど、今はもう聞こえないし、耳鳴りもしない。
なんだかよくわからない。
そういえば,郡司の彼女、ずい分たくさん、2人の写真に写り込んでた。そう、一緒に写っているというより、写り込んでるというのが正しい感じだった。
輝に聞いたら、何かわかるかな。
そんなことを考えながら,オレはまち姉のおつかいを済ませて、ご褒美のアイスを食べながら、家に帰った。
週が明けた月曜日の放課後,輝に誘われて、地元の図書館で試験勉強をすることになった。
オレは輝から苦手な古文や漢文を教えてもらい、逆に輝がちょっとだけわからないという、数学と物理をオレがホントにちょっとだけ、教えたりした。
基本、輝はオールマイティなのだ。
その帰り、例のもんじゃ焼き屋に寄って、そこでオレたちはいつもより踏み込んだ、真面目な話をした。
「かがやは塾とか予備校、どうすんの?もうそろそろ決めた?」
「あーうん、大会が終わってから夏休み中に、見学に行ってみようかと思っているんだけど。」
「そっか。でもまぁ。輝は余裕あるもんな。オレも決めなきゃだな。余裕ないから。ホントはもっと早く部活やめろって言われてたんだけど。」
「親に?」
「んー、親はそれほどじゃないんだけど、高校受験の時から、勉強みてもらってる従兄弟の兄ちゃんがいて。その人に。」
「そか。どこ希望なのか聞いていい?」
「うん、TU大。行けたら、だけどね。」
「工学部?」
うん、と頷いたオレを、輝がちょっと寂しそうな顔で見た。
「遠くだな。」
「受からなきゃ行かないよ。」
「何言ってんだよ。受かるよ、みずきは頑張り屋なんだから。」
ふざけてそう言ったオレを、今度はちょっと厳しい顔をした輝がたしなめるように言った。
「あ、ありがと。輝はやっぱり。T大?」
「そうだな。近道だから。やりたいことの。そこはみずきと一緒。」
「え?オレのやりたいこと、話したことあったっけ?」
「ああ、いや、ちょっと、聞いたことがあって。ごめん。」
「謝ることじゃないけどさ。別に。でも、誰から?」
「中学の時の、羽田先生。理科の。」
「ああ、なるほどな。オレの師匠だからな。かがやの担任だったっけ。」
「そう、2年と、3年の。オレ、やりたいこと、夢見過ぎじゃないかって、迷った時期があって。」
「え?輝が?あ、でもオレ、お前のやりたいこと、ちゃんと聞いたことない。逆に聞いてもいい?今。」
「うん、いいよ。オレ、外交官とか、国連とか、国際機関の職員になりたいんだ。」
「あー、すごいな。でもなんか、わかる。かがやって感じがする。」
「何、それ。」
「いや、いいよ。なれるよ、輝なら。でもはね先、なんでオレのこと、輝に?」
「オレが夢見過ぎじゃないかって先生に話したら、お前より、もっと夢見たいなこと目指しているヤツがいるって…」
「え?何、それ、オレのこと?」
「うん、まぁ。ガンダム作りたいって話聞いて、オレ、すげえなって。」
「あー、呆れた?いいよ、慣れてる。もうさ、最近じゃ、聞いた人の反応が想像つくから,ロボット工学がやりたいんです、くらいにしてるんだ。大人になっただろ。」
「え、なんで!」
「いゃ〜さすがにな。」
「呆れたんじゃないよ。オレは。ホントにすごいなって思って。しかも、そのためには、S校くらい行かないとって先生に言われてから頑張って、C判定からその時、確か3年の一学期末だったと思うけど、Aマイナスまで持ってきたって聞いて。」
「あ、もうそれだけでも、充分、恥ずいっす。輝に言われると、マジで恥ずい。」
「なんで。恥ずいことじゃないじゃん。あーっていうか、違うよ、話、ずれ過ぎ。オレが言いたかったのは、予備校、一緒のとこに通わないかって。そう言いたかったのに。」
「え?それ無理。」即答するオレ。
「なんで?」
「だって、輝なら、K塾の特進とかに行くんじゃないの?オレ、Yゼミの理系特別がせいぜいっす。」
「じゃ、オレがYゼミの文系特別にすればいい?さっき言ったけど,通えるところって考えてるから…。」
「待って、待って、なんでそうなる?」
「だから!」
オレの言葉を跳ね返すように、輝が強い口調で言った。
「オレは、みずきと一緒にいたいんだよ。出来るだけ長い時間。」
なんでわかってくれないの…と、急にトーンダウンして、今度は消えそうな声で輝が下を向いた。
えーっと、それは…どういう?
「あ、だからさ、せっかく友だちになったのに、大学でまた離れちゃうだろ。だからさ。」
答えに詰まってるオレを見て、輝が言った。「ごめん、重くて…。」と。
なんか、取ってつけた言い訳みたいだったけど。
「ありがと。嬉しいよ。」
とりあえず、みたいになったけど、そう言った。
「でも、そのために輝がレベル落とすのは嬉しくないかも。」
「え?」
「さっき言った従兄弟のを兄ちゃんに、ちょっと相談してみる。オレが、K塾に行ったら、どうなるか、そもそも行けるかって。」
輝の気持ち、よくわからなかったけど、嫌じゃなかったし、そんな風に言ってくれなら、正直、自信はないけど頑張ってみようか…そんなことを考えていた。
「ありがと、嬉しい。でも、みずきに無理させるのは,オレも嬉しくないから。」
「うん、わかってる。ありがとな。」
お互いににっこり笑って、焼けてきたもんじゃに取り掛かることにした。
うまそうにもんじゃを食べてる輝を見てたら、なんだか胸が詰まる気がした。すごく幸せな気持ちなのに、ちょっとだけ苦しい、不思議な気持ちだった。
そして、今回は輝が会計をしてくれたので、おばさんから、この前みたいな話を聞くこともなかった。
オレはその時、輝に話そうと思っていた、郡司の彼女の話をすっかり忘れてしまっていた。
この辺はちょっと、とっ散らかってますが、次回、大きく展開して、まとめて行ける?んじゃないかと思ってます。




