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好きなもの〜アイスティーとコーラ

知ってること、それに興味があることはちょっと違う。友だちや好きな人のことは知りたいと思う。知りたいと思うことは多分、好きの入り口かもしれない。

ーやっと少しずつ、ストーリーが展開してきました。よろしければ、もう少し、お付き合いいただきたく。

「みずき!」

 どのくらい息を止めていたのかわからない。

 坂を下りきった交差点の手前で声をかけられたオレは、そこでやっと、足を止めて、息を吸った。

 「か、かがや…。」

 呼吸困難になりながら、そこにいた友だちの名前を呼んだ。

 「どうした?そんな慌てて。」

 輝が駆け寄ってきた。

 なんでここに、と見ると、手に本屋の袋を持っていた。ああ、そうか、本屋に寄ってたのか。

 そう言おうと思って、体を起こそうとしたら、足元がふらついた。

 酸欠寸前なのか、目がチカチカする。

 「おい、大丈夫か?」

 輝が腕を掴んで抱き起こし、背中に腕を回して体を支えてくれた。

 「ちょっと休もう。マックでいいよな。」

 声も出ないまま頷いたオレを抱き抱えて、300メートルほど先の、駅前のマックまて連れて行ってくれた。

 店に入ると輝は、奥の方の目立たない席にオレを座らせて、オレの部活のバッグの中からタオルを取り出してテーブルの上に広げた。

 オレはそこに突っ伏して、ぐったりと座り込んだ、

 なんか買ってくると言って、輝はその場を離れていった。

 ひどかった耳鳴りは、輝に腕を掴まれて、顔を見た時、不思議と治まっていた。

 「ほら、これ飲んで。氷少なくしてもらったから。アイステイー、好きだろ。」

 少しして、Lサイズのアイステイーが目の前に差し出された。

 「ありがとう。ごめん、驚かせて。これ、いくら?」

 冷たいのを一口飲んで、少し落ち着いたけど、まだそれくらいしか言葉が出てこなかった。

 「いいよ。気にしないで。もうちょっと休んでろよ。」

 そう言って笑うと、輝は何も聞かず、さっき買ったらしい本を開いた。

 「ありがとう。」

 もう一度そう言って、オレはまたタオルの上に突っ伏した。何も聞いてこない輝の優しさに甘えさせてもらうことにした。

 だって、まだ混乱が収まらない。

 さっきの田宮と宮﨑の、あれはなんだったんだろう。

 オレの話をしていた。でも、オレの話じゃないみたいだった。

 田宮はオレのことを「みずき」と呼んでいた。

 そのことに違和感を感じるというか、何か不思議な気分がした。

 そして…何よりも、あんな激しい、感情を爆発させるみたいな田宮は初めて見た。いや、正確には初めて聞いた。

 「田宮と、なんかあった?」

 アイステイを半分くらい飲んで、体を起こしたオレに、やっと輝は声をかけてきた。

 「え?なんで?」

 「いや、だって、田宮と話すって言ってたから。でも、違うか。研究発表の話だったもんな。」

 「ああ、うん。それは全然、うまくまとまって。田宮が発表やってくれるって。オレ、そういうの苦手だから、助かった。」

 そか、と言って、輝はホッとしたように頷く。

 嘘は言ってない。

 でも、何も本当のことも言ってない。いや、言えない。

 「かがやは、本屋に行ってたの?」

 「うん、取り寄せてもらってたのを思い出したからさ。ホントは週末に来ようと思っていたんだけど、今日、みずきが一緒に帰れないって言うから、それならって。」

 「え、なんで。言ってくれればオレ、一緒に行くよ。」

 輝が遠慮していているのかと思ったら、そうじゃないと言われた。

 「オレ、本屋に来ると長いんだ。しかも、入り込んじゃうから、一緒にいる人のこと、忘れちゃって。」

 前にそれで彼女をめちゃくちゃ怒らせたことがある、と苦笑いしてた。

 確かに、部室で別れてからこの時間までいたのだとしたら、かなり長い。そう思って聞いてみたら、なんとその通りだった。

 「でも、オレは怒らないから大丈夫だよ。本屋好きだし。あ、ただ、飽きたら、何も言わずに置いて帰るかも。」

 「え、だったら、怒ってくれた方が良い。やっぱり、みずきとは行かない。本屋。」

 そう言って、焦った輝を見て、思わず吹き出した。なんだかやっと自分がこの世に戻ってきたような感じがした。

 そしたら、急に腹が減ってきた。

 「かがや、まだ時間ある?オレ、落ち着いたら、なんか腹減ってきて。せっかくだから、なんか食わない?お返しに奢るし。」

 立ち上がったオレはフラっとしたかと思うと、また座り込んだ。

 あれ、なんか脚に力が入らない。

 「もうちょっと休んだ方が良いよ。あんな無茶したんだから。自分ではわからないかもしれないけど。」

 「そんな、だった?オレ。」

 「うん、クマかオオカミにでも追われてるのかと思った。」

 「いや、それは、ないだろ。」

 「まぁな。でも、それくらいだったってこと。ホントに何があったのかと、心配した。」

 そう言った輝の言葉は、最後の一言だけが本当で、あとはオレを落ち着かせるために言っているんだろうな。

 ますます申し訳なくなって、スマホでテーブルの上のQRコードを読み取ると、チーズバーガー二つとポテナゲのL二つ、おかわりのアイスティー、輝にはコーラをオーダーした。

 それが輝が好きな組み合わせだというのは、ちょっと前に知ったことだった。

 「オーダーしたから、悪い、取ってきて。」

 えー、仕方ないなぁと言いながら、輝がカウンターに向かって行った。

 オレは輝が好きなメニューも、つい最近まで知らなかった。

 田宮のことは多分、もっと、知らない。

 でも…。

 田宮にあんな、激しい面があるなんて、思いもしなかった。

 アイドルみたいに可愛くて、性格も男前で、いつもニコニコしてて…頭も良くて。

 オレみたいな地味なヤツに、何かと優しく声をかけてくれる。

 オレの中の田宮はそんな感じだったから。

 

 「そう言えば、さっき、彼女って言ってたけど…?」

 ポテトをつまみながら、オレが聞いた。そう言えば、そんなことを言っていた、と今更だけど、気になった。

 「ああ、うん、もう別れたけど。」

 輝がナゲットにソースをつけながら、大したことないように話し出した。

 「え?いつ?なんで?あ、ごめん、聞いちゃダメなヤツか。」

 「いや、別に。高校に入る前?受験の時に会えない日が続いて、それでなんとなく。まぁ半年くらいしか付き合ってなかったんだけど。」

 聞いたオレの方が緊張して、当の輝はもうどうでもいい事のようだ。

 「違う中学の子?」

 「うん、F女。高校ももちろん、そのまま。」

 「おぉ、お嬢様だ。」

 「そう。マジで、ガチなお嬢様。だから、ちょっと困ったこともあったけど。」

 「そうなの?」

 「うん。なんかさ、なんでも手に入る環境で育ったみたいなとこがあって。全部、自分のものにしたいって思うみたいで。」

 「全部?輝のこと?」

 「そう。オレの時間も、体も…」

 「え?体って…?」

 「んー。」

 つい、輝が答えてくれるから、勢いで聞いてしまったが、口籠る様子に、慌てて急ブレーキをかける。

 「あ、ごめん、これはダメなヤツだな。」

 「んー、まあ、ちょっと、まだ。そのうちまた。」

 「ごめん、オレ。」

 「いや、気にすんなよ。ってか、こんな風に、みずきがオレに興味持ってくれたの初めてだから、嬉しいんだけど。」

 「え、そんなこと…」

 確かにそうかもしれない。興味がないわけじゃないけど、今まで、オレは輝が話すことだけをきいて、自分から積極的に聞くことはなかったかもしれない。

 「興味、ないわけじゃないよ。」

 「うん、わかってる。」

 輝のこと、もっと知りたいと思っている。それはホントのことなんだけど。

 「みずきのそういうとこ、踏み込んでこないとこ、好きだよ。」

 「え、ああ、ありがと。」

 友だちってことになってから、輝がときどき投げてくる「好き」という言葉に、オレはまだちょっと慣れない。嫌じゃないんだけど。

 なんか色々、意識し過ぎなのかな、オレ。

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