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おまじない〜右の耳

夏の少し前、期末試験目前の、だるいような、少し昂るような、そんな頃には、あんなことや、こんなことが起こります。

次の日から、オレと輝は毎朝、朝練のない日も、駅で待ち合わせて登校するようようになった。

 帰りも終わる時間が一緒になれば、自然に一緒に帰るし、オレが遅い時に輝が待っていることが多くなったので、なんとなくオレも輝が遅い時は終わるのを待って、ほぼ毎日、一緒に帰るようになった。

 そんなある日。

 「最近、よく保里と一緒にいるよな。なんか、あったの?」

 化学の研究発表のために机を向かい合わせて話し合っていた時だった。

 オレが実験結果を箇条書きにしていると、突然、田宮がそんなことを言ってきた。

 一学期末にある発表会に向けた組み合わせのくじ引きで、オレらは偶然にもペアになったのだ。

 「いや、別に。あ、輝、部活でレギュラーになったから、一緒に動くこと増えたかな。」

 「輝?」

 「あ、えっと、その…。」

 田宮がそんなところに食いつくと思ってなかったオレは、焦って何か言おうと思ったが、何も出てこない。

 「へえ。そうなんだ。」

 オレのそんな様子を見て、田宮が見たことない顔で笑って、ちょっとドキッとした。

 なんだか影を落としたような寂しそうな?表情。

 何か言わなきゃ、と思ったけど、何を言ったらいいのか分からず、黙ってしまった。

そして田宮からも、それ以上、何か言われることはなかった。

 もしかしたら、田宮から「自分も名前で呼んでほしい」とか、「名前で呼んでもいいか」とか、言われるんじゃないかと思ったけど、そんなことはなくて、オレは自分が自意識過剰だったと、恥ずかしくなった。

 その時。オレの右手、廊下の方から、なんだか嫌な空気を感じた。

 その方をそっと伺うと、目白さんの強い視線とぶつかりそうになって、慌てて下を見てしまった。

 どうしよう、イヤだ…と下を向いていたら、田宮の手が右の肩に置かれて、そっとだけど力が伝わって、そこだけ暖かく感じた。

「気にすんなよ。くじ引きの結果なんだからさ。」

 どうやら、田宮も彼女の視線を感じていたらしい。

 当たり前だけど、ペアを決めるくじ引きは男女を分けずにやったので、目白さんが田宮と組む可能性もあったんだ。

 まぁでも、それはくじだから、思う通りにはいかないものだ。

 オレは化学は得意な方だから、誰と組んでも大丈夫と思っていたし、多分、田宮も理系選択だから、同じだったと思う。

 それでもお互い、ペアだと決まった時には、「お、ラッキー。」と言って、どちらからともなくハイタッチをしていた。

 でも、これは男子からだったけど、オレたちのことをバラして欲しいって声が上がった。「理系2トップが組むなんてズルい」という理由で。

 当然、先生はそれを瞬時に却下した。

 そんなことを言ってたら、くじ引きの意味がないだろうと。

 ちなみに、オレは自分で理系2トップだなんて思ったことないけど。

 

 それからしばらく経った、ある日の放課後。

 来週から、試験週間に入って部活は休みになるので、オレと輝はテニスコートのネットを片付けようと、グランドの外れにある倉庫に運んでいた。

 倉庫の扉をあけると、中は埃っぽくて、暑かった。

 壁側の3段ある棚の中断に、それぞれ運んできたネットを置いて、やれやれと顔を見合わせた時、オレがネットを乗せた上の段から、突然、ブルーシートが崩れてきた。

 「おわっ、何!」

 「あぶない!」

 オレはなんとか手を上げて、頭の上で落ちてきたシートを受け止めて、飛んできた輝が、後ろからさらに支えてくれた。

 「大丈夫?」

 オレより10センチ近く背が高い輝が、シートを持ち上げて、棚に戻してくれた。

 「あ、ああ、ありがと。びっくりした〜。」

 礼を言いながら、振り向こうとしたら、オレは輝に背中を預けて、輝がオレを抱える形になっていた。

 そして、次の瞬間。

 輝の顔がぐっと近づいてきて、頬と頬が触れるんじゃないかと、思って、オレはビクッと体を離そうとした、その時だった。

 耳を噛まれた。

 オレの右耳を後ろから、輝が噛んだ。

 「な、なに?」

 噛まれた右耳に手をやって、後ろを振り返る、ほんの数秒だったはずなのに、輝はもう、オレから離れて、倉庫の入り口を出たところに立っていた。

 夏の少し前の夕方の日差しが逆光で、輝の姿シルエットになって見えた。

 それでも分かるくらいに輝はキラキラした笑顔でこっちを見ていた。

 「な、なんなの、今の?」

 慌てて追いかけながら、倉庫の扉を閉めて、オレはそれだけ言うのがやっとだった。

 「おまじない。」

 輝がさらに極上の笑顔でそう言った。

 「な、なんの?」

 「ナイショ。今日は一緒に帰れないんだろ?だから。あと、マーキング。」

 「え?」

 そう言った輝はオレを置いてすたすたと部室の方へ行ってしまう。

 思わず立ち尽くしたオレが、ふと上を見ると、そこに田宮がいた。

 3階の化学室のベランダに立って、オレたちを見下ろしてた。

 (え、待って、オレこの後、この状態で、田宮と話すの?)

 この後、研究発表の詰めを30分だけやって帰ろう、と田宮から言われていた。

 田宮にオレと輝の会話が聞こえてたはずはないし、倉庫の中のことが見えたはずもないんだけど、オレはなんだかわからない感情に戸惑っていた。

2025年の投稿は今日が最後。

2026年は1月7日から初めます。

みなさま、良いお年をお迎えくださいね。

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