友だちの条件〜もんじゃ焼き
初めて知ったこと。知らなかった方が良かったかもしれないこと。
でも、知らなきゃ分からなかったこと。
急に近づく2人の距離。
輝は中学時代も今も、間違いなく一軍男子だ。
だから、挫折をあまり知らずにここまできた、と言われても、別に驚かない。そりゃ、いいねぇくらいのことは言いはしたけど。
その輝が最近味わった挫折が、前回、一年の終わりに団体戦のレギュラーに選ばれなかったことだった。
しかも、オレは選ばれたから、かなりショックだった、と輝は話す。
オレに負けた、と思ってショックだったのかと思ったら、そうではなくて、ちょっと複雑な気持ちだったらしい。
でも、中学時代、グングン伸びる身長に体が悲鳴をあげたらしく、輝は一年の終わり頃から、二年の半ばくらいまで半年以上、成長痛で部活を休むしかなかった時期がある。
その間、ぼちぼち伸びていく身長となんとか折り合いをつけて、部活を続けていたオレと、多少の差が出ても仕方ない気もする。まぁ、才能?センス?の話になれば、2人とも微妙なんだけど。
「中学から、3人しか行かない高校で、仲良くなりたいと思っていたのに、なんか、距離が出来たっていうか。いや、違うな。距離を詰められなくなった気がして。」
「なんだよ、それ。別にいいじゃん。そんなの、レギュラーとか関係ないだろ。」
気持ちがわからない訳じゃないけど、そこまでのことか?と思う。
「瑞稀はいいヤツだから、そう言ってくれるけど、そんなヤツばかりじゃないし。レギュラーでもないのにアイツ、いい気になってる、とか、ほら、色々あったから。」
美味そ、とオレが作ったもんじゃ焼きを突きながら、輝が俯く。
そこまで言われて、オレは中学時代のことを思い出す。
何があったか詳しくは知らないけど、輝のこと、「イケメンだと思って、なんでもアリだと思っている。」というウワサが耳に入ってきたことがある。
部活でしか接点がなかったけど、オレは輝がそんなヤツとは思えなくて、「そんなことないだろ。」と笑い飛ばしたことは覚えてる。
「うまいだろ。オレ結構、いけるんだよな、こういうの。」
そう言って、熱々のもんじゃを口に入れた。
「アッツ!」
「ばか、ほら、水。」
「お、サンキュ。」
輝が差し出した水を飲んで、一息ついたオレは言う。
「まあ、中学の時は大変だったかも知れないけど、もうそんなこと気にすんなよ。みずきでいいよ、オレもかがやって呼ぶな。まぁ、友だちなんだし、呼び方なんてどうでもいいと思うけどさ。」
「え?」
目を丸くするってのはこういうことだなってくらい、驚いた顔をされた。まぁ、そんな顔もキレイなんだけど。
「え、なに?ごめん、オレ、なんか変なこと言った?」
「いや、そうじゃなくて。オレ、今、友だちになって欲しいって、そう言うつもりだったから。」
「えぇ?」
今度はオレが驚く番だった。
「オレら、友だちじゃなかったの?」
「え?」と再び輝。
「えぇ?」そして、オレ。
友だちじゃなかったら、なんだったの?というオレの問いに、輝が「部活仲間?」と答え、その違いを簡潔に述べよ!と言うと。
「名前で呼び合ってない。登下校、一緒じゃない。あと…もんじゃを一緒に食ったことがない。」
と、即答してきたのには、またまた驚いた。
「なんだよ、その基準。」
腹を抱えて笑うオレに、輝は焦って説明しようとするが、それをオレが制する。
「もういいって、わかった。じゃ、もう今日、今からは友だちってことでいい?あと、明日、朝、駅で待ち合わせて、一緒に朝練行こ。それでいい?」
バタバタと畳み掛けるように言ったオレの言葉に、輝は何も言わずに照れたような顔をして頷いた。
なんだろう、この感じ。いつものサバサバした物言いをしてくる輝と、今日はなんだか違ってる。
そんなことを考えて、オレが黙っていると、輝が言った。
「いまもさ、オレ、バカって言っただろ?水、渡すとき。あれ、実は口ぐせで。気をつけていても、ちょっとした拍子に出ちゃうんだよな。それを聞きつけて、いい気になってるって、言われたこともあって。」
でも、瑞稀は一度もそれに引っかかったことがない、と、輝はちょっと嬉しそうに笑った。
そんなことで?と言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
そうだ。ホントにそんなことがいっぱいあったんだと思う。
そんなことを、そんなことって言えないくらいに。
「だから、好きなんだ。」
これもまた、唐突に言われて、めんくらいながらも、オレは。
「そか、ありがと。あ、ウチの親父、会社員なんだけど、技術職っていうの?早い話、職人でさ、昔は口より先に手が出るってタイプだったらしいんだけど、今どきはそれ、マズいじゃん?で、我慢する時そのかわりに、すぐにバカって。だから、慣れてるんだな、きっと。」
輝の言葉を流したつもりはなかった。でも、あまり引っかかってもいなかったんだ。
「へぇ。そうなんだ。」
ここでもまた、嬉しそうに輝が笑った。




