団欒〜穏やかな混乱
ゆっくりとした波は、揺れを感じさせないけれど、大きく何かを動かす。穏やかな時間の中でも、緩かに混乱することで、何かが動きだす。
※まぁまぁ、長い、メシテロ的回、です。
希良の言葉に輝がまた、オレの皿に上ロースを乗せながら、頷いた。
「模試かー。それじゃ仕方ないけど、残念だったな、みずきのハイパースマッシュ、見られなくて。」
「え?何それ?見たかったんだけど。」
「いや、何言ってんの、かがや。」
ハイパーて、そんなの打った記憶ありませんけど。
「あー、あれね。うん、あのスマッシュは確かにハイパーだった。あの3年生、結局、優勝したけど、あの一本はスカッとしたよね!」
唯一、この中で客席から見ていたまち姉までもそんなことを言うもんだから、他のみんなが口々に、見たかったと騒ぎ出したんだけど。
「たく兄?どうかした?」
たく兄だけが、難しい顔をして、オレの方を見ていた。
やっぱり何かオレ、おかしい?と、聞こうとしたその時、急に真面目な顔で、たく兄が話し出した。
「みー助、悪いが兄ちゃんはお前のハイパースマッシュより、気になることがある。」
そう言って、オレの後ろを指差した。
振り向くと、そこには『特製 壺入り ドラゴンカルビ』と、書かれた紙がなんとも魅惑的に貼られていた。
「特製?」と、先ず輝が食いつく。
「壺入り?」とオレが続く。
「え、何、ドラゴンカルビて。」と、希良が図ったように締めた。
「一つ三千円だ。オレのバイト代で自腹をきるか、ばっくれて、スポンサーに回すか。」
それは確かに、大きな問題だ。
でも、オレら高校生男子3人、もうすっかり食べる口になっていた。
「食いたい、よな。」
「それは…一つの量による。オレたちが満足するには、いくつ必要か、だな。」
冷静に考えたいち兄が、男子全員を代表して、店員さんに確認してくれる。
結果、男子5人で3つあれば満足出来るとのこと。
もうこの時点で、自腹の選択肢は消えて、暗黙の了解で、スポンサーに回すことがきまっていた。
「うま!」と、オレ。
「何、これ。ヤバ。」と、希良。
「すげ〜。」最後に、輝。
美味いものの前では、誰もがボキャブラリーを失うことが証明され、それを食べ終えたところで、今度はまち姉がみんなに声をかけた。
「まだ食べられる?そのカルビは別として、頼んだコースは全部来たんだけど、追加しても大丈夫だよ。」
そう言われて、男子5人が顔を見合わせる。
「まだいけるな。」
たく兄がオレたちに目配せして、そう言った。
「すみません、オレもまだ行けます。」
「すみません、オレも。」
輝と希良が遠慮がちに言った。
「みーは?もうお腹いっぱい?」
ちい姉にそういわれたオレは、なんだか気が緩んでいたのか、思わずホンネが出てしまう。
「オレ、一旦、アイス食いたい。」
そんなことを言ってしまって、全員に笑われた。
「いいね、いつものみずきって感じ。」
希良がそう言って、輝もみんなも、それに頷く。
途中に甘いものを挟みたくなるのは、昔からのクセだ。行儀が悪いと親には怒られるが、今はみんなが笑って、それを、他にも色々、受け止めてくれている感じがして、なんだか、すごく心地良い時間だった。
そこから追加で上ロースやらハラミやらを追加して、やっとオレも含めた男子全員の胃袋が満たされた。
「そう言えば、きら、これから塾、どうするの?オレら、この大会で部活やめて、一応、K塾行こうかって。」
締めのカルビクッパを食べながら、輝が聞いた。
「あー、うん、今のところは高校受験の時からずっと行ってるんだけど、やっぱりそろそろ大学受験を考えて、予備校に変わろうって思ってて。」
「お、だったら、3人揃って、K塾だな。」
いち兄が会話に割って入ってきた。
「理想はそうなんですけど。」
珍しく、希良が弱気なことを言う。
「何、言ってんだよ。3人とも楽勝だろ?」
たく兄が希良の背中をポンッと叩いた。
「そうそう。ほら、ちょうど3部もらってきたから。」
いち兄がリュックから封筒を3つ、取り出して、オレたちに一部ずつ渡した。
「どしたの、これ?」
「近く通って、時間あったから、ちょっとな。高校の時の後輩がバイトしてるって聞いてたし。オレが世話になった講師の先生もまだいて。3人の話したら、これくれて。」
「え、オレの分まで?」
希良が戸惑いながら、封筒を覗き込んだ。
「いや、そりゃ3人、1セットだよな、みー助?」
「あ、うん、きら、嫌じゃなかったら、今度、一緒に見学いかない?」
たく兄に言われて、オレが遠慮がちに希良を誘った。
「な、かがや。」
「うん、そうだな。行こうぜ、きら。」
「来週の土曜日だったら、オレが一緒に行けるけど、どう?」
いち兄の言葉に、オレたち3人が頷いて、予定が決まった。
ぱんぱんになった腹を抱えて、みんなが口々に美味かった、さすがだな、などと言いながら、外に出た。
もう夜の8時近いというのに、外はまだまだ暑い。
「あ、あのさ。」
駐車場に向かう途中で、みんなから少し遅れて歩いていたオレは、後ろから、希良に声をかけた。
「ん?どうした?」
「う、うん。あの、オレ、さっきから、きらって呼んでるよな。」
「あ、ああ。そうだな。」
希良が立ち止まって、オレたちは向き合った。
「それで、大丈夫?嫌、じゃない?」
そう言ったオレが、きっと不安そうな顔をしていたんだと思う。
答える前に、希良の手が伸びて、オレの顔を撫でた。
「ぜんぜん、大丈夫。みずきが呼びたい時に、呼びたいように呼んで。あ、でも、オレはみずきって呼びたいんだけど、良い?」
オレの頬をなでながら、ちょっとだけ右に首を傾げて、そんな風に言われて。
「あ、うん、それはぜんぜん、いいけど。」
なんか照れて、オレは下を向いてしまった。
なんなんだ?この感じ。
さっきまでの混乱は、今は治ってるけど、なんか違う。ドキドキする。
「おーい、そこの2人、いちゃついてないで、帰るぞ。」
たく兄によばれて、オレたちは慌てて離れた。
帰りはまち姉の車と、いち兄の車の2台に別れて乗ることになるんだけど。
「じゃ、高校生3人、オレの車に乗って。あとはまちの方な。」
「え?それ、おかしくない?不自然。」
いち兄がそう言うと、まち姉が意義を唱える。
「匠が以知の車、みーと千枝が私の方。きらくんとかがやくんをそれぞれ送るってのが普通でしょ?」
「あ、でも、それなら…。」
輝が何か言おうとするのを、いち兄が止めた。
「わかってないな。今日は、この3人、一緒がいいの。ってか、2人とも、みーと一緒がいいんだろ?」
え、何?そういうことなの?
オレがわけわからん、と思っている間に、オレたち3人はいち兄の車の後部座席に積み込まれる。
助手席にたく兄が乗って、こっちの車は男子部になった。
「なんで?こんな…?」
後部座席の真ん中、例によって、イケメン2人に挟まれるオレ。
「狭い?みずき、大丈夫?」
「もっとこっち、オレの方、寄っていいから。」
2人がそれぞれ、オレを引き寄せようとしてくる。
「ううん、大丈夫。ありがと。」
オレの荷物はまち姉の車に積んだから、オレは手ぶらで、いや、暑いから、タオルだけ一枚握って、ただ座っているだけだった。
「ヨシ、じゃあ行くぞ。腹ごなしに、夜のドライブだな。」
そう言って、いち兄は車を出して、まず一番遠い希良の家を目指す。
希良の家につくと、いち兄が家の人に挨拶すると言って、降りて行った。それをみて、オレも希良と一緒に車からおりた。
「すみませんでした。希良くん、急にお誘いした上に、遅くまで引き留めてしまって。」
いち兄が希良のお母さんに丁寧に頭を下げた。
「こんばんは。お久しぶりです。すみません、オレに付き合ってもらっちゃって。」
オレがそう言って、並んで頭を下げた。
「とんでもない、こちらこそ、なんだかご馳走になっちゃったみたいで。良かったら、これ、いただきものなんだけど、持って帰って。みずきくん、甘いもの好きだったわよね。」
希良のお母さんがお菓子の包みらしいものをオレに差し出して、オレはいち兄の顔を見てから、それを受け取った。
「すみません、いただきます。」
「いいのよ。でも、ほんと、久しぶりよね。おばさん、嬉しいわ。きてくれて。またいつでも遊びに来てね。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「じゃ、みずき、また学校で。ご馳走様でしたって、家の人に言ってね。」
何度か頭を下げて、振り向くと、輝とたく兄も車の外にいて、同じように頭を下げていた。
次に行った輝の家でも、似たようなやり取りがあって、なんと、そこでは仕事から帰ったばかりらしい、輝のお兄さんがスーツで出てきた。
「おう、以知、みーくんも、久しぶり。元気そうで。」
「おー慧!久しぶり〜。悪かったな。輝くん、遅くなって。」
そうだった。いち兄と輝のお兄さんは高校の同級生なのだ。
輝と希良のコンビには敵わないけど、この2人も並ぶと迫力のイケメンコンビだ。
「いや、こっちこそ、送ってもらっちゃって。匠も久しぶり。オレも知ってたら、仕事、早く終わらせたのに。混ざりたかったよ。その宴。」
お兄さん、慧さんがオレの方にきて、頭をくしゃくしゃっとして、撫でられた。
「だな、また今度、声かけるし。飲もうぜ。」
「うん、そうして。みーくん、またな。またウチにおいで。」
「みずき、今日はほんと、お疲れ様。ありがとな。ゆっくり休んで。」
「ホントにな。かがやもお疲れ様。色々、ありがと。ゆっくり休んで。」
色々あった、あり過ぎて、オレの心と頭の中に混乱を残して、心地よい体の疲れと共に、1日が終わろうとしていた。
春休みスペシャルwwでの初の日曜日投稿です。
書いていて、焼き肉が食べたくなった回ですww
個人的な趣味?ですが、高校生くらいの男子が、口いっぱいに頬張って、ご飯を食べてるのって、お行儀さておき、好きです〜ww




