糸口〜混乱と兆し
初めはちょっとした綻び?それともちょっとした隙間?
そんな偶然にもならないくらいの、少しの事が、モノゴトを動かすことがある。
けれど、その先に進むには、ある種の意思が必要になる。
※一気には進みませんが、始まりです。
市の大会は毎年、夏休みの一週目から始まる。
大会当日、オレと輝はまち姉の車で、少し離れた会場まで運んでもらった。
団体戦のメンバーは先週、発表されてて、輝は2戦目のダブルスに先輩と組んで、オレは3戦目のシングルスにそれぞれ出場することが決まっていた。
「緊張してる?」
いつもより口数が少なくて、まち姉が話しかけても「はい」しか言わない輝を、オレの方が心配して声をかけた。
「うん、ちょっと。」
このところ、というか、いつもは色々、オレの方が心配される側なので、ちょっと新鮮な感じがして、輝が可愛く感じられる。
「ここまで頑張って来たんだから、2人とも、大丈夫。
試合終わったら、帰り、何か美味しいもの食べて帰ろうね。結果に関わらず。」
「結果に関わらずっての、やめてよね。オレたちは勝つつもりなんだから!」
まち姉の励ましの言葉に、オレは意義を唱える。
まぁ、ホントのところ、勝てたとして、一回戦突破がせいぜいなのは、わかっているんだけど。
「はいはい、それは失礼しました。じゃ、優勝したら、焼肉奢るから、頑張っておいで!」
「え、焼肉?」
「いや、優勝はさすがに…。」
オレが焼肉に、輝が優勝に、それぞれ引っかかって、お互い顔を見合わせて、笑った。
それで輝の緊張が解れたのかもしれない。
一回戦、輝と先輩のペアは快勝して、その勢いをもらったオレも勝って、なんと、目標だった一回戦突破を成し遂げてしまった。
二回戦の前、暑さを避けた涼しい控え室で、2人並んで弁当を食べてた時だった。
「樺沢、保里!」
「お、山田、久しぶり。」
同じ中学でキャプテンをやっていて、テニスの強豪校に行った山田が、オレたちに声をかけてきた。
「久しぶり〜。なんだよ、お前ら、いつの間にそんな強くなって。S校が勝ったって、客席、大騒ぎだぞ。」
「やめろよ。お前が言うと、皮肉にしか聞こえない。」
「いや、マジでそう。オレなんて、まぐれと先輩のおかげだし。」
謙遜なんていいもんじゃなくて、オレたちは事実を言ったまでだった。
「まぁ、それでも、勝ったんだからさ。もっと喜べよ。あ、でも、ウチと当たる前に負けてくれよな。万が一でも、S校に負けたら、オレらのプライドがズタズタだ。」
「善処しまーす。」
オレがふざけて言うと、山田が笑いながら、輝の方をみて、思い出したように言った。
「そういえば、保里、この前、田宮と駅前のフレンドにいただろ。」
「え?山田、いたの?」
思いがけない話に、輝が驚いた声をあげたが、それ以上にオレが驚いた。
「いやいや、オレはいなかったけど。ってか、いたらさすがに声かけるし。」
「だよな。」
「妹の友達がいたらしくて、久しぶりに「きらきら」が揃ってるとこ見られたって、大騒ぎしてた。」
「あー。」
輝がなんとも言えない顔をして、なんとも言えない声を出した。
「相変わらず、すげえよな。そう言えば、樺沢は一緒じゃなかったらしいな。珍しく。」
と、山田がそこまで言った時、向こうの方から、山田を呼ぶ声がして、「お、ごめん。またな。」と、話の途中で行ってしまった。
残されたオレたちの間には、何故か気まずい空気が流れていた。
「えっと、かがや、田宮と行ったんだ。」
その空気を打ち消そうと、オレが口を開く。
「あー、うん。先週?ほら、先生に呼ばれて、みずきに先に帰ってもらった日。たまたま田宮と駅前で一緒になって、なんか暑かったから。それで、アイスくった。」
別にそれが悪いことじゃないし、オレがどうこう言うことじゃないんだけど。
「オレも一緒に行きたかったな。」気がついた時にはもう、そんな言葉が口から出ていた。
「え?」
「だって、山田も言ってたじゃん。オレが一緒じゃないの、珍しいって。前は良く…。」
続けて出た言葉に、自分でも驚いた。前は?良く?って、何のこと?
「え、今、なんて?」
輝が身を乗り出して、聞き返してきた。
その目を見たら、またどこかから、考えてもいなかった言葉が出てきた。
「きらとかがやとオレの3人で、寄り道、したじゃん。よくアイス食いに行ったじゃん。」
「みずき?」
輝の整った顔立ちが、不思議にゆがんだ。
「あれ?オレ、何言って…?ごめん、かがや、おかしいな。なんだ?何、言って?」
自分で、自分が言ったことがワケが分からず、オレは混乱していた。
「えっと、うん、大丈夫。ちょっと、驚いたけど。大丈夫。」
オレから目を逸らす輝の様子に、ますます混乱してしまい、手元にあった水筒から、麦茶をゴクゴク飲んで、なんとか自分を落ち着かせようとした。
「まずは、次の試合に集中だからな。」
それを見て、輝がオレの肩を軽く叩いた。
「おう、そうだな、なんとかもう一つ勝ちたいよな。」
そう言って、もう一度、麦茶を飲んだ。
結局、善戦空しく、オレたちは二回戦で、ベスト8常連の学校に敗れた。
それでも、輝のペアとオレはなんとか勝ったので、2人とも悔いはない大会になった。
団体戦の後、オレはシングルスに出たんだけど、三回戦で優勝候補の3年生と当たり、こちらも砕け散ってしまった。
「2人とも、お疲れ様!良くやった、頑張ったね!」
全てを終えて、出てきたオレたちを、応援に来てくれた家族が迎えてくれた。
さすがに平日の昼間、両父親はいなかったが、輝とオレの母親、輝のお姉さん(確か大学生だったはず)まち姉、さらに、いち兄、たく兄のとこの叔母さんまで、暑い中、応援してくれてたらしい。
「みーちゃん、すごかったよ!」
叔母さんが手放しで喜んでくれる。
「みずきくんも輝も、頑張ったね。」
「あ、ありがとうございます。えっと、ご無沙汰してます。」
輝のお母さんに声をかけられて、オレがそう挨拶すると、何故か一瞬、空気が止まった気がした。
「あ、やだ、みずきくん、そんな他人行儀な。おばさんのこと覚えてくれてて嬉しいわ。」
「そりゃ、覚えてるわよね、みずき。」
良くわからないが、母親にそう言われて、オレはぎこちない笑顔で頷くしかなかった。
「でも、みーくん、あとちょっとだったよね。相手の3年生、あんな体格のいい人相手にすごかったよ。」
輝のお姉さんが、そう、オレの健闘を称えてくれて、久しぶりに会ったけど、相変わらず、美人だなぁと思いつつ、お礼を言おうとしたら、その前に輝がオレに向かって、
「みずき、ウチの姉ちゃん。」
と、何故か紹介してきた。
「あ、うん、お久しぶりです。今日は暑いのに、ありがとうございます。」
オレの言葉に輝のお姉さんがさっきのお母さんよりも驚いた声を上げた。
「やだ、みーくん、覚えててくれたの?」
「え、そりゃ、こんなキレイ人、忘れる訳ないです。」
お世辞ではなくて、本気でそう思ったんだけど。
「ちょっと、みーったら、なに生意気なこと言ってんの。」
「ホントに、この子ったら。」
まち姉と母親に、散々からかわれてしまった。
でも、マジで輝のお姉さんはモデルさんかと思うくらいの美人で、お姉さんの上にいるお兄さんも、確かイケメンだったと記憶している。
保里家の三兄弟は美形揃いなのだ。
その後、オレと輝はまち姉に連れられて、祝勝会と銘打った焼肉をご馳走になることになった。
母親2人と叔母さん、残念ながら、お姉さんはここでお別れすることになった。
「みずきくん、またウチにも遊びに来てね。里沙子もいる時に。」
輝のお母さんに、そう言われて、さすがにオレも恥ずかしくなって、
「あ、はい。ありがとうございます。」
と言うのが精いっぱいだった。
「みずき、真っ赤だよ。」
輝に耳元で囁かれて、オレは顔が熱くなって、さらに真っ赤になった気がした。
やっと!やっとここまで来ました〜。
とは言え、この後、まぁ色々です。
BL要素も段々と強くなるはずなので、ご期待いただければ、嬉しいです。




