輝と希良〜ある種の告白と傷
思いは形がなくて、捕まえることができない。
例え捕まえても、それを留めることは難しい。
けれど、それは必ず、そこにあって、すべてを動かすのだ。
※またまた、イケメン目線の回です。今回も展開の都合上、少しボリュームがあります。お付き合いよろしくお願いします。
「すみませんでした。オレのせいで。」
車が出発して、すぐに、オレはまち姉に謝った。久しぶりに会って、そんなことを言わなきゃならないのは、辛かったけど、言わずにいられなかった。
「何いってるの。かがやくんのせいじゃないよ。それに、いつもみずきのこと助けてくれてありがとうね。」
まち姉は優しい声でそう言うと、左手をハンドルから離して、オレの腕をぽんぽんと撫でたてくれた。
「それより、かがやくんは大丈夫?ちょっと、心配なんだけど。」
その言葉に、オレは答えることが出来ず、下を向いてしまった。
「良かったら、ちょっと、話そうか。」
そう言って、まち姉は近くのコンビニの駐車場に車を停めた。
「ごめんなさい、オレ…。」
「うん、辛かったよね。ごめんね、みーのせいで。」
「みずきのせいじゃないです。でも…」
まち姉が背中を撫でてくれる、その優しさに、オレは堪えきれずに泣き出してしまった。
「なんでオレはダメなんだろう。なんで、郡司はそのままなのに、オレは…。やっとまた、友だちになったのに。」
溢れ出したものはもう止められなかなった。
「なんでみずきはオレとのこと、忘れちゃったんだろ…。」
膝の上においた両手を強く握り締めて、一番言いたかったことを声に出してしまったオレは、もう涙を止めることが出来なかった。
「ホントになんでだろうね。多分、みずきにも、わからないんだと思うよ。でもね。」
まち姉が肩を抱いて、頭を撫でてくれる。
「今日、2人を、君とみーを見ててわかったのは、みーはかがやくんのことが大好きだよ。それは前と何も変わってないと思う。」
「ホントに?ホントにそう思いますか?」
「もちろんだよ。ほら、みー、大丈夫って言ってたけど、さっき全然ご飯食べられなかったでしょう。いつもなら、ああいう時はつらそうにして、すぐに席立ってしまうんだけど、今日は嬉しそうに君が食べるのを見てたし、最後の方、ちょっと食べてたでしょ。かがやくんの話につられたみたいに、ホントに楽しそうで。ああいうの、初めてだったから。みーがああなってから。」
そういえば、と、思い出して、顔を上げた。
「それに、千枝がみーに、君と話しててもう平気なのかって聞いた時も、そんなのに平気に決まってる、かがやはオレの、って、珍しく強い口調で言い返したんだって。」
「え?それって。」
「忘れてないんだよ。かがやくんのことを大好きだったってこと。ちゃんとどこかで覚えているのよ。」
オレの…なんて言いたかったんだろう。
友だち?
いや、違うな。言葉を探していたんだと思う。
前にも同じようなことがあった。
そうだ、あれは郡司に聞かれたんだ。
「輝はお前のなんなんだよ。」って。その時も同じように、オレの…で止まってた。
そんなことを思いだしたら、今度は違う涙が出てきそうになった。
「そういえば、きらくんも元気みたいだね、」
まち姉が背中撫でてくれながら、言った。
「あ、はい。みずき、なんか言ってました?」
「なんか、発表会?でペアになったって。同じ中学だけど、こういうのは初めてで、湖南病院の一人息子で、理系に強いハイスペックイケメンなんだって話してくれて。」
まち姉は、最初、おかしくてたまらないという口調だった。でも。
「それを、初めて聞くみたいに、千枝と2人で、ヘェ〜って言いながら、聞いてたのよ。」
仕方ないよね、と言う横顔は少しだけ辛そうだった。
そして、その日、自分の部屋で1人になってから、オレは久しぶりに希良にメッセージを送った。
話したいことがあるから、明日の放課後、学校の図書館で会いたいって書いた。
希良からは、すぐに返信がきた。
「わかった。」と一言だけ。
次の日の放課後、オレは瑞稀に先生に呼ばれているから、今日は一緒に帰れない、と嘘をついて、希良に会うために図書館に向かった。
人のいない、蔵書庫の前にいくと、先に希良が待っていた。
「ごめんな、待たせて。」
「いや、そんな待ってない。」
素っ気無い言い方だが、いつもと違って、落ち着かない様子だった。
「何かあった?」
「うん、きら、この前、郡司に会ったって言ってたよな。彼女が出来たって、浮かれてたって。」
「ああ、うん。」
「その時、彼女のこと、聞かなかった?」
「あー、うん、聞いてない。興味なかったし。何?郡司の彼女がなんなの?」
ここまで呼び出しておきながら、今になって、オレは話すことを躊躇っていた。
聞いたら、きっと希良も普通じゃいられないと思う。でも、やっぱり言わないわけにはいかなかった。
「郡司の彼女、柳田れいか、なんだってさ。」
「え?今、なんて?」
オレと全く同じ反応。声のトーンまで一緒だった。
「だよな、そうなるよな。そう、あの、柳田れいかだって。しかもこれ、みずきから聞いたんだぜ、オレ。」
「なんだよ、それ。どういうこと?で、みずきは?みずきは大丈夫なのか。」
「大丈夫。みずきはほら、幸い?何も覚えていないから。それで、オレに同じクラスだったから覚えているか?ってきいてきたんだ。オレ、その時、今のお前と全く同じ反応して、みずきを動揺させちゃって。それで、アイツ具合悪くなって…。」
その時のことを思い出して、オレは下を向いた。
「いや、そうなるよ。お前は悪くない。」
オレが自分を責めるみたいな言い方したからか、希良はすぐにそう言って、慰めてくれた。
「ありがと…。」
「郡司のヤツ、どういうつもりだよ。なんで、そんなこと、出来るんだ…知ってるはずなのに。」
オレも希良も、ホントは郡司を呼び出して、問い詰めたい思いはあった。
でも、そんなことしても意味がないって、オレたちはよく分かってた。だから、そこでしばらくの間、口々に郡司を罵ってはみたが、それ以上にはならずに解散することにした。
色んなことがあって以来、オレと希良は一緒に行動しないことにしていた。
理由は色々だけど、とにかく、目立ちたくなかったし、自分たちと瑞稀が過ごした日々を思い出すのがツラいというか事もあった。
この時は希良より先にオレが図書館を出ることにして、ダミーで借りることにした本を持って、貸出しカウンターに近づいた時だった。
「あ、あの、保里先輩…!」
知らない女子2人に呼び止められた。
一応、図書館だという意識はあるのか、控えめな声だったけど、はっきりと意思の強さを感じるトーンだった。
「はい?何?」
降り向いたときに、視線の端に希良がいるのがわかって、その事にちょっと緊張した。
「すみません、ちょっとだけ、いいでしょうか。」
ああ、こういうのは久しぶりだけど、なんとなく彼女たちの目的は感じることが出来た。
ここは軽く流したいところだけど、ちゃんと対処しないとって思った。
「ああ、うん、ちょっとこれ、借りちゃうから、外で待っててくれる?」
「は、はい!」
本を借り終えて図書館から出ると、すぐの廊下に2人が待っていた。
後ろから希良が付いてきていることを感じていたオレは、彼女たちの前を通り過ぎて、その先の柱の影まで行ってから、振り返った。
そこなら、希良がこっちの様子を伺うことができるし、オレから希良を見ることもできる。
「お待たせ。何かな?」
冷たすぎず、優し過ぎないように、きっちりと距離を取って話しかけた。
2人は互いの顔を見て、どちらが話すか、決めかねているようだったが、最初に声をかけてきた子がまた、話し出した。
「あ、あの、今度の大会、保里先輩、初レギュラーおめでとうございます。」
この学校の生徒らしい、礼儀正しい、硬めの言葉。
良く見ると、その子には見覚えがあった。確か、同じテニス部の一年生だ。
「ありがとう。まぁ、団体戦だからね。君、ウチの部の一年生だよね?」
「は、はい!」
オレの言葉に、自分が認識されていたことを知って、急に緊張したようだ。
「それで、君は?」
もう1人の方へ体ごと向きをかえて、声をかける。
「あ、あの、私はチア部で…!」
「わ、私たち、保里先輩のファンで!」と、テニス部の子が言うと、
「私たちだけじゃなくて、テニス部にも、チア部にもたくさんいるんです、先輩を応援したい子たち。」
チア部の子が続けた。
「そうなんだ。それはありがとう。」
と、一応お礼は言っておく。
「そ、それで、私たち、来週の大会で、先輩を応援したいと思っていて。」と、チア部の子。
「先輩にお話ししてからがいいと思ったんですけど、保里先輩、いつも樺沢先輩と一緒で、なかなかお話しできなくて。」
テニス部の子が言った、その言葉はオレの地雷を踏んだ。
「えっと、それって…?」
どういう意味なのか、瑞稀が邪魔だとでも言いたいのか?と、キツく言い返しそうになった、その時。
「お、なんだよ、保里、一年生に囲まれて。さすがっすね〜。」
ワザと茶化しながら、希良が近づいてきた。
「きゃ。」
「た、田宮先輩!」
予想してなかった希良の登場に、2人が動揺する。
それを見て、激しかけたオレの気持ちが、みるみる静まっていく。
「からかうなよ、田宮。一年生がかわいそうだろ。」
心の中では希良に礼を言いながら、自分を落ち着かせた。それから。
「えっと、ごめんね、気持ちは嬉しいけど、そういうのは困るんだ。オレは団体戦に出るかどうかもわからないし、3年の先輩たちもいるし、悪いけど、やめてもらえるかな。」
なんとか感情を出さずに、言葉で彼女たちを遠ざけた。
希良はその間にオレたちの横を通り過ぎて、廊下の角を曲がってしまった。
「ご迷惑ですか?」
チアの子が、悲しそうに言う。
「そうだね。申し訳ないけど、はっきり言うと、そういうことかな。良かったら、オレを応援とかじゃなくて、大会を見にきてくれたら嬉しいよ。」
ホントはそんなこともして欲しくない。でも、ここで引き下がってもらうために、仕方なく言った。
2人はちょっとの間、顔を見合わせて、すぐに納得したように頷き合い、揃ってオレを見てきた。
「わかりました!」
「ご迷惑にならないように、応援します!」
さすが、偏差値高い系女子、理解が早くて助かる。
「ありがとう。それじゃ、またね。」
愛想よくならないように、でも冷たくならないように、とにかく、彼女たちの心になんの印象も残らないことを願って、フラットな笑顔で言うと、オレは2人を残して、その場を離れた。
希良の後を追うように廊下を曲がると、少し先の柱の影に、希良がいるのがわかった。オレのことを心配して、待っててくれたんだ。
でも、そこで立ち止まらず、そのまま突き当たりの非常階段の扉を開けて、外に出る。
階段を少し降りて、座り込んだ。しばらくすると、扉が開いて、希良が出てきた。
「お疲れ様。大丈夫?」
オレの一、二段上に腰を下ろした希良が、上から頭をポンポンと叩いてきた。
「だから、レギュラーになんて、なりたくなかったんだ。」
「だよな。わかるよ。でも、みずきはお前がレギュラーになったこと、すげえ、喜んでたぜ。」
「知ってる。一緒に勝ちたいって言われて、オレも嬉しくて。なのに…。」
「でも、かがやはうまくやったよ。」
希良の手がオレの肩を掴んだ。
「ありがとう…。きらがいてくれて、ホントに良かった。」
肩に置かれた掌から、じわじわと暖かくなってきて、そこからオレの気持ちも静まってくる。
その時、急に希良がオレの後ろに位置を変えてきて、肩から手が伸びて、後ろから抱きしめられた。
「あ…。」
「みずきじゃなくて、ごめんな。」
そう言って希良がオレの左耳にキスした。
「ううん、ありがと。」
お返しに、顔の前に回された希良の手にキスした。
ちょっとの間、2人、そのままでじっとしていた。
そのうち、なんかじわじわきて、ヤバいと、オレの方から離れた。
「ちょっと、寄ってく?どっか。アイスでも食べるか。」
「いいの?」
珍しく、希良が誘ってくれたのが嬉しくて、オレは即答していた。
「うん。じゃ、先に行ってる。店でな。」
「うん。あとで。」
そうは言っても、一緒に帰ることにはまだ臆病なオレたちだった。
やっと少しですが、進めることが出来たでしょうか?
でもでも、まだぐるぐる、同じところを回るかもしれませんが〜ww
なんとか前に進めたい!




