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逆流〜冷たさと暖かさと

心はどこにあるのかわからないけれど、心が痛む時、カラダの色んなところが痛むことがある。

それはきっと、心の震えに、カラダがついてこられないからかもしれない。心が揺れる青春期、それは誰のココロとカラダに訪れる。

※話の中でフラッシュバックを思わせる表現があります。苦手な方はご注意ください。また今回、話の展開の都合上、いつもよりボリュームがあります。よろしければお付き合いお願いします。

「え?それ、ガチ?」

 先に改札を抜けて階段を登りかけた輝が、驚いて振り向くと、階段から降りてきた。

 改札前で待ち合わせてすぐに、オレは昨日、いち兄と話したことを輝に報告した。

 一緒の予備校に通うことが出来るかもしれないと。

「うん、そう言われた。だから、なんとかなるかも。オレ、頑張るし。」

 そう言ったオレが、多分、過去一、嬉しそうな顔していたんだと思う。

 輝が俺の肩に腕を回して、グイグイ抱き寄せてきた。

「めっちゃ嬉しい。じゃ、今度、一緒に見学行って、申し込みしようぜ。」

「うん。よろしくな。」

 そんな風にされて、ちょっと照れくさかったけど、そう言って、頷いた。

 

 市の大会が目前に迫ったその日、季節はもうすっかり真夏で、灼熱のテニスコートは逃げ場がない。

 朝早く始めて、午前中で切り上げるのも、熱中症対策なんだけど、終わった時にはもう全員、ぐったりしてる。

 そんな状態で、部活を終えたオレたちは日陰がひとかけらもない学校前の坂をダラダラと下り、電車に乗って、地元の駅前にあるファミレスまでたどり着いた。

「あちぃ〜なんだよこれ、さっき着替えたのに、もう汗だく。」

 輝が制服のポロシャツの裾をパタパタして、風を入れてる。オレも手に持ったハンディファンを風量Maxにしていた。

 ランチタイムだというのに、ファミレスはそこまで混んでなくて、オレたちは奥まった窓際の席に2人で広々、座ることが出来た。みんな、出かけるのもイヤになる暑さってことだよな。

「そう言えば、かがや、郡司って覚えてる?」

 昼ごはんとアイスも食べて満足して、2人でそのまま涼しいファミレスで少し勉強しようかと、参考書と問題集を広げようとしていた時だった。

 ふと、オレはここしばらく、話したいと思いながら、ずっと忘れてたことを思い出した。

「え、ああ、みずきが小学校から一緒のヤツだよな。」

「そう、そいつがさ、この前、っていっても、試験前に家にきて。報告があるとか言うから、何かと思ったら、彼女が出来たって。」

「えー、そっか。まー夏休み前?あるあるか。」

 そう言ってはいるけど、どう見ても、輝がこの話題に興味ないのがわかる。だから、そこでやめておけば良かったんだけど。

「その彼女、同じ二中で、3年の時、かがやと同じ3組だったんだ。柳田さんって覚えてる?オレ、全然記憶無くて。」

 輝の横顔が、一瞬で凍りついたように見えた。

「今、なんて?」

「え、だから、郡司の彼女が…。」

「柳田って、柳田れいか?」

 輝の声が、聞いたことのないトーンで、低く、冷たく、オレの耳に響いてきた。

 なんだろう。その声に、オレは胃の奥を掴まれるようなイヤな感じがして、思わずビクッと体を縮めた。

 そうだ、この前、宮﨑に向かって怒っていた、希良の声とよく似ているんだ。

「あ、ごめん、変な声出しちゃって。うん、覚えてるよ。ブラバンの子だよな。まあまあ可愛い。」

 オレの様子に驚いたのか、輝の声が急に、いつものトーンに戻った。

「うん、そう。」

 平静を装って、なんとか返事はしたけど、気持ち悪いのが治らない。

 ちょっと、ごめん、と断って、トイレに立った。

 吐くことはなかったけど、どうしても気持ち悪いのが治らず、個室に入って、しゃがみ込んでしまった。

 なんだろう、これ。

 どうしよう。

 きっと輝が心配してる。

 早く戻らないと。

 そんな風に思うほど、立ち上がるのも辛くなって、耳鳴りがしてきた。

「みずき?大丈夫?みずき?開けられる?」

 やっぱり輝が心配して、見にきた。

 さっきとまったく違う、いつもの優しくて柔らかい、輝の声が聞こえる。

 それに応えようとオレは、なんとか立ち上がって、ドアを開けた。

 鍵を開けた瞬間、輝がオレを引き摺り出すように抱きしめてきた。

「か、かがや?」

「ごめん、オレ、なんか感じ悪かったよな。それが嫌だったんだろ?ごめんな。」

 オレよりも、10センチ近く背が高い輝の胸に抱えられて、背中を優しく、何度も何度も撫でられた。

 撫でられる度に輝の手の熱が体の奥に伝わって、さっきまでの胃の奥が冷たくなるような感覚が、急激に、楽になってくる。

「そ、そんなんじゃないよ。たぶん…。なんか急に胃が気持ち悪くなったんだ。かがやのせいじゃない。」

 オレの言葉に、輝は抱きしめていた腕を緩めて、顔を覗き込んできた。

「ホントに?オレのこと、嫌いになってない?」

「そんな、嫌いになるはずないだろ。」

「ホントに?まだ顔色良くないけど…大丈夫?」

 背中を撫でていた輝の手が、今度はオレの頬に触れて、また優しく撫でてくる。何度も、ホントに、と確かめながら。

 その輝の手が熱くて、オレは自分の顔が冷たいことに気がついた。

「かがやの手、熱いな。」

 そう言って、自分から輝の手に頬を擦り寄せていた。

 何やってんだ、と思うけど、そうしてると落ち着くし、ゆっくり、自分が戻ってくるような気がする。

 輝は何も言わずにそのまま、オレの頬と首の後ろに手を添えて、額をくっつけて…支えてくれていた。

「あ、ごめん…もう大丈夫。ありがと。」

 しばらくして、輝から離れようとした。

 気持ち悪いのはもう治っていたし、耳鳴りも治って、顔にも頬に熱が戻ってきた気がした。

 でも、輝が離してくれなかった。

「かがや?」

「ん?」

「もう、大丈夫だよ。」

「うん…。でも、まだ心配だから…おまじない、していい?」

「え?おまじないって…?」

 その言葉に戸惑っている間もなく、輝の顔がオレの頬をかすめたかと思うと、右の耳が噛まれた。

 いや、今回はそれだけじゃなくて、なんかその後も柔らかい感触が続いて、思わず、オレは輝の腕を振り払った。

「ちょ、ちょっと、そこまで!」

「あ、ごめん、やり過ぎた。」

 やっと体を離して見た、輝の顔は、いつもと変わらない、優しい顔で、でもちょっとイタズラっほい表情をしていた。

 ほんとだよ、と輝の胸を軽くたたいて、離れたけど、オレは不思議とこの前ほど動揺してなかったし、嫌じゃなかった。

 席に戻ると、テーブルの上に参考書と問題集が広げてあって、無造作にタオルやペンケースが置かれてて。それを見て、やっと自分がいる場所に戻ってきた気がした。

 そして、それから2人とも、郡司の彼女のことも、郡司のことも、話題にすることはなかった。


 陽が傾いてから、外に出ても、まだまだ暑さが続いていた。

 もう大丈夫だから、とオレが言っても、輝は心配だからって譲らず、オレの家まで送ってくれた。

「ごめんな、暑いのにこんなとこまで。ありがとう。」

「ううん、オレの方こそ、なんかごめん。」

「ちょっと上がって、涼んでってよ。」

 そう言って、オレは玄関を開けると、家の中に向かって、叫んだ。

「ただいま!ちょっと友だちが送って来てくれたんだけど!」

 その言葉に、バタバタと音がして、母親がリビングから、まち姉が2階から、飛び出してきた。

「おかえりなさい。送ってもらったって、みー、どうしたの?」と、母。

「あ、うん、ちょっと気持ち悪くなっちゃって。」

「大丈夫?ありがとうね。暑い中。上がって、冷たいモノでも飲んで行って。」と、まち姉。

 オレが輝を紹介するヒマもなく、輝はウチのリビングに連れて行かれた。

 その後について行こうした時、オレは不思議な感覚に陥った。輝がウチに来るのは初めてのはずなのに、この光景には、何故か見覚えがあった。

 そう思って、立ちつくしていたオレを、まち姉の後に2階から降りてきた2番目の姉、ちい姉が呼び止めた。

「みー、ちょっとおいで。」

 そう言って、オレは客間の方に連れて行かれた。

「どうしたの?何があったのか、話せる?」

「あ、うん。ちょっと気持ち悪くなっちゃったんだ。胃が冷たくなるみたいな感じで。」

「吐いたの?」

「ううん、吐かなかった、かがやが、あ、あの、送ってくれたヤツね。背中撫でて、温めてくれたら、良くなった。」

 そこまで聞いて、ちい姉は少し安心したみたいで、頷いた。

「そっか。よかった。でも、何か食べたりしたの?なんでそんな風になったか、わかる?」

 隠すことじゃないけど、あの時感じたことを言葉にするのは難しかった。

「何かって…いや、何もおかしなものは食べてないんだけど。かがやの声が、いつもと違って聞こえたんだ。そしたら、急に気持ち悪くなって。あ、でもアイツは何もおかしなことしてないんだよ。かがやがいなかったら…。今も、大丈夫だって言ったのに、送ってくれたし。」

 別にちい姉は、誰のことも責めてる訳じゃないのに、なんかオレは必死で言い訳してるみたいだった。

「わかってる。彼のことはこの後、私かまち姉が車で送ってあげるから、心配しないで。」

 オレの方がとっくに背は高くなっているのに、ちい姉は少し背伸びして、ぽんぽんっとオレの頭を撫でた。

「で、もう一度聞くけど、もう大丈夫なのね。彼と、かがやくんと話してても、もう平気なんだね?」

 そう言われて、オレは驚いて、言い返した。

「そんなの、平気に決まってる。かがやはオレの…!」

 オレの?その先、なんて言うつもりだったのか。友だち?イヤ、違う、なんかもっと…じゃあなんて?

 言葉を飲み込むように黙ったオレを、ちい姉は少しの間、心配そうに見ていたけど、もう一度オレの腕を撫でて、言った。

「わかってる。大事なお友だちなんだね。」

「う、うん。そう。」

 ちい姉はそれ以上、何もきかなかったし、オレも何も言わず、みんなのいるリビングに入った。

 輝はリビングのソファに座って、まち姉の隣で冷たい麦茶を飲んでいた。

「え、麦茶?お母さん、コーラなかった?」

「あら、コーラの方が良かった?」

「あ、いえ、これでいいです。もう、帰ります。」

 輝が遠慮して、立ち上がろうとしたのを隣にいたまち姉が制した。

「いいじゃない。車で送って行くから、ゆっくりしてって。何なら、ご飯食べてって。」

「あ、それいいじゃない。そうしてよ。」

 ちい姉もそれに続く。

 そこに母親がコーラを入れたグラスを持ってきて、輝の前にあった麦茶のグラスと取り替えた。

「保里君だったわよね?おばさん、お家に電話するから、ホントに、ご飯食べてってちょうだい。みずきも喜ぶから。ね。」

 輝がオレの顔を見てきたから、オレは思い切りの笑顔でクビをブンブン、縦にふった。

「そうして、かがや。」

 輝がちょっと申し訳なさそうに、でもはっきりと嬉しそうに笑って、頷いた。

 

「すみません、こんな遅くまで。ご馳走さまでした。ご飯、美味しかったです。」

 玄関先で、礼儀正しく頭を下げて、輝はまち姉が運転する車に乗り込んだ。

「こちらこそ、遅くまで引き留めて、ごめんなさいね。またきてね。」

「ホント、ありがとな、かがや。また明日。」

 母親に続いて、そう声をかけて、オレは輝を見送った。

なかなか話が進まないのと、展開的に切れなかったので、思い切って、投稿する量を増やしてみました。いかがでしょうか。

もうちょっと、シャープな展開になるといいんですけど…。

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