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事件・回想〜いち兄

幼さと若さの中間地点、その残酷な時代。

幼稚と無知から発動される暗いエネルギー、人が人を傷つけていく。

※メンタル的にイジメの表現が出てきます。苦手な方はご注意ください。

金曜日の夜遅く、帰宅してから、鞄に入れっ放しだったスマホを出すと、何件かのメッセージの中に、瑞稀からの「明日、時間あったら、ちょっと相談したいことがあるんだけど。」というのを見つけ、即、『OK』 と返し、その後、明日の自分の予定を全てキャンセルした。

 着信もあったのに、研究室にいる間、スマホを見る時間がなかったことが悔やまれる。

 この「相談したい」はオレにとってはずっと、最優先事項だ。

 しかも、もう1年以上も前のことになるが従兄弟の瑞稀の様子がおかしいらしい、と母親から聞かされて以来、その重みは増す一方だ。

 瑞稀は生まれた時からずっと、オレと弟の匠、母親、親戚一同にとって、アイドルのような存在だ。

 その瑞稀が部屋から出てこない、食事もろくに取らない、どうした?と聞いても話すことがおかしい、記憶が混乱しているみたいだと聞かされて、すぐには信じられなかった。

 何故なら、その数週間前には瑞稀が第一志望のS校に合格したのを二家族全員で祝ったばかりだったから。

 中学の卒業式まで後少しのところまできて、一体何があったのか。

 弟の匠と瑞稀の様子を見に行こうとした日の朝、2人が尋ねてきた。

 瑞稀の友だち、保里輝と田宮希良。

 玄関に並んで立っただけで、家の中がキラキラするくらいのイケメンコンビだが、その日は2人とも闇落ちしたような暗い顔をしていた。

 この2人とは、瑞稀と一緒に勉強を見てやったことが何度かあったから、顔馴染みだったし、尋ねてきた理由もなんとなく、想像がついた。

「みずきのことかな?今日来てくれたのは。」

 オレの部屋に入ってもらって、母親が飲み物を置いて出て行くのを待って、オレから切り出した。

 2人は顔を見合わせて、頷いて、輝の方が先に話し出した。

「すみません、突然お邪魔して。みずき、どうしてますか?オレたち、会いに行けないんです。っていうか、オレたちのせいなんです。」

 膝の上で握り締めた拳が震えている。オレより先に、匠が彼らの近くに寄って、上から震えてる手を握って、声をかけた。

「それ、多分、君たちのせいじゃないよな。ほら、ちょっとお茶でも飲んで。ゆっくりでいいから、何があったのか、知ってること、教えてもらえる?」

 話している間、2人とも泣き出すだろうと思って見ていたが、気丈にもこらえて、きっとここに来るまでに2人で話し合い、何度も頭の中で考えて、まとめただろう話を整然と話してくれた。

 その話にオレと匠は驚き、呆れ、最後に怒りが込み上げてきた。

 一言で言ってしまえば、イジメとしか言えないことだった。(そんな簡単には言いたくはないが。)

 被害者が瑞稀、加害者はなんと、この2人の熱烈なファンをを自認する女子数人だという。

 2人と瑞稀は中学1年の時に同じクラスになった。何がきっかけかは本人たちも、覚えていないというが3人、意気投合していつも一緒にいるようになったという。

 しかし、この2人はとにかく目立つ。

 いつのまにか「きらきら」などと勝手にユニット名みたいなものもつけられて、学校だけに留まらず、地元の有名人みたいになって行った。

 そんな2人の間に瑞稀がいること、何人かのファンの女子には、それが許せなかったらしい。

 1年の時から、瑞稀はちょっとした嫌がらせをされていたという。

 でもそれはまだ、かわいいもので、2人のどちらかが出ていって、何か言えば、しばらくは収まった。瑞稀も気にしてないと言っていたらしい。

 2年になって、瑞稀だけクラスが分かれて、少しは落ち着くかと思ったが、これが逆効果で、クラスが違っても、2人が瑞稀を呼び出し、何かに付けて一緒にいたこと、修学旅行での班分けがクラスを超えて組まれることになって、そこでも3人は当たり前のように同じ班になったこと。

 中学生の男子の当たり前の行動だと思うのだが、それらが女子たちの中に溜まっていったのだと思う、と、輝は冷静に話してくれた。

「オレたちがもっとちゃんと、何とかしていれば良かったんです。」

 そうは言っても、中学生の2人に何が出来たというのだろう。

「そんな風に思っちゃいけない。君らは、何も悪くないんだよ。」

 最後まで聞かずに、思わずオレはそう言った。

 決定的なことは、3人が揃って、しかも中学から3人だけが、県下一の進学校、S校に合格したことだったという。

 瑞稀は元々は頭の良い子だけど、あまり勉強することが好きじゃない。

 子どもの頃からやっているテニスが大好きで、中学2年の初め頃までは、テニスの推薦で高校に行きたいと、本気で言っていた。

 それがある目標が出来たことをきっかけに、勉強するようになって、ぐんぐん成績が上がり、結果としてS校に合格したのだが、ふざけたことにそれを奇跡だとか、きらきらの2人と一緒にいたいから無茶したとか言うヤツらがいたと言う。

 そして、合格発表から何日か経ったある日の放課後、その女子たちが瑞稀を呼び出し、事件は起きたという。

 2人は最初からその場にいた訳ではないから、瑞稀が言われた全てをわかっているわけじゃない。

 でも、郡司という瑞稀の幼なじみに知らされてから、探し出して駆けつけた時にはもう、瑞稀は頭を抱えてうずくまっていたという。

 そして、数人の女子がそんな瑞稀を取り囲み、見下ろしていたらしい。

「みずき!って声をかけても、何の反応もなくて。やっとオレたちを見たと思ったら、焦点の合わない目で『誰?』って。」

 輝がそこまで話して、力尽きたように肩をおとした。

「みずきの様子がおかしいことは、見てわかるくらいで。オレたち2人、保健室に連れて行くのがやっとで。保健室の先生に、帰るように言われて、仕方なく帰ったのが、みずきを見た最後で。」

 希良が後を受けて続けてくれたが、彼も辛そうで、見ていられなかった。

「なんだよ、それ?」

「それ、保健室の先生以外には話したのかな?」

「オレたちの担任の先生には、話したんです。その先生はオレたちの話をわかってくれて。でも、それ以上、何も出来なくて。学年主任には、もうすぐ卒業なんだし、って…」

 希良は怒りを堪えて、つぶやいた。

「みーは何を言われたんだろ。」

 匠がボソッとつぶやいた。

 輝が一度深く息を吸って、それに答えた。

「『なんで樺沢くんが2人と一緒にいるのよ』って。『そこにいちゃいけないってわからないの?』って。近くまで行った時にそんな言葉が聞こえて。」

 オレは思わず、輝の肩を抱きしめた。

「もういい。もういいよ。良く話に来てくれたね。」

 匠も希良の背中をなでていた。

 

 その時のことを考えると、未だに怒りで震えるくらいだ。

 2人が話しをしたという担任の羽田先生と、保健室の入江先生はその後も3人の力になってくれたし、入江先生の紹介で3人とも心療内科にかかることが出来たものの、卒業間近だということで、それ以上、学校は何もしてくれなかった。

 瑞稀はその後、心療内科での治療や、オレたち家族が支えて、なんとか心のバランスを取り戻し、高校にはひと月遅れて入学した。

 ただ、記憶のが混乱はなかなか回復せず、特に希良と輝、その周りのことについては、今もまったく忘れてしまったままだ。

 2人はそれに深く傷つきながらも、受け入れて、今、友だち関係を再構築しようとしてくれているという。

 それでも、希良と輝の2人は、今は一緒にいないようにしているという。

 瑞稀だけじゃなくて彼らも未だに傷を抱えているのだと思う。

 明日、瑞稀の口から、新しい友だちの話を聞くことが出来るといいのだけれど。

 

 輝と話してから少しして、期末試験の結果が出た、その週末。

 オレは従兄弟の兄ちゃん、いち兄に相談したいことがあると言って、時間を作ってもらい、出かけて行った。

 高校受験から始まって、今も試験の度に、勉強を見てもらっている7歳年上のこの従兄弟は、樺沢一族、始まって以来、最高の秀才と言われていて、今はT大理系の大学院生だ。

「おう、どうだった?今回は。」

「うん、おかげ様で、まぁなんとか。」

 そう言いながら、試験結果が書かれたプリントのコピーを手渡した。

「どれどれ。おー、いいじゃん。どうした、これ?古文、漢文も、ずい分よくなってるけど。」

「あー、それ、文系でT大目指してる友だちと一緒に試験勉強して…。」

 オレの言葉を最後まで聞かずに、いち兄は立ち上がって、オレの頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。

「友だち?一緒に試験勉強?お前にそんなのが出来たとはな。兄ちゃん嬉しいぞ。」

「いや、なんだよ、それ。」

 その手からなんとか逃げて、オレは体勢を立て直す。

「樺沢家は陰キャの家系だからな、悲しいことに。だから、あんな、俺さまキャラだらけの進学校で新しい友だち作るなんて、ハードル高すぎだろ?」

 兄ちゃんはわかるぞ、と勝手に納得したように頷く。

「確かにそうですけど、なんか、共感したくない…。」

「なんでよ。大先輩に向かって、失礼だぞ。」

 そう、いち兄こと、従兄弟の樺沢以知はオレと同じS高からT大に行ったこの地方では超のつくエリートなのだ。

「だって、たく兄は陽キャじゃん。」

「あいつは突然変異種だからな。変人だし。同じ畑で育ったとは思いたくない。」

 たく兄とはいち兄の弟だ。やはりS高だったが、オレの3歳上なので、入れ違いに卒業していった。

「みーちゃん、今日はご飯食べてくわよね?」

 ここでもまた、ノック無しにドアが開いて、2人の母親、つまりはオレの叔母さんが顔を出した。

「おかあ、ノックしろよ、オレとみーがキスしてたら、どうしてくれるんだよ。」

「えぇ?何それ。」

 なんの例えだよ、とクレーム満点の顔をして、いち兄を睨んだ。

「あら、いいじゃない。お母さんに遠慮することないわよ。で、食べてくわよね?」

「あー、えっと…何も言ってこなかったんで。」

 遠慮がちにそう言っては見たが、押し切られることは分かりきっていた。

「春さんになら、おばさんからラインしとくわよ。みーちゃんくるっていうから、おばさん、張り切っちゃったのよ。ウチの子たち、もうあんまり食べてくれなくなったから。」

 え?そうなの?この前、いや、先月来た時には、結構な食べっぷりでしたが。

「まぁ、比較の問題だな。」

 オレの疑問を読み取ったのか、いち兄がそう言った。

 ちなみに、春さんとはオレの母で、この家の父親とオレの父親が兄弟なんだけど、何故か嫁同士が仲の良い姉妹のようで、家が近いこともあって、しょっちゅう行き来している。

 あと二人、東京に住む末っ子の叔母さんと、一番上の伯父さんがいるが、父方の兄弟、みんな仲が良く、オレたち従兄弟も、昔から兄弟同様に育ってきて、今でもオレは、兄ちゃんたちを頼りにしているのだった。

やっと、事件まで行きつきました。

暗くて、申し訳ありません。

これからも色々あります。もちろん、楽しそうなこと、キュンキュンすることも書いていきますが。

ちょっとツラいこともあるので、苦手な方は避けてください。

よろしくお願いします。

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