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5話 というよりも

「やっほーっ!! 景気はどうですか!?」

十冊程の本を抱えて、女の子が本棚の影から現れた。

「景気はいつだってよろしくは無いだろうね、千鶴子ちづこ君」

「またそうやってぇ。あんまり周りくどい言い回しばっかりしてると、頭がこんがらがっちゃうよ?」

「よっ」と、軽く勢いをつけて本を置く。かわいいというよりも、美人という印象だった。この人が千鶴子さんか。

掃除でもしていたのだろうか、上下青のジャージで、髪を後ろで束ねていた。

それでも似合うところが凄い。この人だったら何を着ても似合いそうだ、と思った。

「心配無用だ。それに君にとっては残念な事に、どうやら周りくどい言い回しを好む人間がもう一人増えたらしい」

「へぇ。誰?」

「もちろん茉莉君だよ」

「あら貴方が茉莉君ね、よろしく。心配しなくても、別に回りくどい言い回しが嫌いな訳じゃないのよ?」

「はい、よろしくお願いします」

……うーん、そんなに回りくどいかな。回りくどいのは思考だけだと思っていたけど、言葉に出してしまっていたかな?

「で、どうだい茉莉君。千鶴子君の第一印象は。さっき散々体をのっとられたから、ある意味第二印象だけど」

自分の言い回しが回りくどいかどうか考えていたせいで、いつの間にか、後から考えると恥ずかしさで悶絶しそうなセリフを吐いてしまっていた。

「うん、まあ、かわいいというよりも、綺麗って感じがする」

「やだー、何それ? 褒め殺し? 褒め殺しなの?」

「……。あまり千鶴子君を褒めない方がいいと思うよ。直ぐに調子にノるからね。それにそういう所だよ、何々というよりも、何々な感じがする、とか、「普通は」きっと余り言わないと思うよ」

ああ、なるほど。

「そうですか? 僕も結構使いますけど」

「いや、だから頴娃えい君もこっち側の人間なんだよ」

「ええ!! 三対一? 絶対絶命!? 奮起せよ私!!」

「……まあ分かると思うが茉莉君、彼女も彼女で言葉遣いにしろ行動にしろちょっとばかりおかしいからね。私の言った意味が分かって来たかい?」

まあ確かに。「普通」の人間はどういう訳か【此処】にはいないらしい。

「え? 何を言ったのあなた」

「別に何も」

「ええ!? 二人だけのシークレット? お盛んだなあもうっ!!」

「……」

ここでは栞はスルーを選択した。僕も同様に。頴娃君もまた、周りに合わせたのかどうなのか、黙っていた。


「……あ、そうだ千鶴子さん、頼んでいた本は見つかりましたか?」

頴娃君が言った。

「ごめんね。まだ見つかってないのよ。この図書館は広すぎて、思わず脱いでしまいそう」

「……探してくれるだけで十分です。ありがとうございます」

「あれスルー? あ、その本はちょっと関係ありそうかも、と思った本だから」

言いながら持ってきた本を指差す。

「ああ、わざわざ有難うございます」

「あとね、あとね、あとね、誰も見てないと脱ぎたく――」

「ならない。そうだ茉莉君。千鶴子君について一つ大事な説明を忘れていたよ。彼女は変態なんだった」

「失礼ね!! そんな事無いわよ!! 私は少し露出のがあるだけで……」

「失礼じゃ無い!! そう思うんだったらせめて全否定してくれ!!」

「全裸は否定しないわ!!」

「言ってない!! 何だ君は、遅い思春期か? ここには頴娃君も、ましてや今日始めて会う茉莉君もいるんだから、少しは自重してくれ」

「なら二人の時はいいの?」

「よくない」

「ほらあ」

「ああもう!! めんどくさいなあ千鶴子君、君は!! そろそろ行くよ、茉莉君。今日は他にも色々と回らないといけないんだから」

さっきから二人の会話を呆然と見ていたが、促されて僕は歩き出した。

「またね、茉莉君」

「ではまた、茉莉さん」

それぞれの見送りの言葉を聞きながら、僕達は図書館を後にした。


去り際に千鶴子さんが、

「あなたからの「めんどくさい」は、ある意味褒め言葉よ?」

と言い、それに栞が

「ああそうかい」

と呟いたのを見て、意外と二人は仲が良いんではなかろうか、と思った。


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