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2話 違和感ー01

「あら!! あらあら!! あらあらあら!! あらあらあらあら!! 凄くない!? 凄くない!? この体目茶苦茶動かし易いわ!!」

……僕はただ絶句していた。

否、実際の所僕の口は、現在進行形で随分と動きまくっているのだけれど。

「あらあらあらあら五月蠅いよ、千鶴子君」

「だってだって、これが興奮しないでいられる訳ないじゃない? こんなにフィットするなんて、いやーん、もしかして運命の人かしら?」

「いやーん、て君ね。馬鹿じゃないのか? 今時そんなせりふが聞けるとは思わなかったよ。それも男の口から」

いや僕が言ってるんじゃなくて、と弁解しようとしたけど僕の口はもちろん動かなかった。

でも僕の意思とは反対の言葉ならどんどん喋る忌々《いまいま》しいこの口。

否、今の状況がどういうものなのか、だいたいの所は分かってきている、本当は。

「男の子が言うからいいんじゃない」

「その解釈は実に理解に苦しむね」

「なら女の子が言ったらいいの?」

「誰が言っても大抵は気持ち悪いと思うよ」

「そんな事無いわよー、ちょっとあなた言ってみてよー」

「断る」

「いやいや、絶対似合うから、言ってみてよ」

「断る」

「連れないなー、ねー、えーと、まつ、まつ、そう!! 茉莉君も似合うと思うよね!? って、今喋れないんだったわね」

自分でやっておいて何を言ってるんだ、この千鶴子って人は。

どんな【能力】かは知らないけど、概要としては人を支配できるらしい事くらいは分かる。まったく物騒な【能力】だ。

でもからかわれたままというのは少ししゃくだったので、無理だと知りつつも喋ってみる事にした。

「……いやまあ、個人的には聞いてみたいけれど……てあれ?」

声が出せた? 余りにもスムーズに喋る事が出来たので、一瞬千鶴子さんの【能力】が解けたのかと思ったが、栞の意外そうな(無表情な彼女にしては珍しく、はっきりと驚いていた)顔と、その直ぐ後に続いた僕、もとい僕の声帯を使った千鶴子さんの声でそうではない事が分かった。

「嘘でしょ!? もう喋れるの!? やっぱり聞いてみたいよね?」

「いや、嘘も何も、喋れるけれど、ていうかあれ? 体も動かせるぞ」

「ええ!? 私の【能力】が弱ってきたのか、それとも彼の抵抗力が強すぎるのか、どっちだと思う? あと彼もああ言ってる事だしいやーん、って言って」

彼女もしつこいな、まあ実は僕もかなり聞いてみたいんだけど。

「言わない。多分その両方だよ。千鶴子君がいつも言っている「充電」とやらが切れて来たんじゃないかい?」

「そうかなぁ、そんなに使ってないと思うんだけど……あとどうしても言って」

「どうしても言わない。だから「両方」だって言っただろう? 茉莉君に一気にもって行かれたんだよきっと」

「えー、ちょっと吸わないでよ私の【能力ちから】。何て破廉恥はれんちな人なの?」

「いや知らないよ。僕何もしたつもりないし、勝手に入って来たのはそっちだろ?」

「勝手に入って来たなんてっ……。貴方の方から誘ったんでしょっ……」

「そこだけ聞いたら誤解を招きかねない言い方はやめてくれ、誘ってないし」

「酷いわ!! そんな言い方って無いっ!!」

いやいや。仕方ないなあもう。

「悪かったよ、謝るから」

「悪いと思うんならいやーん、って言って!!」

「言わないよっ!!」

ていうかさんざんもう僕の「声」では言ってるだろうに。

「あ、やばい。マジで限界。茉莉君、貴方色々と興味深いわ。これからよろしくね」

急に真剣な口調で言う千鶴子さん。もとい僕。

「あ、はあ、どうも」

と間抜けな一人ごとを言った所で、どうやら千鶴子さんは出ていったらしい。明確な違いがある訳ではなかったが、それは何となく分かった。


「…………やれやれ」

「疲れたかい? 茉莉君?言っておくけど【此処】にはまともな人間はいないよ、私も含めてね」

そうなのか。そこで自分も含める所がらしいというか。

「【此処】はどういう所なの?」

――――――そんなのどうでもいいだろう?

あれ? 今のは何だ? 栞が何か喋ったのでもなさそうだし? あれ?

……まあいいか。


「栞、さっきの千鶴子さんの事だけど、【能力】って【充電】できるものなの?」

「まあ普通は出来ないだろうね。でも例えば、あくまで例えばだよ?【代償】として血を流せば流すほど、【能力】が使える人がいたとしよう。その人が自分を傷つけるのはこれはある意味充電と言えなくもないだろう? そういう事だよ」

「ええ!? じゃあ彼女の【代償】は何なの?」

「それは私も知らない。聞いても教えてくれないし。そんな事よりも次の人間の紹介に移ろう」

「え、ああ、うん」

そんな事という程簡単に片付けていい問題なのかそれは? と僕は少し思った。


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