2章 図書館 1話 チヅコ
「ほら茉莉君、ここが図書館だ」
…………まあ。
まあいいのだけれど。何故最初に図書館に連れて来るのだろう。この部屋が一番近かったというのならまだ分かるのだけれど、結構な数の部屋を素通りして、栞は真っ直ぐにこの部屋に僕を連れて来た。何か考えでもあるのだろうか。もっとこう、生活に直接関係のある場所から案内するものなのではないだろうか。例えば食事を取る場所だとか。まあ普通どうするかなんて知らないし、どうでもいい事なのだけれど。そんな風に色々考えていた僕の顔を見て何かを感じたのか、栞は
「他の人間と違って、この部屋の持ち主はかなりの確立で部屋にいるからね。君も無駄足を好んで踏みたくはないだろう?」
「それは……まあ」
「「ちなみに、ここを支配しているのは千賀子よ」」
んん?
何だろう、今とても気持ち悪かった。
「じゃあ、次に行きましょう」
「いやいやいやいや!! 待って待って栞。ここに用があったんじゃなかったの!?」
「……そうだけど?」
それが何? みたいな顔をしないで欲しい。
「とりあえずね、「支配」とかいう単語が聞こえた気がするんだけど」
「言ったけど?」
だから何? みたいな顔をしないで欲しい。
「あと、むしろこれが一番疑問なんだけど、何でさっきから、その、喋り方が変わったのかな?」
「変わってないけど?」
むしろ何? みたいな顔をしないで欲しい。
というか喋り方は確実に変わっているし。何その無駄な嘘。ていうか急に
「会話が淡白すぎやしないか?」
「そうね?」
「………………」
「………………」
何か疲れた。もういい。このまま次の場所に行きたいというのなら、それでいいや。
「……じゃ、次の部屋に案内してくれる?」
と僕が聞いても反応が無かったので怪訝に思った。
「……千鶴子君。いい加減にしないと怒るよ」
「えー、いいじゃない。この子新入りでしょ。今の内に楽しませてよ」
「断る」
「いつもいつもつれないなー、あなたは」
「知らないよ。そんな事は。遊ぶのだって別に私を使う必要はないだろう?」
「そんな事ないのよ? 私とあなたは意外と相性がいいらしいわ。動かすのが簡単だもの」
「それこそ知らないよ。だからといって勝手に人の体を使うのはいかがなものかと思うね」
「じゃあ断ったら貸してくれるの?」
「貸さない」
「ほら」
「ほら、じゃない」
「……分かったわよ、仕方ないからもう一つの方を試す事にするわ」
「別に私は止めないけどね、いきなり嫌われても知らないよ」
栞の一人芝居がようやく終わった。
どういう風に反応すればいいか困っていると、栞の方から話しかけてきた。
「あー、茉莉君。気をつけた方がいいよ」
「え?」
「もっとも、気をつけようがないんだけれど。彼女の【能力】はある意味で反則的に強いから」
「彼女? って事はさっきのは栞の一人芝居じゃなかったの?」
「そんな訳がないだろう。あいにく私はそんな愉快な人間じゃない」
「……」
あれ? おかしいな。上手く喋れない。
というか、さっきから体が上手く動かせなくなっていた。突然に。